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one anther【新坂】
坂道くんが明早大に進学している類いの未来捏造。
推理小説好きな新開さんとアニメ好きな小野田くんの交流。

新開さんの誕生日をからめようかと思いましたがややこしくなりそうなのでやめておきました。

タイトルでわかる人にわかってもらいたい。

ゾンビアニメを泉田くんに薦める坂道くんの話も読んでみたいなあ。


++++++++++++++


その場所で二人が鉢合わせをしたのは
偶然ではなく必然だったのかも知れない。

梅雨入りしてからというものぐずついた天気が続き、
新開が所属している自転車競技部では室内練習が主になっていた。
多少の雨ならば外を走ることも出来なくはないが
視界が悪く、長く雨に当たると体調を崩す懸念もあったため
自主練習であってもほどほどにとの通達があった。

そんな中での休養日。
新開は、独り本屋に足を運んだ。

高校時代は寮に住み、大学に入ってからは独り暮らしを始めたため、
基本的に本は図書室や図書館で借りることが多かった。
だが新開が好んで読むのは推理小説であり、
学校付属の施設では一般的な小説よりは品揃えはあまり良くなかった。
さすがに人気作ぐらいは置いてはいたが、
マニアックなものは壊滅的だ。

ネットに情報が溢れる昨今、
下手に検索してネタバレされることを避けるため事前に情報を入手することはせず、
以前読んで面白いと思った作家の新作や
題名や装丁や粗筋、帯の推薦文などから好みに合いそうなものを厳選する。
ベストセラーになっているものを避けたのは、しばらく待てば借りれそうという打算もあった。

上質なミステリは犯人がわかっていても面白く読めたりはするのだが、
読み進めるうちに真相に気付き、
最後まで読み終えたらもう一度頭から読み直す、とした方がより深く楽しめる。
犯人だけ先にわかってしまってはその醍醐味が味わえないため、新開はネタバレを忌避していた。
新開が、というよりは世のミステリファンの総意であろうが。

保管場所の事を考えるなら電子書籍にした方がいいのかもな、けどやっぱ紙の本は魅力的だよな、
などと考えながら何冊か手に持って会計に向かおうとしたところ、
何気なく視線を向けた、併設してあるレンタルDVDの棚の間に、後輩の姿を見つけた。

小野田坂道。
新開より二学年下で、この春晴れて大学の、そして部活の後輩になった、
高校時代のライバル校のクライマーである。

二年前、新開にとって高校最後の大きな試合だったインターハイで総合優勝を勝ち取った小柄な青年とは
スプリンターの新開は接点があまりなかったが
互いに名前と顔を知っていたため大学で接点が出来てからは急激に親しくなった。

元来人付き合いが苦手な小野田は、知人のいない新しい環境に戸惑っていた。

自転車競技部での顔合わせの際の様子から福富と新開の事は覚えていたようだが
二人は長年王者として君臨してきた箱根学園の元主将とエーススプリンターであり
小野田は彼らをその王座から引きずり下ろした張本人だ。
試合のあと直接会話をしなかった事もあり、小野田は遺恨があるものと思い込んでいたようだったが
嘘を吐くことを不得手とする福富が素直に当時の事を称賛し
新開が頼もしい後輩が出来て嬉しいと口にすれば
照れて恐縮した後に花が綻ぶように笑い、
以降、垣根は取っ払われたようだ。

もっとも、最初に小野田が畏縮していたのは
福富が何を考えているのかわかりづらい鉄面皮でやたら重い声を響かせ話し掛けたからだろうとは
新開はうすうす気付いていた。

コミュニケーションがあまり得意ではない巻島にあっと言う間になついた前歴がある小野田が
確かな実力のある福富や新開に尊敬の念を抱いて態度が軟化するまでにはそう時間はかからなかった。

元元インターハイ優勝の実績があった小野田は入部当時からいい意味でも悪い意味でも注目されていたが
言葉足らずな福富の言いたいことを懸命に理解しようとする姿や
気さくな新開の態度に戸惑い照れながらも応じる様子に
福富とは別の意味で真っ直ぐすぎる性格だと
他の部員達はあっさりと色眼鏡を外した。

新開は、そんな小野田と大学内で一番話をしているのは自分だと自負していた。
そのため小野田がアニメオタクだと言うことはとっくに知っている。
新開の見立てでは小野田が一番生き生きするのは誰かを褒めるときとアニメの話をする時だ。

案の定小野田が立っているのはアニメーションDVDのレンタルコーナーで、
手には既に借りるつもりだろうディスクを持っていた。
その枚数を見て、新開は思わず近寄り
「そんなに借りるのかい?」
と、少し屈んで耳許で問い掛けた。

「っ?!」
「っと危ない。
悪い、坂道くん」
「新開さん?!
あ、ありがとうございます」
驚いた拍子にばらまきそうになったDVDを支えて貰い、
小野田は相手の姿を確認すると名前を呼んで礼を告げる。
「いやいや。驚かせたのはこっちだから。
ごめんな、坂道くん」
不意打ちだったとは言えそんなに派手にリアクションされるとはなあと不思議に思っている新開は
自分の声の持つ破壊力にはまるで気づいていない。

「い、いえ。
あ、これは、一気に最後まで観たいので、大人借りといいますか。
明日は何の予定もないので、その」
「へえ」
新開はしどろもどろであっても律儀に質問に答える小野田を微笑ましく見つめ、ふと、手元に視線を移した。
「……ええと、それは、これかな?」
持っているDVDの題名に首を傾げ、
棚から一巻のパッケージを見つけ、抜き出す。

「ホラー、だよね。
こういうのも観るんだ。
なんか可愛いアニメが好きだったように記憶してたけど」
「ハイ! アニメに関しては好き嫌いありませんので!
あっラブ☆ヒメは別格ですが!
夏なので、なんとなくホラーが観たくなりまして」
「まだ梅雨だけどね。
まあ蒸し暑いし向いてるかな。
そうか、これ、アニメになってたのか。
映画になったとは聞いたことあったけど」
パッケージを見たまま何かを呟く新開に、小野田は首を傾げる。
アニメはあまり観ないと言っていた新開が何に引っ掛かっているのかわからなかった。

「あの、新開さん?」
「坂道くんはこれ観たことあるの?」
「え? あ、いえ、放送当時一話を録画しそびれてしまいまして。
今まで観る機会を逃してたんですよね。
いつかちゃんと観ようとネタバレは見ないようにしてたんですけど」
「今から自分の家で観るんだよね?
オレも一緒に観ちゃ駄目かな?」
「へ? えっ?」
「オレ、この作者の推理小説が好きでね。
ホラージャンルとして発表された作品もミステリ要素があったりするから全部読んでるんだ。
この作品の原作も読んでる。
どんな風に映像になってるか興味あってさ」
「あっ、成程! そうなんですね!
大丈夫です! 一緒に観ましょう!
……あ、でも」
はっと何かに気付き、小野田は「スミマセンやっぱり」と断ろうとしたが、
「なんだったらウチでもいいけど?
プレイヤーもあるし。
確か坂道くんの家とそんなに離れてなったよね」
「え、は……それなら……新開さんのおうちなら。
けど、いいんですか?」
「いや。考えてみたらいきなりお家にお邪魔したいなんて不躾もいいとこだったよな」
「い、いえ。いつでも誰かをお招きできるようにしてたら断りませんでした!」
坂道の部屋は、どうせ誰も訪ねて来ないだろうと趣味全開にしていた。
掃除などはしているがさすがに少し片付けなくては気恥ずかしい。

「なら、機会があったら坂道くんの家にお邪魔させて貰っても良いのかな?」
「それはもう!」
「有り難う。
じゃ、このレンタル料金はオレが出すよ」
「それは駄目です!
もともとボクが借りるつもりのものなんですから!」
小野田が折れたくない部分は頑として折れないタイプの人間だと、長くない付き合いながら理解している新開は
「なら、観ながら食べたり飲んだりするものを途中で買っていこうか。
それを全部オレが持つって事で。
多分オレの方がたくさん食べるしね」
と妥協案を提案した。
「でもおうちにお邪魔する上にそれじゃ、」
「無理言ったのはオレだからそこは譲って欲しいかな。
先輩のメンツもあるしさ」
「……わかりました。
お言葉に甘えますね。」
不承不承頷いたかと思ったら、納得した小野田は、へにゃりと笑った。

「なんか、楽しいですねこういうの。
新開さんは先輩ですけど、友達のやり取りみたいです」
「そうだな」
予想外の変わり身に新開は内心驚きながらも
福富が教えてくれた、金城が小野田を意外性の男だと言っていた、との言葉を思い出す。

てっきりロードバイク初心者が故の発想の柔軟さの事かと思っていたが、
むしろ普段の行動の方についてだったのかと認識を変える。
けどそれは、不快に感じるものではなく、
むしろとても好感が持てる類いのそれだった。

自転車で来ていたのだという小野田に付いて駐輪所に行ってみると
そこには部活で使っているロードバイクではなく、年期が入った、世間一般でママチャリと呼ばれる形の自転車が停められていた。

子供の頃からずっと乗っていたのだというそれは
小野田を自転車競技者向きに育てた立役者なのだろう。
練習としてではなく、自分の力だけで行きたい場所に運んでくれる、夢のような道具。
小野田が千葉にある自宅と秋葉原の往復を自転車でしていたというエピソードは耳にしていたが
実際に実物を目にしてみるとそれが真実だったのだと思い知らされ圧倒される。
小野田が嘘を吐けるような人間ではないとわかってはいたが、
絵空事のような経歴に信憑性が感じられずにいたのは確かだ。

けれど、大事そうに愛車に触れる小野田の姿に、
新開は忘れかけていた何かを思い出せた気がした。

誰かと競う事も楽しい。
レースで勝てたら嬉しい。
けれどもっと根底に。
速いスピードで自転車を走らせることの歓びがあったはずだ。
そこに在るのに、ずっと自分の中にいたのに。
いつからか、気にしなくなっていた。

高校の後輩である真波も自転車に乗るのが楽しいと全身で表していたが
何故だか小野田の方がよりダイレクトに新開に衝撃を与えた。
ロードバイクではないから、だろうか。

新開は方は徒歩だったため小野田の自転車の前のかごにレンタルしたDVDと購入した書籍を入れ
新開の住むアパートに向かう。
途中コンビニエンスストアに寄り食料を買い込む事も忘れずに。





「随分可愛らしい絵だったけど、それがいい意味でギャップとして作用してた感じだな。
演出も面白かった。
ありがとう坂道くん。君がいなかったら観ようと思わなかっただろうから、お礼を言わせてくれ」

途中、休憩を挟みながらも1クール十二話を一気に観終えると、
新開は満足そうに息を吐き出し、笑顔を向けて感謝の言葉を小野田に伝えた。

二人が邂逅したのは夕方だったが、今はもう日付が変わっている。

「いえ! 楽しんでいただけたなら良かったです!
ボクも面白かったです。
途中で感じた違和感がああいう意味だったのは驚きでした!」
「うん。坂道くんがそういう視点で気づいたのも面白かったな。
しかしこれをアニメにするなんてね。
最近のアニメの事は詳しくなかったけど結構懐も奥も深いんだな」
「はい! ジャンルが多岐に渡っていて幅広いんですよ!」

今になってまでアニメ好きな友人がいなかった小野田は
誰かと一緒に作品を観賞する、などということはしたことがなく、
観ている間中、ずっとふわふわとした心地だった。
アニメーションではあるが結構なホラーで死亡シーンなどかなりエグかったりしたのだが。

隣で観ていた新開は原作を知ってる上でのリアクションで、それもなんだか不思議だった。
ネタバレしない程度に、さりげなく、視聴の邪魔にならないタイミングで原作との相違を教えてくれた心遣いも嬉しかった。

もう同じように一緒にアニメを観る機会がないであろうことを淋しく感じるぐらい、
誰かと、否、新開と一緒に観られたのを楽しく感じていた。

プレイヤーからディスクを取り出した新開は、ケースを持っている小野田に手渡す。
小野田は頷きながら受け取ると、返し忘れがないようにと揃えて確認し、まとめてレンタルバッグに詰め込んだ。

テレビの電源も落とし、次に新開が発した言葉は
「じゃあ、取り敢えず一旦寝ようか」
だった。
「はい! ……はい?」
小野田は、元気いっぱいに返事をした後で言葉の意味が理解できなかったとばかりに首を傾げる。
新開はふわ、と軽く欠伸をこぼすと、
「真夜中だし、それに寝ずに疲れた状態の坂道くんを今すぐ帰らせる訳にはいかないよ。
歩いてにしても自転車でにしても危ないからな。
仮眠でもいいから少し寝ていけよ。
オレも眠い」
そう言って小野田の二の腕を掴んだ。

「いえいえいえ!
今ならまだばっちり目が醒めてますし!
ここからそんなに遠くないですし、大丈夫かと!」
「こればっかりは駄目だよ。
過保護だと思われるかも知れないけど、坂道くんは、オレの大事な後輩だからね。
どうしてもっていうなら送っていってもいいけど、
今から大事な用事があるなら最初から断ってるだろうしね?
ベッドと、寝巻きになるもの貸すから。
あ、シャワーも浴びるかい?」
これは半強制的に寝かせつけられるパターンだ、と把握した小野田はせめてもの抵抗として
「べ、ベッドは新開さんが使ってください!」
と主張した。
「うーん。けど、誰かを泊まらせたことないから客用布団とかないんだよな。
坂道くんはお客さんなんだし、ちゃんと疲れを取らせたいし。
明後日……ああもう明日か、には普通に練習あるしな。
体調管理も大事だぜ?」
「それはそうですけど、じゃあ新開さんはどうするんですか?」
「その辺は適当にな。
それよりあんまり聞き分けが悪いようならこのままベッドに運んで坂道くんが眠るまで監視することにするけど?
……そうだな。それが手っ取り早いか」
「へ? あ、あのっ?!」
新開は立ち上がると小野田を横抱きに抱え、そのまま寝室へと運ぶ。
「坂道くん、いくらクライマーとは言え軽すぎないかい?」
「そそそそんなことはないかと!
新開さんが力持ちなんだと思います!
ですけど取り敢えずおろしていただけると!」
「下ろすよ。ベッドの上に。
ついでに上着とズボンも脱がしてあげようか?
そのままだとシワになっちゃうし」
「……自分で脱ぎます……」
小野田は観念して新開の言葉に大人しく従うことにした。

自転車がらみの会話が多かったため気づかなかったが、人当たりがいいようでいて意外と頑固なようだと、
今泉あたりが聴いたら「お前も相当だぞ」と言われそうな事を小野田は考えていた。

新開からパジャマのシャツだけを借り、
自分の体格よりも大分大きなサイズだと余った袖で理解した小野田は
「……着てるのがボクじゃなかったら萌えなのになあ」
と至極残念そうに呟いた。
「何か言ったかい?」
「いえ。
眼鏡、ベッドサイドに置かせて良いですか?」
「勿論」

小野田は枕に頭を置くと程無くしてすやすやと健やかな寝息をたてはじめた。
しょぼしょぼと疲れを滲ませていた瞳を視て予想していた通り、眠気は既に限界だったようた。
あのまま帰らせなくて良かったと胸を撫で下ろす。

あれだけ恐縮していたのに随分と肝が座っているものだと感心も覚えるが、
毎日のようにロードバイクに乗り健康的な生活を送っていたら
多少の徹夜程度であってもすぐに限界を迎えてたとしても無理はないだろう。

新開もそのあどけない寝顔を見つめているうちに睡魔に襲われてきたので、
着ていた服を脱ぎ捨て下着姿のまま小野田の隣に潜り込む。

新開はどうするのかという小野田の質問をスルーしたのは最初からそのつもりだったからだ。
成人男子としては小柄な小野田とならば一緒に寝ても狭く感じないサイズのベッドにしていて良かったとしみじみ思う。

これは、小野田が先に起きても勝手に帰ってしまわないようにするためだと
心の中で誰にともなく言い訳をして。

声を掛けたのも、家に誘ったのも、
親しくなるチャンスになりふりかまわず飛び付いたからだということは
小野田はこの先も気づくことはないかも知れない。

「これで少しでも意識してくれるようになったら御の字かな」

淡い想いが、可愛い後輩に向ける種類のものとは違うものだとは
ロードバイクが恋人だと言って憚らない新開であっても自覚してしまった。
淡い、けれど強い想い。

時として痛みを伴うそれは、けれど新開は嫌いではなかった。
年下の一挙手一投足に心揺り動かされる己の心の動きすら。

日常生活に支障をきたしはしないが、けれど。
片鱗だけでも溢れそうな好意を小野田に伝えたかった。
それが、利己的なものであると知りながら。


日が昇り、眼を醒ました小野田の狼狽の中に嫌悪がまるでないことを感じ取った新開は、
もしかしたら自重する必要はないのかも知れないと、ひっそりと自信をつけた。

後日。

「坂道くん、オレが好きな推理小説が他にもいくつかアニメになってるみたいなんだ。
良かったらまた一緒に観ないかい? 一度に全部じゃなくていいから。
……今度は、坂道くんの家に招いてくれるんだろう?」
「……っ!」

口説いているかのような台詞と甘い表情で誘われた小野田は
顔を真っ赤にして、
「……少し時間をください」
と応えるだけで精一杯だった。


想いを隠すことをやめた新開の猛攻に耐えられず懐柔されるまでには、
互いが思っていたよりも時間を必要としなかった。
| 小話;その他 | 06:33 | comments(0) | - | pookmark |↑PAGE TOP
導火線の友人 【新坂】
新坂なんだけども前半東堂さんと坂道くんの会話。
東堂さん視点。
坂道くん二年生のインハイ後。
後半は楽しくなって長くなった箱学と総北の旧三年生(−巻ちゃん)と坂道くんの会合です。


49巻をうっかり買った結果がこれでした。
(アニメは観てるけど二年目のインハイの原作は読んだり読まなかったりですスミマセン)



+++++++++++++++++++



彼が、怒るだとか反論するだとか、
そういうことをしないタイプだということは
わかっていたはずだった。

彼が俺の高校時代のチームメイトと恋仲になったと知った後、
二人きりで逢う機会があった。

彼――小野田坂道は
俺のライバル――巻島裕介の後輩であり、
俺の後輩――真波山岳のライバルだ。
俺がメガネくんと呼ぶその彼が恋仲になったのは新開隼人で、一体いつ懇意になったのかだとか疑問は尽きないが、それより何より。

「まさかオレ程ではないにせよモテまくって選り取りみどりであろうあの男が
よりにもよっておまえを選ぶとはな。
先の苦労は目に見えるだろうに」

他意はなかった。
いやあったのかも知れない。

初対面で三下と断じてしまった程メガネくんはビジュアル的にも平凡で、
ロードバイクに乗れば存在感が増しはするが
その辺を歩いていたところで誰も振り返りはしないだろう程凡庸だった。
巻ちゃんとの会話で所謂アニメオタクというものだと知ったが、
いかにもそれらしい風貌である。
今着ている私服もセンスが良いとは決して言えず、
いるだけで派手な新開の隣に立つと酷くアンバランスになるであろうことは想像に難くない。

だからおそらくオレは無意識に下に見ていたのだ。メガネくんを。

まぐれで勝てるほど箱学は、真波は弱くない。
それに打ち勝ったことのあるメガネくんが、初心者だったという彼が
ロードだけでなく、登りだけでなく、
一筋縄でいくような人間ではないと
少し考えればわかりそうなものだというのに。

言われたメガネくんはなんとも形容のし難い表情を浮かべた。
似たようなものをつい先日目にしたことがある。

今年のインターハイ二日目の夜。
偶然の邂逅時に彼に放った一言。

「雪辱を果たす真波を見たかった」

それを聴いた直後に浮かべたモノ。
それはイコールメガネくんの敗北を望む言葉であったのだが、
メガネくんは直ぐに真波を持ち上げ、
更には微笑みすらした。

あの時はその心の流れがまるで理解できなかった。
だが今は。

「そうですよね!
新開さんはとても素晴らしい人ですから!
ボクもどうして選んでいただけたのか不思議なぐらいで!」

そして、また笑う。

「東堂さんは、新開さんを心配されてるんですよね。
そういうお友達っていいですね」

ほわりと、穏やかな春の陽射しのような笑顔で、そんなふうにのたまうのだ。

「ボクも、新開さんとお付き合いすることに決めた後に、色んな方に心配していただきました。
主にチーム総北の関係者なんですけど。」
「……報告を、したのか?」

驚いた。
多少は認められてきてはいるが同性愛は未だにマイノリティだし偏見も少なくはないだろう。
と、同時に、メガネくんからきちんと告げられてしまったら
彼の周囲の人々は最初は反対したとしても最終的には祝福し応援すると決めたのだろうと、
幸福そうな彼の様子から推測できた。

「……巻ちゃんにも?」
「はい。手紙で。
お返事いただけました。
新開さんならまあ赦す、と」
「巻ちゃんの判断基準がわからない」
誰までならセーフなのだ。
オレだったらどうだったのだ。
アウトなような気がしないでもそんなことはないよな巻ちゃん!

「東堂さんも新開さんから聴いたんじゃないんですか?」
「いいや。
オレはフクから近況ついでにそう言えばと教えられたのだよ。
新開本人からは何も言われてはおらん!」
口数が多くないフクがわざわざ教えてくれたのは
新開がオレに話していないだろうと見越してだったのか。
秘密にしているわけではないし知っておいた方がいいと思ってな、とまで言っていたぞフクは!

思い出したら腹が立ってきたので少しばかり意地悪をしたくなる。
というか、確認しておきたい。
一応友人のことなのだ。
オレの見込んだ後輩クライマーの事でもある。

「メガネくんは不安になったりはしないのかね」
「不安、ですか?」

きょとりと眼鏡の奥で丸くなる瞳は大きく、
つい残るもう一人の友人である荒北の何倍あるのだろうなと関係ないことが頭をよぎった。
その荒北はちゃんと新開にメガネくんと付き合うことになったと報告されていたそうた。
何故! オレには! 新開!
心の中で新開に抗議していたが、明らかに変化したメガネくんの気配に現実に引き戻された。

「正直、ないって言ったら嘘になりますけど、
ボクは告白された時にさんざん疑ってしまったので、その分
この先、何があっても新開さんの事を信じ抜こう、って、決めました。
ボクのことまで気にかけてくださってありがとうございます、東堂さん」

強い意志をオーラのように身体から噴出させるその姿は、
遠目から視たレース中の時のメガネくんの姿に似て。
本気だとわかって、
そして試すような質問をしたオレに礼までも。

「そうか……。
カッコいいな、キミは。」
年下の相手にそう感じたのは、初めてかもしれない。
「へあっ?!」
「正直ロードから降りたメガネくんの何処に新開が惹かれる要素があるのか心底疑問だったんだが」
「それはまあボクにもわからないんですけどね」
「新開のことだからさんざん褒めそやすように口説いているんではないのか。
ああいやいい応えなくても構わんそうではなくて」
真っ赤になったメガネくんの顔の色が答だろう。
のろけられてはたまらない。

「オレにもわかった気がする。
巻ちゃんがメガネくんを気に入っていた理由も、荒北がおまえを小野田チャンと呼ぶ理由もな。」

素直で正直で愚直。
ひたすら真っ直ぐに。
自己評価がやたら低いのが珠に疵だが。

他人に対して敬意を忘れない。人を、蔑ろにしない。
それは、新開とも共通している部分だろう。
あの男も飄々と己の価値観で他人をプラスに測る。

違うのはその発露の仕方。
メガネくんの凄いです尊敬してますカッコいいです攻撃は、
あの夜喰らったが破壊力抜群だった。
巻ちゃんとの約束がなければ陥落していた可能性があると思い至りだが今はそれは。

「危うく岡惚れしそうになるところだった」
「は? おか……? ええと、なんですか?」
「聞き流してくれ」
わざと聞き慣れないような言葉を使いはしたが口に出したくなった。
さすがに友人の恋人に横恋慕は洒落にならないからしないがな。

「思い止まってくれて良かったよ、尽八」
「……っ新開!」
「新開さん!」
メガネくんの表情が艶を帯びた。
恋をすると言うことはこんなにも目に見えた変化をもたらすものかと驚く。
もう一人の男は憎らしいほどに変わっていないが。

「やあ坂道くん。遅くなって悪い。
尽八に話し相手になって貰ってたのかい? 大丈夫だった?」
「あっはい! 大丈夫です、よ?」
「どういう意味だ新開」
「自分の胸に訊いてみなよ」
ばきゅん。

その仕止めるという合図は明らかに牽制の意味だよな?
盗らんよ友人の恋人など!
このオレが本気を出せば盗れそうではあるがな!
だがそれは新開だけでなくフクや荒北、メガネくんの周囲にも恨まれるやつではないか! 特に巻ちゃんあたりに!
それは割りに合わん!
それも見越して公認の仲にしたんだろうがな。

今日はメガネくんが新開の恋人になった事を祝いたいとフクが呟いた事を荒北が拾い
金城と田所も呼んでうちと総北の卒業生とメガネくんで食事会をすることになっていた。
メガネくんは新開と一旦別の場所、つまりまあ此処なのだが、で待ち合わせをしており
オレは新開を待っていたメガネくんに声をかけ話をさせてもらっていた訳なのだが。

新開が来ることを失念していた訳ではないが迂闊な事を口にしてしまったのは反省している。

メガネくんに好感を抱いたのはあくまで人間としてであって恋愛感情ではない。
目の前の、そこそこの付き合いだというのに初めて視た新開の幼子のように柔らかい表情など
俺には浮かべられんだろうからな。メガネくんのことでは。

会合の中で、オレは新開に感謝された。不本意だが。

「尽八のスタンドプレイのお陰で思いがけず坂道くんの本音が聴けたのは有り難いよ。
彼、あんまり自分の思ってること口に出してくれないからさ」
嬉しそうな声で、だが聞き捨てならない事を言う。
「オレにだけ黙っていたのはわざとか」
「尽八だけにじゃないさ。
オレが教えたのは寿一と靖友にだけだよ。
後輩には、まあおいおいかな」
「真波には早めに教えてやれよ」
「いやあ。けど、ライバルに恋人がいるいないって関係なくないか?」
「その恋人が自分の先輩なら関係ありまくりだろうが。」
「自転車には関係ないだろう?」
「ならおまえの弟にはどうだ。」
「そりゃまあ、言うつもりはあるけど。
長くロードの勝負の世界に身を置いてたら坂道くんみたいな子って稀有なんだよ。
自分のも他人のも名声にこだわらず
だから多分悠人も……
しかも直接対決したからね。羨ましいことに。
もしかしたらオレよりも彼の本質を理解しているかも知れない」
新開はロードレースの世界では有名人だ。オレほどではないが。
だからといってロードの世界をまるで知らない相手とは付き合う気はなかったのだろう。

「ロードが恋人だったおまえには理想の相手なのだな、メガネくんは」
「最初はそんなこと思いもしてなかったけどな。
危なっかしくてつい手を貸してみたら、深みにハマっちまっただけさ」
馴れ初め話など興味がないこともなくなくはないが。

「おまえが倖せでメガネくんも倖せだというのならオレが口出すことは何もないな」

新開はオレの言葉に
「ありがとさん、尽八」
とはにかんだ。
友人が色恋沙汰で一喜一憂する様を見るのはなんというか面映ゆい。

「しかし、メガネくんならば恋人になったおまえのことをどこまでも肯定しまくりそうだな。
巻ちゃんに対してしていたように。
聴いているこっちが驚くほど巻ちゃんの全てを良いようにとらえていたからな!」
「へぇ。
オレは実際に坂道くんが裕介くんを褒めてるのを聴いたことはないんだけど、
そこまでなのか?」
「うむ! 心酔しているのが肌でも感じられる程だな!
巻ちゃんに頼まれたらメガネくんはどんなことにも応じそうな勢いだった!」
「へぇ……」

空気が変わった。
温度が下がった。
新開の眸の色が紅く染まり、
直接目にする機会は今までなかったが、なるほどこれが噂に聞く直線鬼。
いやだが今はレースの最中ではないぞ何事だ。

「我ながら心が狭いとは思うけど、今の話を聞いて妬かない方が恋人としておかしいよな?」
同意を求められ、
「そ、そうだなっ?」
反射的に頷いたが声がひっくり返ってしまった。

「打倒裕介くんか……手強いな」
「何を張り合おうとしているのだっ?!」
「大丈夫さ。坂道くんを傷つけるような事は絶対にしない。
ただオレもどんな要求にも応えて貰えるぐらいメロメロのでろでろに惚れられたい」
「い、いや、あれは言葉のあやで?
そもそも巻ちゃんはメガネくんに無理強いするようなことはしないだろうし」
いやメガネくんは果たして巻ちゃんの要求を無茶だと思うことはあるのだろうかあるのだろうけど何故か想像できない。
「わかってるさ」
本当にわかっているのかはなはだ疑問なのだが?
それはオレも同じか。

不穏な空気に痺れを切らしたのか傍で話を聴いていたらしい荒北が口を開いた。
「東堂ォ。オマエのあの口上考え直した方がいいんじゃナァイ?
特にトークが切れるってとこォ」
「言うな荒北これでも反省している」
反論できないぐらいには。

しかしそこに包容力の塊のような男が口を挟んできた。

「いーんじゃねぇか?
小野田は求められれば求められるほどそれに応えようとする性分の男だからな。
存分に甘えっちまえ」
田所は豪快にがはは、と笑うが。
「それはそれで心配なんだけどォ」
レースの話だよなそれは。
根本は変わらないのか。いや変わるだろう。さすがに。
「ああ。そんなことを聴いてしまったら逆に甘やかしてしまいたくなるな」
荒北は眉を潜め、
新開はというとお互いに頭を下げ合うフクとメガネくん、そしてそれを温かく見守る金城の方に視線を向けて目を細めた。
あれはおそらく新開をよろしく頼むいえいえこちらこそ的なやりとりをしているのだろうな。
成程荒北がフクとメガネくんが似ていると言っていたのに頷けないこともない。
不思議なぐらい微笑ましい光景だ。

「そもそも小野田は普通に接してるだけで勝手に相手の良いとこ見つけるようなヤツだしな。」

「成程巻ちゃんはそれでなつかれたのか。」
到底コミュニケーションが巧いとは言えない巻ちゃんが何故あれほど慕われているか疑問だったが
メガネくんの方に理由があったのだな。
いや巻ちゃんはオレのライバルだけあって悪い男では決してないのだが。
第一印象はあまり良くないタイプだ。
笑いかたは下手だし。
去年のインターハイ優勝の場では、まあ自然に? それなりに? 笑えていたようだが。

「一緒にいる期間が長ければ長いほど惚れ直されるんじゃないか? 新開なら」
「信頼が重いよ迅くん」
「裏切ってくれるなよ新開」
がしっと手を合わせる。

ふと視線を感じて見てみれば、メガネくんが二人を視て嬉しそうに笑っていた。
父親と恋人が仲良くて嬉しい的な。
あれこれ家族会議かなんかだったか?

メガネくんは宣言通りどんな噂が流れても昔あったあれやこれやを聴いても新開を信じ抜いていたが
新開の方はというと意外と独占欲が強かったらしく度度道の上でもないのに直線鬼が現れていたらしい。

それでも巧くやっているようだし末永く倖せになればいいと願う。

……新開に、
「尽八、おまえさんはも少し考えてからものを喋った方がいいぞ」
と釘を刺されたが。
仕方がないだろう自分が知ってるあれやこれやは話したくなるものなのだ。
| 小話;その他 | 18:26 | comments(0) | - | pookmark |↑PAGE TOP
【劇場版ネタバレ】ラストゲームの向こう側【黛火】
黛さん視点。
劇場版ネタバレ全開なので注意。捏造も山盛りです。
作者さん曰く漫画とアニメは別次元らしいですがアニメから入った身としてはこの設定で書いておきたいと思った次第。
黛さんの将来についてはぼやかしてますが黛さんも本気出したらそれなりに選択肢があるものと思ってます。


パンフレットは通常版を購入したんですが黛さんが載ってなくて残念でした。



+++++++++++++++++



話を聞いた時の感想は、思ったより早かったな、だった。

東京の大学に進んだ俺は、火神と知り合い、家に遊びに行く仲にまでなっていた。
それも、結構頻繁に。

父親は未だアメリカにいて、日本で独り暮らしをしていた火神は、
自覚はなかったようだがどうにも淋しかったらしく
家事、特に料理が苦手だと嘆いた俺を食事に誘ったのが事の始まりだ。
俺も黙って甘えてばかりではなく、一緒にキッチンに立って料理を教えてもらったり、
犬が苦手な火神にも容赦なく当番が回ってくる部で飼っているという犬の世話を手伝ったりした。
多分それが火神が俺になついた一番の要因だろう。
旧型の影に似た犬は、見ていると複雑な気分になりはしたが
高校卒業と同時に影もバスケも辞めたのでそれほどは気にならなかった。

インターハイが終わり、どこの高校が優勝しただとか、
アメリカのストバスチームが来日してイベントが行われ、日本のチームがボロ敗けしたリベンジのためにキセキやらが集められる事になったとかそんなことは、
火神から聞かなければ知らないままだっただろう。

そのぐらい、卒業した学校のやつらにも対戦した学校のやつらにも興味がなかった。
ただ、火神が表情をくるくると変えながら話すのを視るのは好きだった。
その日にあったことを誰かに報告するなんてしたことがなかったのか、
最初のうちは戸惑ってばかりで話も時系列がぐちゃぐちゃで支離滅裂だったが
今では普通に話せるようになって聴く方としても楽になった。
それと関係があるかはわからないが国語の成績も少し上がったらしい。

敬語に直そうとするのは面白かったがその度にテンポが悪くなるので早早に辞めさせた。

キセキ達とチームを組むと言う話は俺の顔を見たと同時に報告してくれた。
メールなどでの近況報告のやりとりはしていない。
する必要がないぐらいの頻度で俺が火神の家に入り浸ってるわけだが。

食費を払おうと提案したが自分が食べる量の誤差の範囲内だからと固辞され
ならその代わりにと掃除洗濯の手伝いもして自然と家事が身に付いていった。
まさに火神さまさまだ。

隠し事を苦手とする火神のわりには巧く包み隠そうとしていたが、
何か、言いづらいことがあるようだとは気づいた。
けれどこちらから水を向けるつもりはなかった。
言いたくなったら言わなくてもいい。
俺達が何でもかんでもを話せる仲ではないのは理解していた。
少し淋しいが。
俺も、全てを火神に話しているわけじゃない。

食事を終え、並んで食器を洗う。
火神が珍しく口数が少なかったので、俺が喋る事にする。
話題は、聞いたばかりの即席チームのことにしておく。

「キセキとチームを組んでもお前の良さは活かせなさそうだよな。
付け焼き刃のチームプレイじゃお前の最終奥義は繰り出せないだろ」
去年のウィンターカップで最後に見せたまさしくチーム一丸の技。
火神を軸としたそれは、気心の知れたチームメイトと一緒でなければ発動できないシステムのようだった。
凡人の俺には理解しきれていないが。

「まあキセキもお前も一人一人が強いから出来なくても勝ち目がないわけじゃないか。
出来たら出来たでお前どんだけチョロいんだよっつーか誠凛のやつらも微妙な気持ちになるだろうな」
「黛さん」
「なんだ」
誠凛、の単語にびくりと肩が震えたのを気づかなかったふりで呼ばれた名前に返事をする。

「俺がいなくなっても、大丈夫だと思いますか」

何が、とは言葉にしていないが、話の流れから誠凛の事だとわかった。

「……全国大会にはギリ行けるかもな。
お前抜きで優勝は難しいんじゃないか?
赤司と無冠三人がいる洛山に勝つのは他のキセキがいるチームでも至難だろ」
他人事のように分析する。
少しの間とは言え『影』をやってみてわかった事がある。
一人の強い光、洛山なら赤司が相当するだろうか、だけでは影の薄さはそれほどにはならない。
他のメンバーも目立ってこそ存在を眩ませ易くなる。
無冠の五将の三人がいたからこそ俺は新型の影として機能できた。
他のチームではまず無理だっただろう。
ウィンターカップで開眼した誠凛の連中ならそれに近いものには成れている
かといって一際強い光を放つ、絶対エースがいなくては話にならなくもある。
キセキの世代を押さえされる人間がいなくては、勝ち目などないに等しい。

特に、同じ東京地区で枠を争う事になる秀徳にはスリーポイントシュートをポンポン決める緑間がいる。
対策には、少なくとも火神並みの実力の選手がいないと厳しいだろう。
同じ東京地区で枠を争うだ。
全国大会進出には今は怪我を治すためにアメリカにいるという木吉の復帰が必須だとも思う。

新入部員に逸材がいるかも知れないが、火神が抜けるなら、その穴は深く大きい。

「なんだ。とうとう父親からアメリカに来いとでも言われたか?
なら高校卒業まで待ってもらう事も出来るんじゃないのか?
中学からずっとほぼ放置だったんだろ」
だとすると遅いぐらいだし中途半端だ。
だが、火神はかぶりを振った。

「違う。
……今朝、アレックスから電話があった」
「成程。スカウトか」
「……うす」
火神はアメリカでの暮らしが長いと聞くし父親もアメリカだ。
日本の大会を観て有力選手を是非うちに、となった場合越えなければならないハードルは少ない。

あとは本人の気持ちだけだ。
そのハードルがとても高いのだろうが。

詳しくは知らないが、中学時代のバスケの部活であまりいい思いをしなかったらしい火神は
誠凛のバスケ部に対し相当な愛着を持っているのだとと言葉の端々から迸っていた。

高校のバスケ部にあんまりいい想い出がない俺からすれば、ひどく眩しい。
例えば犬当番とか、理不尽だってあっただろうに、それすら輝きに変えているようで。

名残惜しい気持ちはわからないこともなくもないが。
「迷う必要ないだろ。
バスケ馬鹿のお前には願ってもないチャンスだろ?」
「けど、せっかく黛さんと仲良くなれたのに」
「……俺?」
「黛さんは日本から出る予定はないだろ?」
「当たり前だ。ラノベが読めなくなる」
「だよな」
親がアメリカで、学校もそっちで、その国でプロを目指すとするならば火神が日本に戻ってくる理由は殆どない。

俺が、多少なりとも後ろ髪を引く一因になっていることに、正直驚いた。

「誠凛の事は……電話来たとき黒子が一緒にいて、行ってこいって言ってくれて、でもせめて卒業まではって気持ちもあって。
キセキのやつらとは、バスケ続けてる限りまた遭える気はするけど、
アンタとはそうじゃないから」
「そうだな」

自分達以外誰も知らない密やかな関係。
細い糸で繋がったソレは、いとも容易く切れてしまう。

「……試合」
「ん?」
「観に行く。
ジャバウォック、だったか? ふざけたチーム名のやつらとの試合。
あまり興味はなかったが、お前の日本での最後の試合になるなら、俄然観たくなった」
「ふざけてるのか?
ジャバウォックって怪物の名前って聞いたけど」
「大元は鏡の国のアリスの中に出てくる詩だ。
意味のない議論を意味してると言う解釈がある。
それをヴォーパルソード、真理の言葉で一刀両断するってな。
英語の詩だから日本語にするとわけがわからなくなるが、原典は英語だからお前の方が理解できるかもな」
「言葉遊びは苦手だ」
火神は何故か苦い表情をした。
「駄洒落とは違うぞ?
ああでも日本の古典文学を理解するには駄洒落に親しんでも損はないと思うがな。
短歌や俳句はダブルミーニング、下手するとトリプルミーニングもあるから」
そこまで言って、火神にはもうそれは必要なくなるのか、と思い至る。

鏡の国に現れるという化け物は、アメリカに渡る前の火神が剣を振るう最後の敵になるのか、と
感慨に耽りそうになる。



まさか、ドリームチームの名前がまんまヴォーパルソードになるとは思わなかった。
チーム名で喧嘩売ってどうする。赤司か。赤司っぽいな。
火神がしょっちゅう本を読んでいると言っていた黒子も知識はありそうだが。
なんつうか逆に応援するとき呼びにくそうだな、という感想しか抱けない。
そんなに知名度ない名称だろ。

少し遅れて入場したため席には座らず観戦することになったが、思いの外火神の見せ場はなく、
けどバラバラな連中がチームとしてまとまるその為には必要な存在かもなとも思う。
中学時代のキセキは、最後の方は個人プレイしかしていないという話だった。
それが即席チームの割りにちゃんとチームプレイをしてる。
火神という異分子が過去を思い出させないようにしているかの如く。

赤司の人格交代劇やら意外な事も起きたが、ギリギリながら最後はきっちり勝利をもぎ取った。
相手は選手交替がないままだったから
勝負としては勝ったが実力はナッシュとシルバーの二人だけでも相当なものだったんだろうな、と感じる。
個人の能力としてはキセキ以上っぽくて、世界は広いと思ったし、
その世界から足を洗った自分と本場に単身乗り込むことになる火神を想った。

同じ世界にはいられない。
けれど違う世界でも重なり合うことは出来る筈だ。

祝勝会をする流れになった様子を遠くから眺める。
その後は火神が学校の仲間を集めてあの話をするんだろう。
出発はまだ先だとしても。先だからこそ。

俺はと言うと、次に逢った時にちゃんと話をする覚悟を決めた。
火神がアメリカに発つ前に。


どうせならと帰り道で合流した。
事前に一応連絡を入れた上で。
火神は、俺を見るなりなんとも言えない表情になった。
誠凛の連中に話したことで確定になった別離を噛み締めるような。

「お疲れ。
まさかあの後に更に試合するとはな。」
バスケ馬鹿ここに極まれりとでも言うか。
骨折してた紫原まで参加してたのには驚いた。
「赤司がオゼンダテ? してくれて……
つか来てたなら黛さんにも参加して欲しかったっす。
観てたんだよな?」
「キセキと同じチームに入れと?
断固拒否する」
「なら」
「一チームに影は二人も要らないだろ。
良かったな。歓んで送り出してくれるチームメイトで」
「……」
「チャンスは逃せばまた訪れるとは限らない。
お前の選択は正しい。火神」
「…………」
「早いとこ有名になれよ。
こっちでもテレビで試合観れるぐらいの」
「黛さん、俺は」
「火神。少し時間をくれるか」
立ち止まる。

俺は疲れている火神を導くように少し先を歩いていた。
わざと遠回りの道を選んで。
この男と、初めて逢った場所。
その前で、足を止める。

思い詰めていた火神は、俺が立ち止まったことでようやく周囲に目を向ける余裕が出来たようだ。
東京体育館の前だと気付き、驚いている。

向き合い、見上げる。
暫く逢えなくなるならば。その前に、この気持ちに終止符を打たなければならない。

「火神。俺はお前を待っていてもいいか?」
「……待つ?」
「お前がアメリカで俺は日本で。
洒落にならないぐらいの遠距離だけど、お前との関係を終わりにしたくない。
いや、まだ始まってないか」

風が吹く。
背中を押すように。

「三次元の、しかも男にこんな感情を抱く日がくるとは思わなかった。
お前が遠くに行くって知って、確固たる繋がりが欲しくなった。」
「……それって、」

「好きだ。
恋愛感情として、な。
お前も同じ気持ちだと
勘違いじゃないと思うんだが、どうだ?」
「……けど、俺は、もう」
「先の事はこの際どうでもいい。
今の気持ちを聴かせろ。それだけで力になるから」
「……っアンタが好きだ。
離れたくなかった。のに、笑って送り出そうとしてくれるから」
「好きな相手の、手が届くはずの夢を邪魔するなんてできねぇよ。
けど、だからって諦めてやれもしなかったけど」
「待ってて……くれるのか」
「まるっきり日本に来ないなんて事はないんだろ?
お前の事だ。誠凛の試合を応援しに来たりしそうだしな。
そのついででも逢えればいい」
「アンタとはバスケ以外のとこでぬくもりをたくさん貰った。
それを何一つ返せてないっ……!
なのに、」
「泣くな。
男前だ台無しだ。
ま、そういうところが可愛いんだけどな」

真っ直ぐに感謝の言葉をぶつけられて、いつだって飾らない火神の言葉に癒されていたのは俺の方だ。
だけど俺は狡い大人だから。

「待ってるから。待たせてくれるなら、約束をくれないか」
「約束?」
火神はきょとんとする。
二試合終わらせた火神に、無体な要求だとは思うが。
「ぬくもりを感じさせてくれないか。
お前の全てで」

手始めに、その唇で。
そう囁くと、火神は頬を朱らめそっと眼を閉じた。




火神が出発する当日に空港行ったが近づきはしなかった。
感動的な別れを邪魔するような野暮はしない。
それでも足を運んでしまったのは、
惚れた相手を遠くからでも見送りたいという健気な気持ちからだ。
前日にさんざん別れを惜しんだがそれとこれとは話は別だ。

直接逢えなくなっても
便利な世の中だから、国は違えど顔を見て電話は出来るしメールだって荷物だって送ることが出来る。
俺は火神の傍で覚えたスキルで独り暮らしをなんなくこなせるようになっていた。
一緒に作った料理を独りで食べると淋しくなったりするが、
火神も同じようで、俺とは違い、てらいもなく素直にそれを伝えてくる。

帰る場所ではない日本にたびたび訪れては俺のところに泊まって行った。
もともと野性的な雰囲気だったが、逢う度にそれ精悍という言葉が似合う感じになっていった。
壁にぶつかりながら、それでも、仲間とさえ巧くやれるなら精神的には問題ないようだった。
けどさすがに弱味を見せられる相手まではいならいらしく、甘えてくれるのが嬉しかったりもした。

向こうでナッシュと交流が出来たという話には驚いたが納得もした。
あの試合で思うところがあったらしいナッシュは、ストバスを辞め本気でプロを目指すことにしたらしい。
最初はいさかいだらけだったが今や悪友みたいなものだという報告に、
お前は国が変わってもやってることが変わらないな、と苦笑するしかない。

誰と仲良くなろうが、意外と自己防衛能力に長けている火神が身体まで赦しているのは自分だけだという自負で
嫉妬で身を焦がすことなく済んでいる。
火神が俺が心変わりしてないかとか知らないところでモテてるんじゃないかとか心配してくれるのは可愛く思うが
面倒な人付き合いを避けまくってる俺がこの先火神以上の人間を見つけられることはないだろうし
ひっそり暮らしている俺がモテるなんて事はあり得ないので杞憂が過ぎると毎度宥める羽目になる。
お陰で俺が同じ悩みを持つ必要がないのは有り難いが。

誠実な火神の事だ。
俺に愛想を尽かしたのならきちんとそう告げてくるだろう。
そんな日が一生来ないことを祈るしかないが。



数年後。
大学を卒業した俺は、アメリカの地に立っていた。
ぼっちで卒業旅行、などではない。
就職の為だ。
治安だとか人柄だとか絶対俺向きの国ではないんだが。

連絡を入れ、指定した場所に現れた火神はぽかんと口を開けていた。
サプライズ、のつもりはなかったが不確定要素が多すぎたのでアメリカに来ることを言わずにいたためだろう。

「黛さん?
こっちに住むっつったか? え、でもラノベは?」
開口一番それか。
「今は電子書籍ってのがあってな。
アメリカでも日本のラノベ買えなくはないんだ。
本の形態の方が好きではあるが」
「けど」
「堪え性がなくて、待ちきれなくなった。
お前がプロ引退するまでってのはやっぱ長い」
「いや、つかそもそもまだプロにはなってねーんだけど」
「なれないのか?」
「なります!」
いい返事に、満足げに頷いて見せる。

「直接顔視て言いたくなったってのもある。
待ってるだけってのも性に合わないみたいだ」
「黛さんらしいな」
「嬉しくないのか」
「めちゃくちゃ嬉しいぜ!」
うんまあその笑顔を見りゃ返事はわかってたんだが。
やっぱ言葉で聞きたくなる。
だから、俺も。

「I do not look like most of you in the vicinity.
We will be together foever.」

「……俺も。
黛さんが傍にいてくれるなら百人力だ」
「そりゃ良かった。」
いい応えだ。
けど。

「せっかくカッコつけて英語でプロポーズしたのに日本語で返すな」
「わ、悪い。
黛さん見たら安心して日本語で話したくなって」
「悪くはないけどな」

日本で一生を終えるつもりだった俺にこうしてはるばる海を越えさせた。
お前にはそれだけの吸引力があるんだと、そのことは。
共に過ごすこれから先の長い未来、少しずつでもわからせて行きたい。

「こっちの生活に関しては暫く頼らせて貰う事になりそうだけどいいか?」
「慣れるまで一緒に暮らす、か?
部屋、あるんで」
「お言葉に甘えるぞ。
下手すると居座るぞ」
「それは」

願ったりだな! と快活に笑う火神を見られただけで
冒険して良かったと、なけなしの勇気が報われた気がした。
| 小話;その他 | 05:30 | comments(0) | - | pookmark |↑PAGE TOP
黒子のバスケ劇場版ネタバレ感想
冒頭が火神くんの中学時代から始まって、サブタイトルがラストゲームな時点で、
まあ結末は見えてるようなもんだよね。
アレックスの電話もあったし。

でも練習とかの描写が短くて試合の尺が長いわりに火神くんの試合での見せ場全然なかったな。
まあ作者さん以前からあおみねくん贔屓っぽかったからなあ。
彼の見せ場はめっちゃあったよね。
キセキはあとは赤司くんが目立ってたつか
人格のアレソレがあるのは原作段階でわかってたし
お陰で黛さんちょいちょい出てきたから良かったけれども。
やたら意味深に。

でもキセキに対してちょいちょいキーパーソンとして火神くんが上がってたか。
黄瀬くんワンオーワン誘うのあおみねくんじゃなく火神くんだし、
紫原くんも岡本さんに教えて貰ってる時に火神の名前出されてたし、態度がいちいちツンデレっぽいし、
緑間くんなんてフォローやハイタッチしてたしなあ。
キセキを巧く回すための潤滑油的な?

じゃばうぉっくは何故か悪役扱いされてるけど
個人的には似たような事を日本人でやってた(人種差別的で悪いが)あおみねくんのが印象悪いわ。
少なくともチームメイト同士は仲良いしな。
きりさきだいいちとおんなじ感じの更に悪い感じにしたかったんだろうけど
口は悪いし素行も悪いけど練習ちゃんとしてたりチームプレイ出来てる時点で憎くはないわ。
バスケに悪役とか出してるのがまずおかしいんだけどね。

架空のスポーツなら許容できたかもだけども
多分根本的に作者さんの価値観とは合わないのはくろこくんのキャラクターからしてわかってたけどね。
宣戦布告しに行く意味があったのか。

ところでじゃばうぉっく酒とか呑んでた?
日本にいるなら二十歳越えてないと駄目なんじゃないの?


全肯定はそんなわけで無理だけど、キャラクターは生き生きしていたので
その辺はとても満足です。
火神くん欠いてくろこくん役に立つの?とか
きよし先輩が戻ったところでせいりんがういんたーかっぷ二連覇出来ない理由が出来たなあ。


自分がくろばすずるずる好きなのは自分の好みの解釈をする余地がそれでもあるからかもなあ。
いい意味でも悪い意味でもスポーツ漫画としては隙があるというか。
全部が大好きという人はそのままでいてください羨ましい…

集大成の映画としては良かったですよ〜
| 小話;その他 | 03:34 | comments(0) | - | pookmark |↑PAGE TOP
トレ・ソステヌート 【黛火】
火神くん高校二年生で黛さんは東京の大学に進学してる。

紫原くんはリアリストで人との距離をはかるのが巧そうな印象。
※黛火です※

黛さん誕生日おめでとうございます。
作中の日付を当日にしちゃうと高校の卒業式どこいったになるので(少なくとも赤司くんあたりは在校生代表で出てそう)その数日後、かなー?



++++++++++++++++++++



紫原は、かねてから主張してきた「バスケットボールは嫌い」というのを撤回するのは吝かではないが
だからといってまだ肌寒いこの時期に朝も早くからストリートバスケットボールに興じられる程ではない。

帰省中、実家でのんびりしてるところを呼び出され、まあ来てしまったからには参加しているが、
正直それほど乗り気ではない。

来ているメンバーでミニゲームをこなし、全員が休憩に入り、
中学時代の部活仲間がコートの中央に集まって何やら談笑してるが
紫原はその中に入る気にはなれずその様子をぼんやり眺めながら、
ベンチの横に立ち、ゆっくりと水分を摂りつつ頭の中でずっと帰る理由を探していた。

すると、
「お前はあの中に入らなくてもいいのか?」
と、同じようにペットボトルのスポーツドリンクを飲み干した、ベンチに座っていた火神にそう声を掛けられた。

「……。火神こそいーの?」
火神は今日集まったメンバーの中では唯一帝光中出身ではない。
だが、ある意味このメンバーで再び集まれるようにした立役者でもある。

「や、別にあいつらと話すことなんてないし」
「俺もそーだけど……」

紫原は首を傾げた。
火神は試合中は仲間想いで情に厚いようでいて、
時折突き放すような素振りも見せる。

「バスケを通してのアイツらしか知らねーからな。
どういう話すればいーのかわかんねーし。
紫原は中学からの付き合いなんだろ?」
「俺も付き合いは部活だけだったし仲良い友達は他にいたしねー」
当時今以上にバスケットボールはイヤイヤやってますという態度を隠しもせずにいた紫原は
友人はバスケットボールとは無関係のクラスメイトとよく遊んでいた。
部活以外でまでバスケットボールを思い出させるような連中と一緒にいようとは思わなかった。
だから、キセキの世代とひとくくりにされていようともプライベートではほぼ関わりがない。

黒子と青峰、緑間と赤司はそれぞれ友情関係を築いているっぽくて、
黄瀬は普段の彼らとも仲良くしたがっていたようだが。

「高校は俺秋田だからむしろ火神の方が今の黒ちん達と付き合いあるんじゃねーの?」
「俺だって部活以外の関わりそんなにねーよ。
遊び歩ける時間もねーしな」
その言葉に、紫原は誰かから聞いた気がする火神情報を思い出した。
忘れていても問題なかったが。
「そーいや独り暮らしなんだっけ。
大変そー」
紫原も親許を離れ学校の寮に入っているが料理は出てくるし掃除は自分の部屋だけでいい。
紫原も実家では親の手伝いをしないでもないが火神は全部を自分独りでやっているのかと思うと純粋にスゴいと感心した。
学業……は結構あれらしいが、部活をこなしつつ、だ。

そんなふうに紫原が少し尊敬の念を抱いたのを感じたのか、火神は少し照れたようにぶっきらぼうに応えた。
「慣れればそんなでもねーし、
最近は……」
そこで、言いよどむ。
その理由を、人間関係に対し鋭いところのある紫原は察した。
「なに、手伝ってくれる彼女でも出来た?
そう言えば前と匂い違うよね。シャンプー変えた? その人に合わせて?」
「俺の匂いなんてよく覚えてんな?」
「前のはちょっと俺の苦手な匂いだったから印象に残ってたの。
今日のはむしろ好きな匂い」
「そうか?
シャンプーとかあんまりこだわらないから適当に選んでたんだよな。
今は黛さんが置いてったのをそのまま使わせて貰ってー……」
る、言った後、しまったとはがりに黙る。
それはその「マユズミサン」とやらが彼女ではないまでもシャンプーを火神の家に置いて行くような仲なのを白状しているようなものだ。

「そのマユズミサンの趣味悪くないね。
どっかで聞いたような名前だけど。
赤ちんのとこのチームにいた人もそんな名前だったよね。黒ちんと似た属性の。」
「もうバスケ辞めちまったそうだけどな。
もったいないよな」
「あ、その人本人なんだ。
んー、でも火神が昔はともかく今はバスケ関係ないヒトと仲良くしてるのなんかわかるかも。
お前、バスケからむと暑苦しいし?」
「……似たようなこと黛さんにも言われた。」
「なんて?」
「『お前はバスケしてない方が俺の好みだな』みたいな事」
「……うん、なんかノロケを聴かされた気がする」
「ノロケ?」
「そーいや室ちんとの関係って今どーなってんの?」
唐突な話題転換だが、火神は素直に応じた。
「どーもこーも。
タツヤはお前と一緒のガッコなんだからそうそう逢うこともねーだろ。
たまにメールはするけどな」
「そのぐらいの距離感ならお互いの精神衛生上問題なさそうだね」

紫原が氷室に聴いた話から推測したのは
火神が氷室に固執する理由は外国で不安な時に言葉が通じる氷室に出遭い
友人を作るツールとしてバスケットボールを教わり
「兄のようだ」と軽い気持ちで言った火神の言葉に氷室が「指輪」という形でその繋がりを具現化してしまったのがそもそもの間違いだったんじゃないかと思っている。
疎遠になりバスケットボールという繋がりがあろうと幼い関係は風化してもおかしくなかった。

火神の氷室への想いが重いように感じていたが、
その原因を作ったのは氷室だ。
その後の関係悪化の経緯も、氷室の対処が下手すぎる、
と思うのは、紫原が同じように「恵まれた才能」を持ってしまっているが故に火神の立場で考えてしまっているからだろうか。

そうだろうな、と自己完結しながら、けれど。

今の火神ならば、例えまた氷室から義兄弟解消の宣告をされても、諾と受け入れてしまえるような安定感を感じた。

「そーいや一年の時のウィンターカップの決勝で赤ちんになんか言って眼を醒まさせたっぽいのってその黛さんだったっけ。
バスケはあんま強い印象なかったけどけっこースゲー人なのかなー。」
「褒められて悪い気はしないから昼飯を奢るくらいはしてやるぞ」
「……俺今バスケの事では貶したような気がしたけど」
「火神と違ってバスケで生きてる訳じゃないしそもそも自分の実力ぐらい自分でよくわかってる。
正当な評価だろ」
そこまで会話をしていながら、
「黛さん? どうしたんだ? ですか?」
との火神の言葉を聞くまで紫原は自分が誰と話しているのか認識していなかった。

「噂をすれば、ってやつ?
いつからいたの」
「影は卒業したけどな。
火神の髪の匂いのあたりだ。」
「わお。結構前からだ」
「火神。敬語は要らないっていってるだろ」
「う、うす」
「影は卒業したっていうけどさー、試合でしか視たことないけど、ステルス機能進化してない?」
「目立たずひっそり生きてるからな。
お陰で穏やかな暮らしを満喫出来てる」
「結構身長あんのに……羨ましー」
紫原としては好き好んでいるだけで目立ってしまうような長身に育ったわけではないので
嫌味でもなんでもなく素直にそう思った。

「黛さん、紫原はメシより甘い物の方が歓ぶと思う。
あと結構喰うから奢ると破産すんじゃねーかと」
「常識的に奢ってくれるって言う人の財布が空になるまで喰ったりはしねーし」
言いながら、火神は自然な動作で立ち上がり、紫原は荷物を抱える。

「赤ちん達、話盛り上がってるみたいでこっちには気づいてないみたいだからこっそりトンズラしちゃおっか」
「黛さんのステルス周囲にも影響及ぼすのか?」
「なんだそのラノベみたいな能力。あるなら欲しいぞ」
「馬鹿言ってないで行くよー。
挨拶しなくていーよね。後で『腹減ったから帰るねー』とでもメールでもしときゃ」
「お前ら二人はそれで赦されそうだな」
「実際腹減ってるしなー」
腹を押さえて見せる火神に、表情に変化があまりない黛の顔が緩んだように見え、
紫原はああ、やっぱりそういう関係なのか、と察した。

邪魔していいのかなと思わなくもなかったが、奢ると言って誘ったのは黛の方なのだし気にしないことにする。

そこには黛の打算が含まれていて、
後日、なんやかんやで火神を氷室離れさせる手伝いをさせられる事になってしまったのだが
紫原としてはそれなりに楽しめたし新しい交遊関係が意外と居心地が良かったのでよしとした。
| 小話;その他 | 05:05 | comments(0) | - | pookmark |↑PAGE TOP
スイート=バレンタイン・イヴ 【赤夜久】
付き合ってる赤夜久。同居中。
二人とも大学生ぐらい。

たまにはイベント話を書きたかった。



+++++++++++++++++



「……ただいま、帰りました……?」
「ん? あ、お帰りーあかあし」
赤葦京治が家に帰ると、同居人が炬燵に入って明らかにバレンタインデー用と思われるパッケージを開けて広げ、市販品のチョコレートを口にくわえていた。

二月十三日。
バレンタインデー前日の事である。

程好く暖まっている部屋の中、赤葦は着ていたコートを脱ぎながら、同居人――夜久衛輔に近づく。
「バレンタインには少し早くないですか?」
「ん?
あ、これか。
自分で買った自分用のチョコだからいつ食べようと関係ないと思うけど」
「自分用……。
……俺の分はないんですか?」
「赤葦の分?」
きょとんとしながら首を傾げる。
それだけで返事はわかってしまった。
「お前どうせ明日いっぱい貰うだろ?」
「……受け取ってもいいんですか?」

二人は同居人であると同時に恋人同士でもあった。
付き合い始めてから初めてのバレンタインデー。
だから、赤葦には夜久の同行が読めていなかった。
男から男にチョコレートあげるとか変と言うことで貰えないかもとは思っていたが、
まさかこうも斜め上……いや下か? の言動を取られるとは思ってもいなかった。

「あー。本命とかの手作りはちょっと不安かもな。出来上がりも気持ちの重さ的にも。
でも義理なら売ってるやつだろうし問題ないだろ?」
「俺は全部断るつもりでしたよ」
「なんで?」

なんで? と来たもんだ。
赤葦は天井を仰ぎたくなる気持ちを抑え、
こちらへと向けていた顔を戻して次のチョコレートへと手を伸ばす夜久の頬に手を添え、
瞳を合わせた。

「お返しが面倒じゃないですか。」
「でもお前高校の時結構貰ってたんだろ?」
「どの先輩情報ですか」
赤葦は高校在学中は一年の時にしかチョコレートを受け取っていない。
夜久への想いを自覚してからは本命はもとより義理チョコだろうが友チョコだろうが全て受け取りを拒否してきた。
「木兎」
「だと思いました」

その一年生の時は、強豪校のバレーボール部のセッターの立場のためかそれなりにチョコレートを貰った。
三年生が引退した後、レギュラーになっていたため注目されていたのだと思われる。
当時一年生だったにも関わらず副主将にも任命されていた。
あのときは訳もわからず断るすべも知らず全部受け取ってしまった。
主に木兎にやたらとからかわれたのを覚えている。
木兎はその時の印象が強く、
赤葦が二年の時に直接渡されそうになったものは丁重に断り、勝手に机などに入れられていたものは拾得物として処理していた、という記憶が薄いのだろう。
木葉などには「徹底しすぎじゃないか?」と軽く引かれたものなのだが。

「ホワイトデーに返すとか面倒でしょう。
三倍返しとか言うみたいじゃないですか」
言いながら、親指で夜久の唇をなぞる。
「義理になら普通に返すだけでも――?」
最後まで言わせず、唇をふさいだ。

舌で口腔内を舐め回し、残っているチョコレートの痕跡を求める。

なくなっても尚蹂躙していたが、夜久に抗議のように胸を叩かれようやく解放した。
「……っあかあし!」
顔を朱くして怒気を含めた声で自分の名を呼ぶ夜久に、興奮しなかったと言えば嘘になる。
だが、いくら恋人とは言えこれ以上勝手をしてより怒らせるのは得策ではないと、赤葦は判断した。

「勝手に夜久さんからの本命チョコ貰いましたけど、
ホワイトデーにはちゃんと三倍……いえ、それ以上にして返しますから」
「普通でいーよ。
それに、バレンタインは明日だろ」
「……」
その言葉に、赤葦は首を傾げた。
それはつまり、もしかしなくても。

「明日、俺にくれる用のチョコレートがあった、んですか?」
今日のそれらは夜久の分と言う。
けれどそう言えば。
明日、つまりバレンタインデー当日に赤葦にあげないとは言っていない。

どうせ明日いっぱい貰うんだろ。
その言葉の裏に、「俺もあげる予定だし」という意味があったのだとしたら。

「……あの、夜久さん」
「俺はお前と違って貰えるものは全部貰う予定だから」
ぷい、と夜久は顔をそむける。
「あと。今年の俺からのバレンタイン、今ので良いってんなら奮発して買ったやつは俺が食べとくな。
ちなみに今食べてるのは厳選漏れしたヤツ」
「あの、夜久さん」
「コイビトとバレンタイン過ごすの結構楽しみだったんだけど、残念だなー」
あからさまな棒読みで、赤葦の反省と謝罪を促してるのは火を見るより明らかなのだが。

赤葦としては、恋人との甘い時間のために折れるのはやぶさかではなかった。
誤解するような行動を取った夜久よりも、話も聞かず衝動的に動いた自分が悪いという自覚もあったことではあるし。

赤葦が土下座をしようと正座したら、頭を下げる前に
「そこまでしろとは言ってない」
とあっさり赦した夜久は、厳しいようでいて滅法甘い。
| 小話;その他 | 12:38 | comments(0) | - | pookmark |↑PAGE TOP
楽園まで0マイル 【白鳥沢】
予選敗退後の白鳥沢引き継ぎのあたり。
本誌で天童くんの言葉を見て以来書きたかった。

若利くん愛し愛され…?腐ではなく。

最後の章は蛇足かも。おいかわさんとの会話の自分的解釈。



++++++++++++++++++++



春の高校バレーの宮城県予選。

絶対王者と呼ばれ全国大会進出常連校だった白鳥沢は、激戦の末烏野高校に破れた。

どれだけ接戦であれ、結果が全て。
春高を最後の公式試合と定めていた三年生は、敗けた瞬間が引退の時だ。


試合の熱も醒めない中で
白鳥沢学園のバレーボール部が使う体育館に試合に出ていた選手と応援していた部員の全員が集まり、整列した。

引き継ぎがつつがなく終わると
律儀にも試合直後に鷲匠監督に言われた「あとで百本サーブ」をやろうと牛島はジャージを脱いだ。
天童もぶつくさ言いながら続く。

引き継ぎの時に残る下級生と引退する最上級生とで分かれていたため、自然、三年生が並ぶ形になった。

バレーボールを手に持つと、牛島は不意に
「そう言えば」
と思い出したように顔を上げた。
「さっき五色が号泣していたが、俺は何か気に障るような事を言っただろうか」
「って今更?!」
「いや、あれは感涙だと思うよ」
天童は牛島の左隣で突っ込み、右隣にいた大平は軽く苦笑しながらも冷静に疑問に応える。

瀬見は瀬見で牛島に対し、ワンテンポずれたにしろ他人の反応を気にして口にするようになったんだなあと謎の感動を覚えていた。
山形は牛島に直接「何故泣いている」と訊かれなくて良かったな、と五色に生暖かい視線を向けた。
リベロである山形は三年生のかたまりの隅っこにぽつんと立っている。
監督の目に止まったら「お前は百本レシーブだ」と言われそうだ。言われたらやらないでもないが。
ポジションがリベロである以上サーブを練習してもあまり意味がないのだし。

「それにしてももう引退か」
「年明けの本選まではいられると思ってたから早いよネ」
しみじみとした山形の呟きに天童が乗っかった。
それを耳にし、牛島は動きを止め、
「すまない」
と、謝った。
「えっ
いや、若利のせいじゃないから!」
「そーだヨー!
むしろ若利くんのお陰でずっと全国まで勝ち上がれてたんだし」
思いがけない謝罪に二人は慌てる。
実際、白鳥沢はこの三年間、牛島を軸としていて、だからこそ全国でも通用するチームになっていたのだ。

だが、牛島はきょとんとして、首を傾げる。

「俺がいなくてもお前達は強いだろうが?」

その言葉に山形は膝をつき、天童は頭を抱え、
瀬見はコイツ本気で言ってるんだもんなあ、と遠い目をし
大平は混沌とした皆の様子をにこにこと見守っている。

「そうだ天童」
ようやく復活した天童に、牛島は再び声をかける。
「今度はナニ?!」
身構える天童に、「大したことではないんだが」と前置きをして
「試合の後、『さらば俺の楽園』と言っていたな?」
と確認するように問い掛ける。

「聴こえてたの?
ハズカシー!」
天童はひゃあ、と頬に手を当てたが
「恥じることはないだろう」
牛島は、ゆっくりと言葉をつむぐ。


「俺も
今年のこのチームを『そう』だと感じていたようだと
気づかされたからな」


牛島は口数が多くはないがその一言一言が重い。
本心からだとわかるその言葉は、うっすらと笑みをはいた表情も相俟って、
結構な破壊力を持っていた。

床にうずくまった天童に、牛島は
「大丈夫か」
と声を掛ける。
「大丈夫くないヨ……」
返事があるなら大丈夫だろうと、壁に寄っ掛かっている人物に視線を向けた。
「瀬見」
「うん、しばらくほっといてくれ」
「……山形」
「俺、レシーブに回るから」
「ああ」
ふらふらとおぼつかない足取りでコートの反対側に回る山形を見送り、
大平の方を向くととてもいい笑顔を返されたので、多分問題はないのだろう。

だが。
「……あっちにも大丈夫じゃなさそうなのがいるなあ」
大平の視線の先には茫沱の涙を流している白布がいた。
引き継ぎの時はむしろ表情を無くしていたのだが、今の牛島の言葉は涙腺に直撃したようだ。
「牛島さん!
卒業まで引退しないで下さい!」
いい加減サーブに入るか、と構えようとした牛島の許へと飛んでいき、すがりつく。
「無茶を言うな。
早く始めないと終わらないぞ」
「終わらなくていいです!」
「いや終わらせなきゃ駄目デショ」
自分より取り乱している白布の姿に天童は冷静さを取り戻した。

その様子を、コーチは眺めていた。止めるでもなく。
「……百本サーブどころじゃないみたいですね」
心なしか眼鏡の奥の瞳は潤んでいる。
「あーゆーのは俺が席を外してる時にやれや」
呆れたような鷲匠監督の声にも、少し湿っているようだった。

それでも、引退後も、なんだかんだで後輩達の指導で顔を出すことになるのだが。
バレーボールは高校までと明言していた天童も含め。



形式上の高校最後の練習を終え、
牛島と天童は二人連れ立って寮の廊下を歩いていた。
若利くんに訊きたいことがあるんだけど、との天童の呼び掛けに牛島が応えた。
「若利くん、青城の及川に執着していたみたいだけど
いなくてもウチが楽園だって思ったの?」
「ああ。」
その問いに、牛島はあっさりと首肯する。寸分の迷いもなく。
「準決勝後、最終確認をしたが、
やはり及川は視ているものや目指すものが違っているようだったしな」
「あー……」
牛島の言葉に天童はなんとなく思い当たる節がある、との意味を込めた声をあげた。

牛島は正論しか口にしない。
その論理がどこから来ているのかわからない人間には暴論としか思えないだろう。
だがその言葉には根拠がある。
言葉が足りない事が多いため、真意に気づかないままの輩も少なくないが。

吐き出したかったのか、牛島は珍しく言葉を重ねた。

「全国で勝つために及川の力があればと思ったが
あの男はうちに、白鳥沢に勝つことを目標にしているようだった」
「ああ、まあ、無理もないけどネ」

及川は、及川のいたチームは、
中学、高校と、最後まで勝てなかったが故に、
白鳥沢を、牛島をゲームにおけるラスボスのように捉えているのだろう。

実際にはその先がある。
牛島も、白鳥沢も、何度も全国大会に進み
幾度となく敗北を喫してきた。

県内では最強と謳われていた白鳥沢も、全国では数ある強豪校の中の一つでしかない。
中学時代から県内だけではなく全国という広い視野でバレーボール界を視ていた牛島はそれが身に染みていた。
全国大会の会場で、肌で感じていたのだ。
更には高校に入り日本代表に選ばれ、世界すら意識している牛島にとっては
青葉城西は「弱い」チームに見える。
その中で、及川だけは「強い」と評価していたのだが。

けれど彼の視野は狭いまま。
白鳥沢という高い壁のその先に、もっとずっと高い壁があることを
知ってはいても本当の意味では理解出来ていなかっただろう。
それだけ及川にとって牛島の存在が大きかったのだとしても。
ライバルの存在は大事ではあるがチーム戦である以上個に意識しすぎては全体を、大局を見誤る。

及川は引退する瞬間までその事を理解していたのかどうか。

「うちに来るべきだったと、惜しいと思っていた。
だが準決勝後の会話で、あいつがそれをまるで望んでいないと知った。」

違う世界を視ている人間と、志を共にするのは最初から無理だったのだ。
及川も白鳥沢に来ていれば強豪校のセッターとして全国に名を轟かせ、
日本を、世界を意識できるようになっていたのかも知れない。
雑誌に一度載る程度の存在ではなく、もっと広く活躍出来ていたやも。

けれど高校の最後の年まで牛島を倒すという妄執に囚われているような及川に
今まで何度も打ち負かされてきた、いつかは倒したいと望む相手がいようとも強いチームに入り
上を目指す、という思考はないようだった。

強いチームの中で揉まれ上を目指すことより
居心地のいい仲間のいる場所を選んだ。

取るに足らないプライド。
それを重んじるのが及川にとっての選択ならば
牛島には彼にかける言葉は最早何もない。

「ならばもう、俺があの男に固執する理由はない。
決勝の前にそう思えて良かった」

それは見限ったとも取れる宣言であったが、
天童からすれば随分と気を長く、心を広く接していると思っていただけに、その言葉が聴けてむしろ安心した。

友人が、明らかに憎悪にも近いライバル心を剥き出しで接してくる相手に何度も諦めずコミュニケーションを取ろうとしている姿には密かに心を痛めていたので。
牛島の強固な精神はその程度ではびくともしないとしても。
余計なお世話だとわかっていたため今まで口を挟まずにいたが。

「賢二郎や英太じゃ物足りなかったって事じゃないんならよかったヨ」
「そう思ったことは一度もない。
だが、選手層は厚い方が良いだろう?」

牛島は白鳥沢を豊かな土壌だと信じているし痩せた土地では立派な実は実らないと今でも思っている。
しっかりとした設備とスケジュールで鍛練してきた白布や瀬見はかなりの実力がつき、
また、全国の舞台を何度も経験してきたことで精神的にも成長してきた。
及川に劣るとはけして思っていない。
単に能力の違いによる戦力と戦略の選択の幅があった方がいいと思ったまでだ。
コンクリート出身だと嘯いていた日向翔陽が所属する烏野は、
戦ってみて、全国レベルのチームと研鑽を積んできたのだろうことがわかった。
間近で様々な特色を持つチームと戦い、視てきたのだろうと。
練習は、データや知識よりも実践が勝る。
頭で考えるよりも身体に慣れさせた方がいざというときに動くことができる。
その眼で実際に視た方が。

影山が中学時代とは打って変わりスパイカーに合わせたセットアップをするようになった事からも
烏野という学校が彼らに合った土地だったろうことがわかる。
一時期は全国大会まで歩を進めることが出来た学校だ。
人が去り荒れていたその場所を、様々な人々が手助けして耕し、蒔かれた種を育んだのだと想像に難くない。

だが自分達が劣っていたとは今でも思わない。
油断していた訳でもない。
なりふり構わない相手に、あの試合において、一歩及ばなかった。
烏野は、強かったのだ。
けれど、だから。

「五色達もちゃんと強い。
敗けっぱなしではないだろう」

ふ、と笑う牛島の表情は柔らかく、
白鳥沢に愛着を持っていると言葉にせずとも伝わった。
別に疑っていた訳ではないが、鉄面皮とも言えるどっしりとしていて表情も声音もあまり変わらない牛島が
態度で示してくれたことが天童には嬉しく思えた。

「俺は高校でバレー辞めるし
引き継ぎ終わったけどちょくちょく顔出そうかなって思ってるけど
若利くんはもうずっと大学の方に行っちゃう?」
「いや……」
珍しく言いよどみ、牛島は
「俺もそうしよう。
煙たがれるまでな」
と応えた。

「煙たがれるとしたら俺だけだと思うヨー?」
「そんなことはないだろう」
「そんなことあるって」

ああだこうだと牛島と天童はこれから先の話をした。

そしてわかり合う。


楽園から離れ難いと思う気持ちは、二人とも同じらしい。と。
| 小話;その他 | 05:25 | comments(0) | - | pookmark |↑PAGE TOP
カミサマより傍にいて 【赤夜久】
赤葦誕生日おめでとう。

++++++++++++++


「夜久さん。俺の誕生日なんですけど、プレゼントをくれたりする予定はありますか?」
「俺もその話しようと思ってたんだ。
赤葦、何か欲しいものあるか?」
「本人に訊いちゃうんですね。
丁度良いですけど」
「なんだよ訊いて欲しかったってことだろ」
「はい。
本当なら夜久さんがくれるものならなんだって嬉しいんですけど、
付き合って初めて俺の誕生日を迎える今年は、
どうしても欲しいものがあって。
それは、夜久さんからじゃないと貰えないんです」
「へえ? なんだ?」
「誕生日の一ヶ月先になるんですけど。
俺と元日に初詣に行ってくれませんか。
二人きりで」
「なんだ。そんなんでいーのか?
歓んで?」
「いいんですか?
高校最後の年で、春高出場も決まって、音駒の皆で初詣する予定ができたりとか」
「皆っつっても、まず研磨は不参加だろうしな。
行くなら黒尾が近所の神社連れてくぐらいじゃないか?
春高に関しては神頼みしたって仕方ないだろ。
いままで積み重ねてきた練習の成果を発揮するだけだ。
……まあ無病息災は祈りたい気もするけど……」
「ああ……もう無茶して怪我しないで下さい。
心臓に悪いです。
こっちも試合中だったから気にしないようにしないとならなかったのが辛かったんですよ」
「身体が勝手に動くんだからどうしようもないけどなー。
心配かけて悪い。あとありがと」
「……どういたしまして。」
「んな表情するなよ……気を付けるって。
あ、初詣。
そういや今年は黒尾と海とで行ったな。黒尾は研磨も誘ったらしいけど案の定不参加だった。」
「全国大会出場を祈りに……じゃないんですよね?」
「いい新入部員が入りますように、って神様に頼みに行った。
こればっかりは自分達じゃどうしようもないからな。
最近は強豪って程じゃなくなってたから、勧誘するわけにもいかなかったし。
無事叶ったからいつかちゃんとお礼言いに行かないとだな。
リエーフはともかく芝山と犬岡は手の掛からない素直ないいやつらだ。
三人とも将来有望でもあるしな。
勿論他の一年生も、音駒に来てくれて、入部してくれて良かった。
……どうした? 赤葦」
「いえ……たまに、いえ結構頻繁に、夜久さんと同じ学校に行きたかったって思うだけです」
「そーなったら引退するまでこうはなってなかっただろうな。
お前が他校生だから現役でもコイビトになってもいいかもって思ったんだし」
「そうですね。それでも折れるまで結構かかりましたけど。」
「不安だったんだよ。
お前に溺れて駄目になっちまうんじゃないかって」
「……。〜〜っ。」
「大丈夫か? 赤葦」
「……なんとか……。
溺れさせられてないのが良くもありますが悔しい気もします」
「悔しかったらバレー以上に俺に惚れられてみろ」
「俺より上がバレーだけってことですか?」
「訊くな」
「俺にはバレーと夜久さんは同じぐらいですよ」
「そのわりには試合は手心加えたりしないよな?」
「夜久さんがそういうのを一番厭がるの知ってますから」

「それよりお前は良いのか?
梟谷で初詣とか」
「行くにしても二日以降じゃないですかね。
部員全員で行くわけにもいかないですし
スタメンだけで、にしても」
「いやでもお前んとこの主将」
「誘われても先約があるからと断ります」
「……あー、まー、ならいーか。
で、なんで初詣?」
「神様に報告しておこうかと」
「うん?」
「これからずっと夜久さんと一緒に生きていくことを、ちゃんと報告したいと思って」
「えーっと……お前何かの神様を信仰してるのか?
んでそこの神社に?」
「いえ? 詣でる神社もまだ決めてません。
夜久さんどこが良いですか?
今年黒尾さん達と行った神社ですか?」
「そこだけは駄目だろ。
本当にこだわりないのか?」
「はあ。
日本には八百万の神様がいるらしいので、まあその中の誰か一柱に代表でって感じなので」
「わかるようなわかんないような。
夜中に行くのか?」
「夜久さんに風邪ひかせたくないですし朝とか昼とかで大丈夫です。
一緒に年を越せたら最高ですが、その機会はこれから先何度でもあるでしょうから」

「……うん、まあわかった。
んじゃ、場所決まったら改めて連絡してくれ。
誕生日当日には渡せないものになったな」
「じゃあ、夜久さんの声で、言葉で祝ってください。」
「わかったよ」
「貰いすぎになる気がしますが」
「それとこれとは別だろ。
ちょっと眼瞑ってろ。いいって言うまで開けるなよ」
「? はい」

ふわりと近くに夜久の匂いを感じた。
そして、髪に、額に、頬に、左右の耳許に。
腕に、手首に、掌に、手の甲に、指先に。
鼻に、顎に、首筋に。
両の瞼に、最後に唇に。

軽く、触れていったのは――夜久の唇だと気づいていながら、
赦しがないためそれを視ることが叶わず、赤葦は少し、いやかなり残念だと思い、けれと眼を瞑っていたからこそしっかりと感触を受け取れたのだともわかっていた。

「もういいぞ。
誕生日おめでとう、赤葦。
祝えなかった十六回分は、キスにかえさせて貰った」
「……ありがとうございます。
やっぱり、貰いすぎです……。
来年の夜久さんの誕生日、なにをすればお返しに足りますか」
「そこは頑張って知恵を絞ってみろよ。楽しみにしてるから。
それがどんなんであっても嬉しい、のはお前だけじゃないからな?」
「付き合って一年目から飛ばし過ぎでは」
「だからだよ。
翌年からはショボくなるかもなー?
お前は
「一緒にいられるだけで充分」
……なんだろ?」
| 小話;その他 | 23:40 | comments(0) | - | pookmark |↑PAGE TOP
夜に求めて 【赤夜久】
赤葦視点。くっつくまでのもだもだ。
梟谷グループの合宿中。

似たような話ばかり書いている気がしないでもない。

題名はなんとなくの雰囲気なのであんまり深い意味はないです。


++++++++++++++++



夜久さんに、避けられている。


梟谷グループの合同練習は一年生の時から参加させて貰っていた。
参加二年目の今年は、去年よりは余裕を持って挑めている。
周囲を見回す余裕もできて、他校の選手の観察も楽しいとさえ思えるようになっていた。

梟谷の先輩達を筆頭に、実力が確かな見た目も中身も個性派揃いのメンバーの中で、
その人は、バレーボール選手の中では低い身長もあって、埋もれていた。

夜久衛輔。
守備を得意とする、「繋ぐ」バレーボールの音駒高校の中でも
レシーブ力が突出しているからこそ、リベロでいられる人。
練習試合でも何度もうちのエースである木兎さんのスパイクを綺麗にセッターまで返していた。
ブロックの働きがあってこそだとしても、この合宿のメンバーの中では、一番ではないかと思っている。
烏野のリベロも天才肌のようではあるけれど。

フルネームを知っているのは木兎さんが呼んでるのを聴いたからだ。
基本的に木兎さんは夜久さんを「やっくん」と呼んでいるけど。

……ああ、いや、下の名前は俺が音駒のセッターの孤爪に訊いたからだったかも知れない。
呆れたように、
「苗字だけで良くない?」
って言われたのを覚えてる。
「まあいいか。別に減らないだろうし」
と教えてくれたけど。
あの時、どうして俺は夜久さんの名前を知りたいと思ったんだっけ。

身長が低いと言っても背の高さはあまり関係のないリベロというポジションなのだし
気にするほどではないと思うけど
本人に背の話は禁句だというのは同じ学校の主将であり夜久さんの同級生である黒尾さんから聞いた。

目立たないわけではない。
むしろむさ苦しい男連中の中にあっては別の意味で目立つ。
けして女性的ではないが、大きな瞳で高校三年生のわりには幼さを感じさせる風貌と
その容姿でありながら後輩たちをまとめあげる行動は、
逆に目を惹いた。

一緒に自主練もしたのに、それなのに未だにあまり接点を持てていないのは、
彼が極力俺の視界に入らないようにしているからだと、ようやく気づいた。

何度かあった合宿も折り返しに差し掛かった時期になって、やっと。

合同練習後に木兎さんの際限のないスパイク練習に黒尾さんと一緒に付き合いながら
そこに音駒の物理的に大型のルーキーである灰羽、今年から梟谷グループの練習に加わった烏野の、一年生二人の指導めいたこともすることになって
自覚のないまま視野が狭くなっていたのかも知れない。
ハードな練習に忙殺していたとはいえ今更気づいたその事実に我ながら頭を抱えたくなった。

馴染みの顔触れで恒例となったミニゲーム終えた後、生まれた疑問を解消させる決意をした。
本人に直接、ではなく、恐らく彼を一番理解しているであろう二人のうちの一人である人物に訊こうと。

できるなら、もう一人の方、音駒の副主将の方が真摯に対応してくれただろうけど残念ながら今ここにはいない。
今夜も行われる予定の主将会議まで待てば機会もあるだろうけどそれまで待てなかった。

月島は独りでさっさといなくなり、日向と灰羽は木兎さんに質問をしていて、黒尾さんはそれを遠巻きに見ている。
こっそり質問するにはおあつらえむきのシチュエーションだ。

近寄り、世間話のように尋ねる。
「黒尾さん。
俺、知らない間に夜久さんに嫌われるようなことをしてたんでしょうか」
「あー……」
なんでもない風を装いながら尋ねたら、黒尾さんは頭をがりがり掻きながら
「……気づいちゃった?」
と質問を質問で返してきたので無言で頷く。
「なんか気になる、ってだけならほっといてやってくんねぇ?
赤葦だって別にこの合宿にいる全員と仲良くなりたい訳じゃないんだろ?
そーゆー柄じゃなさそーだもんなぁ」
よくわからない返答ではあったけれどわかったことがある。

黒尾さんは夜久さんが俺を避ける理由を知っていて、それを俺に教えるつもりはなく、
むしろこのまま遠ざけていたいと思っている、ということだ。

今のこの人にはこれ以上なにを訊いても無駄だろう。

「そういう黒尾さんは全員と一回は会話してそうですね」
「普通の会話から見えてくるモンもあるからなー。
性格って結構プレイに出ねぇ?」
「普段と試合とじゃ豹変する人もいますけど」
「そういうのも含めて観察すんの楽しいんだよ」
「そういうものですか」
「そういうものなんです」

多分黒尾さんは人間が好きなんだろう。
厄介な人でも面白いヤツという評価に変えてしまう。
人付き合いが苦手な孤爪と幼馴染みとして長く付き合えているのもおそらくその性格ゆえだ。
いや、孤爪の傍にいたからそんな考えに到ったのか?
ともあれ。

なら、俺は?

交流のない他校の人を、その理由がその人に避けられてるから、だとして、
誰でも、例えばそれが森然や生川の主将とかの先輩達だとしてもこんなに気にしただろうか。

確かめたい。
本人に直接突撃するのが手っ取り早いだろう。
嫌われて、避けられてるのだとしても。

「赤葦」
「はい?」
「お手柔らかにな」
「……善処します」

黒尾さんには見透かされているようだ。
もしかしたら、俺が知らない俺のことまでも。


こういうときに合宿形態なのは有り難かった。
練習以外も同じ敷地内にいるため、捜すのも時間を作るのもそんなには難しくない。

夜久さんは音駒の人達と一緒にいることが多いけど、独りになることだってあるはずだ。
今回の合宿は一週間まるまるある。
その中の、いつかどこかで、話が出来ればと思っていた。

翌日、その機会はあっさり訪れた。

就寝前。
自動販売機の前に立っていた夜久さんを見つけ、周囲に他に誰もいないことを確認してから傍に寄る。

「夜久さんは俺が嫌いだから俺を避けてるんですか?」
何を買うか真剣に悩んでいたらしい夜久さんは、俺が背後から話し掛けると驚いて振り返った。
「……っ」
反射的に、といった感じで口を開きかけ、はっとした様子で一度閉じて、仕切り直すようにふう、と息を吐き、冷たい眸で俺を真っ直ぐに視た。
身長差があるため、下から、見上げるように。

「そうだよ。だから、もう話し掛けんな」

妙な間はあったけれど、はっきりとそうだと断言されて、態度にも出されて。
鉛でも呑み込んでしまったように胃がずしんと重くなった。

何故。何時。
俺は夜久さんに何をしてしまったんだろう。
感情を素直に表に出し、大抵の事はさばさばと処理するような人に、こんな風につっぱねられるような、何を。

「赤葦? ……っ!」
「……すみません」

もうとっくに嫌われているなら、形振りなんて構わないで、
いっそとことん嫌われてしまえば諦めがつくと……

諦め?
何に?

「おまえはばかだ」

痛みを伴うような夜久さんの言葉が耳に届いたけれど
衝動を止められなかった。
「おれも、な」
そんなふうに続いていたらしいけれど、
その呟きは吐息にまぎれて消えた。

唇を奪い、貪るように喰らい、さんざん蹂躙した。
……したのはキスだけだけども、なんというか、そうとでも表現しないとならないような行為だった。
勿論一方的なそれだ。

これが最初で最後。
そんな焦燥感に駆られていたからか、手加減なんて出来なかった。
キスだけで済ませられただけでも……
……俺は、それ以上のことを、この人にしたい、のか?

拘束していた腕の中から解放すると、夜久さんは、酸欠からか顔を真っ赤にしていた。
文句の一つも飛んでこないところを見るとまだ混乱しているんだろうか。

「嫌だったら、本気で蹴ってくれて良かったんですよ。
灰羽にしてるように」
そう言うと、ぎろりと睨まれる。少し涙目だ。
「できるか」
「どうしてですか」
「後輩だけど他校のだし、それに、
……ああもう」

夜久さんは朱らんだ顔を両腕でおおいながらしゃがみこんだ。
聞き捨てならないんですが。

「他校の後輩なら、こういうこと、赦すんですか」
「その喩えは他に俺にこんなことするヤツいなきゃ意味ないだろ」
「まあ、そうですけど」
目線を近付けようと、俺もその場に片膝をつく。

夜久さんはちらりと一瞬だけ俺を視て、視線を床に落とした。

「勘違いしそうになったから不自然にならないように逃げたのに」
「勘違い……ですか」
「お前が、いつも俺を視てるから」
「俺が……?」
夜久さんを、視ていた?

ゆっくりと顔を上げた夜久さんは、さっきまでの慌てっぷりはどこへやら、
落ち着いた表情をしていた。

「なあ赤葦。
俺達が言葉を交わした事なんて、去年合宿で初めて顔を合わせてから今まで数える程度で
なのに何でお前は、俺のことをそんなに知ってるんだ?」
「それは、黒尾さんから話を……」
聞いていた、はず。
なのにどうして、具体的には、思い出せない?

「そもそも接点がないのに、俺はそんなに露骨には視線を逸らしたりも逃げたりもしてないのに、何でお前は俺に避けられてると思ったんだ?」
「どうして……?
それは、俺が」

ああそうか。
不自然だったのは俺の方だ。

「夜久さんを、足りないと感じた、から」

渇望。
もっと夜久さんが欲しくて。
掌から零れていくのを塞き止めたくて、
それが叶わないなら、どんな手段を使ってももっと視界に入りたいとそう思った。
避けられてたなら、それなりに意識はされていたようだけど。

夜久さんは俺の顔をじっと視ていたかと思うと、そっと小さく息を吐いた。

「熱心に視てくるのは、選手として注目してくれてんのかと思った。
俺はその熱さにやられて勝手にお前を好きになって、
けど多分お前は違うんだろうって思ってたから手遅れにならない内に遠ざけようとした。」

夜久さんの言葉の意味をちゃんと理解する前に、反射的に応える。
「試合してない時も眼で追ってました。
とっくに手遅れだったみたいです。
俺の方が」

……今、夜久さんは、俺を好きだとそう言った……のか?

「あの」
「拒めるわけないだろ。
こんな形でお前のキモチ知ることになるとは思わなかったけど」
「好きです」
遮るように、肩を掴み、視線を合わせてはっきり告げる。
「じゃ、ない相手に強引にキスするようなヤツじゃなくて良かったよ。
俺も赤葦が好きだぜ?」
「誰からのくちづけも甘んじて受け入れるわけじゃないんですよね?」
「そんな尻軽に見えるのか?」
「見えませんけど。
妙なところで甘い人だとは思ってたんで」




「黒尾に、赤葦のこと白黒ハッキリさせたいなら自由時間に独りでいれば? って言われたけど
本当に釣れるなんてな」
「黒尾さんが?
確かに、夜久さんと二人きりになれるのを狙ってましたけど」
「……」
「話をするために、です」
あんなことをしでかしたあとじゃ信用されないだろうけど。

のしかかるように抱き締める。
「っ、おいあかあし」
どがめるように名前を呼ばれるけど、このぐらいは赦して欲しい。
「合宿じゃなかったらキス以上の事もしたかったです」
「……お前、思ったよりがっつくタイプなんだな」
「俺も初めて知りました」
「……そっか。なんか嬉しいな」
回された手がぽんぽんと背中を叩く。あやすように。

「けど、さっき言っただろ?
黒尾に言われて独りでいたって」
「言ってましたね。
……まさか」
「まだいるかどうかはわかんねーけど、覗いてた可能性は高いな。
下手するとお前んとこのエース様と一緒に」
「木兎さんが静かにしてられるとは思わないので視られてたとしても黒尾さんだけだと思いたいです」
「部屋に戻ってニヤついてたら一発蹴り入れとく。
お前も木兎の様子がおかしかったらガツンと言っといた方がいいぞ?」
「そうですね」
どこかから視られていたと確信を持っているみたいな言いぐさだ。

「それなのに受け入れてくれたんですか?」
少し離れて顔を覗き込むと
夜久さんは、「おう」と、照れたように笑った。

「拒んでたら拗れてただろ?
逃げようとしたのはお前がどんなつもりで俺を視てるかわからなかったからだったからな。
まさか本人もわかってなかったとは思わなかったけど。
なら意図を察せられなくても仕方ないよな」
「そうですね。面目ないです」
「赤葦が変なとこで鈍いってわかって面白かったけどな。って面白がっちゃ悪いか。」
落胆されたりするより笑い飛ばされるぐらいですんで助かりましたけどね。

「俺は、好きなヤツから行動で意思表示されて、
今はタイミング悪いからまたの機会に、なんて流せるほど人間できてないんだよ」
「……夜久さん」
「ん?」
一番惹かれたのは多分この部分だ。
目に痛い程に眩しいぐらいの真っ直ぐさ。
自分を偽らない潔さ。
厳しいぐらいのそれは心地いいぐらいで、だから改めて言葉にしたくなった。

「愛してます」

「俺もだよ。赤葦」

夜久さんはきょとんとした後で、ニカッと笑った。




去年の合宿の前半の音駒は猫又監督もまだいなくて
三年生が、特に孤爪に対して風当たりが強い態度を取っていた。
それを、二年生の黒尾さんと夜久さんが風通しを良くさせて、海さんが場を和ませていた。
練習は、そんな威張っている風な最上級生より後輩達の方がずっと熱心で、真剣で、
来年に向けて準備をしているのだと、同じように本気だった自分達は気付いた。

けして良いとは言えない境遇で、腐らず前を、上を視ていたその姿勢に目が離せなかった。
この頃から既に、夜久さんを眼で追っていたんだと
思い返して、今になって気付いた。

インターハイ予選が終わった後はその三年生達は引退して
伸び伸びしていたのを覚えている。
その中でも夜久さんのスタンスはずっと変わらなくて、
後輩の面倒もみながら、バレーボールが出来ればいい、そんな感じで。

まさかそれが恋だとは、知らずにいたけれど。

| 小話;その他 | 06:57 | comments(0) | - | pookmark |↑PAGE TOP
bell the cat 【黒尾+夜久】
合宿と後輩(主にリエーフ)について。


かきたかったのはレセプションの下りなんですけどね。



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「すまみませんでした。」
机の両端に手を置き、目の前で深々と頭を下げ真剣な声音で謝罪の言葉を口にするクラスメイト兼部活の主将の姿に
夜久は右手に持っていた食べ掛けのあんぱんにかじりつくともぐもぐときちんとよく噛んでからごくんと飲み込み、
左手に持っていたパック入りの牛乳を飲んで口の中をすっきりさせてから
ゆっくりと口を開いた。

二人きりで昼食を食べたいと言うので何事かと思ったが、うん、本当に何事だ? と首を傾げながら。

夜久は遠慮なくパンをもりもり食べていたが黒尾はまだ全くの手付かずだ。
食事が喉を通らない、というのはまあ大袈裟だろうが、何か胸につっかえるものがあるのだと言うのならばそれを先に片付けてやるべきだろう。

そのためにはまず。
「何に対しての謝罪なんだ?」
そう確認しなくてはならない。
黒尾はがばりと顔を上げた。
表情はあまり変わらないが、
「そんなに謝られる心当たりあるのか?!
もしかして知らない間に気に障るようなことしてた?!」
と、声に焦りが見えた。
らしくない。
夜久は、ストローで牛乳をずずっと吸い上げながらひらひらと手を振った。
「逆、逆。
心当たり全くないから訊いたんだよ。
つかんな風に返すって事は何か後ろ暗いことでもあんのか?」
「ありません。
……けど、なんつーか、夜久に大分負担かけてるんじゃないかと」
「負担?」
「リエーフ」
「……ああ」
出てきた名前に、夜久は苦笑した。

灰羽リエーフ。
バレーボール初心者の一年生。
その長身が、音駒にとって今一つ欠けていた攻撃の決定力に繋がるのではと、
ある程度形になってからはスターティングメンバーに入っている。

だが、初心者だというこてを差し引いても、それ以前の問題だった。

スパイクが決まるようになるまでは監督の指示によりセッターである孤爪が面倒を見ていた。

それがそれなりになってからは、繋ぎのバレーが売りの音駒においてレシーブは大事だからと、
守備の要である夜久がその指導を行っていたのだが
灰羽は夜久の厳しい指導とレシーブの地味な練習があまり好きではないらしく、逃げ回る。
そうなると上達するわけもなく、時間も無駄に過ぎる。
春の大会の東京都予選までにはせめて人並み程度に磨きあげたいと夜久はより厳しく練習させ
灰羽は余計にレシーブを嫌がる。
それを夜久が怒る。
という悪循環が発生していた。

「けど謝る程の事か?
まあ基礎のレシーブ教えるのは俺じゃなくてもっては思うけど」
「いやいやいや。
夜久がきっちりしめてくれるからこそちょっとずつだけどレシーブ巧くなったんだと思うぜ。
合宿中にアイツのブロックみてて思ったわ」

今まで何度かあった合宿での自主練習では、
黒尾と梟谷の主将でありエースである木兎、副主将の赤葦の練習に混ぜていた。
最初はレシーブの練習をさせるつもりだったのだが、
なんやかんやあり、烏野の一年生二人もその常連に加わり、試合形式になったため
灰羽のポジションはミドルブロッカーで、ブロックもしっかりできなくては、と言うこともあってブロックを中心に教えることにした。
のだが。

「烏野のチビちゃんは普段もバレーの事でも真っ直ぐだし、
眼鏡くんも普段はツンケンしてっけどバレーの事に関しちゃめっちゃ素直なんだよな」
夜久は、すっと手を挙げ話を中断させた。
話の腰を折った形になるが、結構大事な事だ。
「その二人、俺はあんまり接点ないからお前の呼び方で覚えちまいそうだ。
顔はわかるんだけど、名前なんだっけ。
チビちゃんは研磨がよく話してくれるショーヨーでいいんだよな?」
合宿の最初に特に生徒達で自己紹介をしたりはしていない。
全員分、となると時間を取られてしまうからだ。
それでも特には困らない。
知りたいなら自由時間などに話し掛けて訊けばいい。
試合中に飛び交う声で、なんとなくはわかりもする。

「そうそう。チビちゃんは日向翔陽、だな。
眼鏡くんはツッキー……月島だよ。こっちは下の名前は知らないけど」
「まあ他校の選手のフルネームはあんまり知らないよな。
苗字さえ知ってりゃ困らないし。
試合で戦った相手でもチーム全員は知らないとか皆普通にあるよな」
「……ソーダネー」
夜久さんは中学一年生の時に試合で戦った俺の事を名前どころか存在すら覚えてなかったですよね、と
喉元まで出掛かったが呑み込む。
つまり中学一年生の時の黒尾は夜久にとってはその程度の存在だったのだ。
黒尾だって自分のチームに敗けた相手チームの選手の名前や顔を全部覚えているのかと訊かれたらあやしい。

それはさておき。

「初心者とか、これから巧くなりたいってヤツに一番大事なのって、チビちゃんや眼鏡くんみたいな素直さなんだと思うわけだよ。
こちとらセンパイではあるがちゃんとした指導者ではないし全部を鵜呑みにしろとまでは言わないけどな」

身長とセンスはあるが、技術はない。
目立ちたい、活躍したいという欲はあるが、そのための努力を惜しむ。
基礎が出来上がっていないのに自分のやりたいようにやりたがる。

それらは地盤が固まってからいくらでもしていい。
気質を否定するわけではないのだ。
目立ちたいというのなら思う存分活躍してチームに貢献してくれ。とさえ思う。
エースになってくれるというならむしろ大歓迎なのだが、
現実は今のところ口先だけで実力が伴っていない。
せめて全ての練習に真摯に向き合ってくれれば評価できるのだが。

勿論、自分で考えることも大事だ。
だがそれも経験や、基本を踏まえた上での発展形であるべきだと黒尾は思っている。
長い歴史のあるバレーボール。
細かいルールは変わり、けれど、ねっこは変わっていないのだから先人の知恵を活用しなくては勿体無い。

「リエーフは、まあ何かきっかけがあれば化けるかも知れないから根気よく鍛えるしかないだろうな。
出来れば俺達がいるときに開花して欲しいもんだけど」
そうなった姿を間近で観てみたい。
夜久は密かに思っていた。
なんだかんだで後輩は可愛いものだ。
調子に乗られると困るので、本人に向かっては言わないけれど。
厳しいのを好まない上に、褒めて伸びるタイプともまた違うので面倒この上ない。

「合宿でリエーフを混ぜてる木兎達との練習は俺も実になるけど
夜久は自分の練習削らせてだから悪いと思ってる」
「それで謝ったのか?
むしろリエーフの世話しなくてすんでる合宿中は芝山と他の学校のリベロとレセプションパーティ楽しんでるから気にするな」
「……ほどほどにな」

話には聞いていた。
練習後に百本サーブをノルマとする梟谷グループの中の一校である生川高校は
合宿中も練習試合の後サーブの練習をしている。
それに目をつけた夜久が、サーブレシーブの練習をさせてもらう許可を取り付けた。
最初は夜久と芝山だけだったのだが最終的には参加校全部のリベロが集結し、
さながらサーブレシーブ=レセプションのパーティのようだと言い出したのは誰だったか。
ちなみに生川の練習は、累計七本捕られる度サーブが一本追加されるシステムになったらしい。
五本だと追加されまくるため十本にしてくれと監督に頼んだ結果間を取ったとのもっぱらの噂だが真相はわからない。

夜久の表情を見ると、楽しんでいるのだと言うのが伝わり
それならなにより。と黒尾も思わず笑みを浮かべた。

普段の部活では灰羽のレシーブを指導していて
知り合ってから今までで一番イライラしているようで、はたから見てストレスたまってそうだと密かに心配していたのだが
自分なりの方法で憂さ晴らし出来ているのなら大丈夫だろう。
生川の選手達には御愁傷様と心の中で手を合わせておく。
尊い犠牲だった。

才能も一定以上必要ではあるだろうが、
練習も本番も楽しむ。
黒尾は、それが、天才の条件だと思っている。
だから黒尾の中では夜久は天才だ。
本人がそんなラベリングを必要としていないだろうし、誰かに同意して欲しいわけでもないので口に出したりはしない。

「謝ったのは、それもあるけど
同じ指導をしても身に付けてくのがチビちゃんや眼鏡くんばっかでごみ捨て場の決戦実現のためとは言え敵に塩おくりまくってる感じで
もし全国で烏野と当たって敗けるような事になったら悪いなーと。
先に、ね」
「気が早いな。
つーか万が一それで敗けたって怒ったりしないって。敗けるつもりもないけどな。
だって「全国制覇」……するんだろ?」

一年生の時に図らずも二人声を合わせて掲げた目標。
今またその単語で声が重なった。
今回は、黒尾が意図して乗せたのだが。

夜久は二年半前と同じように、
精悍さが増した貌で、
笑った。

春の大会、東京は全国大会に三校まで出場することが出来る。
それでも、叶うならば優勝してその先に歩を進めたい。
そのためには全国三本の指に入るエースの佐久早を擁する井闥山か
全国五本の指に入るエースである木兎率いる梟谷に勝たなくてはならないのだが。

場合によってはそのどちらかに敗けたとしても、全国大会に行ける可能性を残す音駒と違い
烏野は牛島のいる白鳥沢を倒さなくては全国大会の道は拓けない。

「ゴミ捨て場の決戦は俺も俺達の代で達成したいからな。
遠慮せずガンガン鍛えてやれよ。」
夜久にお墨付きを貰い、黒尾はホッと安心して、ようやく昼食に手をつけた。
夜久の方は食べ終わったパンの袋をくしゃりと丸めながら、
だとすると、と首を傾げる。

「そういう理由がなあ木兎と赤葦はなんで二人の面倒みてるんだ?」
「練習付き合ってくれてる礼とかじゃないか?」
「ああ……赤葦あたりはそうか。
木兎は単にしたいようにしてるだけだろうけど」
「やっくんのソレ木兎を貶してるんだか褒めてるんだかわかんない」
「褒めてるんだよ。
損得勘定ナシでそーいうのやっちゃうやつだよなあって」
「損得勘定まみれでスミマセンねぇ」
「それがお前だろ?
お前が木兎みたいだったら気持ち悪い」
「慰めてくれてんのか?
夜久、お前相当優しいよな」
「……」
露骨に厭そうな表情に変わった夜久に、
「なんでそういうリアクションなんだよ。
海や後輩連中からの言葉には素直に照れるクセに!」
と黒尾は憤慨するが、
姿勢を正し真顔になった夜久に
「黒尾、いつも御苦労様。
今の音駒のカラーはお前が主将だからこそだと思う。
お前が主将で良かった。」
と告げられ、腕で顔を隠して机に突っ伏した。
「……どうよ」
「スミマセン勘弁してください……」
隠しきれなかった耳が真っ赤に染まってるのを見て、夜久は複雑な心境になる。
思ってもないことは言っていない。
けれどやはり、自分達の関係には不似合いな言葉だとも思う。
引退か卒業の時まで取っておけば良かった。
夜久は孤爪とこっそり引退式か卒業式で黒尾を泣かせよう同盟を結成していた。
嬉し泣きの方向で。

その為にはやはり全国大会出場と、ゴミ捨て場の決戦と、全国制覇をやり遂げたい。
それがどんなに困難であろうとも。

顔を上げた黒尾の表情も引き締まっていて、
同じように決意を新たにしたことが見てとれた。

梟谷グループという形で繋がった四つの学校と、
その中の一校である音駒高校の猫又監督のはからいにより今年参加している烏野高校のバレーボール部で行われている合同合宿の隙間。

夏休みを利用した合宿は八月末で終わり、
その次、最後の合同練習は十月の頭。

その間の、ちょっとした出来事。
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