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御礼絵5種【スクアーロ;14/山本・獄寺・骸・雲雀;+10】
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Butterfly Therapy【遙怜】
Dolphin Therapy を書いてる最中にあれこれ怜視点だけじゃ書けないエピソードあるなあと思っての遙視点。
つまり結局遙→←怜。通常営業だった。うすらぼんやり真琴→怜っぽい描写があるけど淡い想い程度です。
遙はガチです。
遙=風呂のつもりでもなかったのにまた風呂でした…。

ネタ自体はアリガチですが遙が怜を可愛い可愛い思ってばっかりの大変残念な仕様です。スミマセン。
アニマルセラピーはイルカでーとか読んでの前作のタイトルだったわけですが
対になるならこうなるわな。的な。
セラピられたのはお互い、っていう解説は蛇足ですよね。


あー遙怜読みたい…




++++++++++++++++++++


あの日以来夢を観る。
何度も、同じ夢を。

「遙先輩。お世話になりました」
陸上部のユニフォームを着た怜が笑顔で俺に告げる。
「遙先輩のお陰でバタフライを泳げるようになって良かったです。
でも僕は還りますね」
「待て怜。俺はまだお前と、」
有らん限り手を伸ばすが届かない。
「選んだのは遙先輩です。
泳ぎたいのは、僕とじゃないんですよね」
笑いながら。言いながら。怜の片目から涙が一筋流れた。
その瞳はいつもの赤いフレームの眼鏡ではなく、棒高跳びの時に付けていたゴーグルで覆われていた。

実際は見たことがない。
怜が、泣いた姿なんて。
「     」
聴きたくない。そんな言葉は。
「怜っ!」
叫びは、夢の中で放たれたものか、現実でなのか、
わからなかったがそれで目が醒める。
いつも、いつも。




水泳部の練習が終わり着替えている時に、唐突に怜から言われた。
「遙先輩。お話があります。
この後お宅にお邪魔してもよろしいでしょうか」
驚いた。けれど、頷いた。
どんな内容だったとしても、怜からの言葉は全て受け入れるつもりだった。

二人きりの帰り道は言葉はなかった。
怜も俺もお喋りな方じゃない。
けれどすぐ傍に怜がいる。
それだけで、俺には嬉しかった。
怜がどう思っているかはわからないが。

「お邪魔します」
「ああ」
怜が脱いだ靴をきちんと揃えている。
俺の分まで。
こういうところが凄いと思う。
怜にとっては普通の事なんだろうが。

居間ではなく俺の部屋に案内する。
こんな機会でもなければ怜を招き入れる事はなかったかも知れない。

怜をベッドに座らせ、自分は椅子に座る。
不安を圧し殺し話を促した。

そして怜の口から飛び出したのは。
「遙先輩、僕に引け目を感じていらっしゃいますよね?
あの日の、リレーの事で」
気持ちいいぐらいの直球だった。
「……。ああ」
「遙先輩はお優しいですね」
怜はそんな事を言って微笑んだ。
俺は、一瞬何を言われたのかわからなかった。
「優しいのは怜だ。俺はただ弱いだけだ」
誰より優しい人間に、優しいなんて言われる資格はない。
「遙先輩」

「お前の部屋でトロフィーを観て思った。
お前はあれらを棄ててまで水泳を選んだ。俺の泳ぎを美しいと言って。そんな動機で。
お前が陸上に費やしてきた時間、
俺は凛の言葉一つで動揺して、無為に時間を過ごしてきただけだった。
それがもったいない事だったと気づかされた。
頑張ってきた怜の時間を奪ってあんな終わり方、駄目だろう! 提案されても! 選んじゃ!」
「遙先輩」
自分が情けなくて、最後の方は叫びに近かった。
怜は俺を労るように名前を呼んでくれた。
どうして。こんな俺に。

「でも僕は遙先輩に出逢えて良かったです。
それに大会は終わってしまいましたがそれでお別れという訳ではないんですし。
一緒にいられるのに、遙先輩がずっと落ち込んでいるなんて淋しいです」
「怜」
その言葉は、悪夢の呪縛から解き放つような、俺が求めてやまないものだった。
怜は知らないはずなのに。

「そうですね。
どうしても気にしてしまうと仰るのでしたら
償いということで、僕の願いを一つきいていただけますか」
怜はわざと軽い口調で言ったが、願ってもない申し出だった。
俺は怜の望むことだったらなんでもしてやりたい。
「わかった。何でも言ってくれ」
怜は少し躊躇った後、

「僕を抱いてください」

そう言った。



「わかった」
反射的に応えていた。断る理由はない。
「抱き締める、じゃなくてセックスしようってことだな? どうすればいい?」
俺がはっきりとした単語を口にしたからか、怜は赤面した。
自分から言っておいてそれとか、怜らしいと言うか。
「そうですね。その、準備とか必要ですし、お風呂、お借りしても良いですか?」
「沸かすか?」
「いえ、シャワーで充分です」
そうして怜は鞄を抱え浴室へと向かった。

準備、と言っていた。
それを怜が独りでやるのか、と考えるといてもたってもいられなくなった。

脱衣場で服を脱ぎ、静かに浴室への扉を開閉し、怜の背後に回り何をしているのか手元を覗き込む。
「……多分これでも大丈夫な筈ですが」
「それをどうするんだ?」
「滑りを良くするために後ろに……って遙先輩っ?! どうしてここにっ?」
怜は驚いて振り返る。
風呂なんだから当たり前だが、眼鏡を外していて、その分表情がより幼く見えた。
「手伝おうと思って」
「結構です!」
「そうか」
手を伸ばし怜のからボトルを奪い、中身を掌に出す。
ローションではなく洗髪用のコンディショナーなのはおそらく急場を凌ぐために使う事にしたのだろう。
怜はこうなることを確信したわけではない、むしろ、ないと思っていたということだろうか。

深く考えるのを止め、
「後ろだな」
座っていた椅子を奪い、その換わりに、支えるように空いている手で怜の尻を掴んだ。
「ですから結構ですってば!」
「ああ。手伝っていいんだろ?」
「……日本語って難しいですね……」
曖昧な言い回しを良いことに挙げ足を取っているだけだなんだが。
「っ!」
軽く身体を押すと怜は正面の壁に両手を付いた。
鏡に顔が写ったからか、恥ずかしそうに俯く。
いちいち可愛い。
無防備に、成長してからは誰にも見せたことがないであろう部分を俺の目に晒している。
ここに、俺を受け入れてくれようとしている。

「っ?!」
ひくつくそこの入口をなぞると、怜はその刺激に息を呑んだ。
「ここに、だな?」
「待ってください遙先輩っうあ、」
掌に出していた液体を擦りつける。
ゆっくりと人差し指を侵入させ、それを伝わせるように残りを中に注ぐ。
「一本だけでもキツい」
一度抜いて、ほぐすように周囲を押してみる。

「は、遙先輩っ! 自分でやりますから」
意思表示するように子供みたいにいやいやと頭を振る。
とても可愛いが、怜には悪いが言うことを聞いてやる気はなかった。
「駄目だ」
「どうしてっ」
「セックスは前戯も含めての事だろう」
挿れるだけなんて、それは多分セックスじゃない。
怜は俺に抱いてくれ、と言った。ならその心ごと抱き締めたい。

「……っ」
「怜」
うなじに唇を落とす。首筋にも。
身体を反転させ、頬にも。そして。
「……駄目です。遙先輩……っ」
合わせようととした唇を、手で塞がれた。
「何故だ」
「そこまでサービスしていただかなくていいんです……
キスは、大事な人に取っておいて下さい」
瞠目する。
サービス。そう言うなら、嫌じゃない、どころか、して欲しいって事じゃないのか。

俺の唇を塞いでいた怜の手を取った。
伝えなければならない気がした。今すぐに。

「怜。
俺が、罪悪感から、それを打ち消す条件として突き付けられたからってだけで
お前を抱くのを了承したと本気で思っているのか?」
「……言わないで下さい」
伏せた睫毛が震える。
何故。
お前は何を望んで。
俺が望んだのはたった一つだ。

「怜。……俺はお前を愛してる」
掴んでいた怜の掌を、自分の頬に当てる。
「先にこれを言わないでお前を抱くのは間違ってる気がした。
怜。ちゃんと聴かせろ。俺に抱かれたいと望むなら、お前は俺をどう思っているのかを」
「遙先輩」
「怜。……頼む。聴かせてくれ。お前の言葉で」
目を瞑り、懇願する。
安心したかった。
言葉がそれを与えてくれると怜が教えてくれた。
求めてばかりだ。それでも。応えてくれるなら俺は。

「……僕は、遙先輩が好きです。大好きです。
だから助けたかった。だから落ち込む姿なんて見たくなかった。
でも僕を見て欲しかった。選んで欲しかった。
だから抱いて欲しかったんです!」
求められたものを、いくらでもお前に与えてやりたいんだ。

鮮やかな紫紺の瞳から零れ落ちた一筋の涙を舌で掬う。
怜の泣き顔を初めて観た。
けれど夢で何度も見せられたような胸を抉る涙ではなくて。
乾いた心を満たすような、そんな。

それに、そんな熱烈な告白をされたら。
「俺はとっくに怜を選んでた」
俺の表情は蕩けきってしまっているだろう。

怜がくちづけを受け入れてくれたので、遠慮なくその均整の取れた身体を開いていく。
性急だと思われただろうし、その理由にも気づかれただろう。
俺は限界だった。
「っぅあ、」
秘所を中心にシャワーを当てると刺激に身を震わせる。
それを恥じる表情が俺の興奮を増幅させた。
従順なまでに俺の行為を受け入れている。
……俺の罪悪感を消すため、怜が望んだ事をしている、筈なのに俺の方が愉しんでいるような気がするが、まあいい。

「怜」
確認するように名前を呼ばぶと、頷いてくれた。
安堵する。本気で限界だった。理性も身体も。

後ろからの方が突っ込み易そうではあったが、
浴槽の縁で身体を支えさせ、向き合って抱き合う。
怜の貌が視たかった。
最初は異物感だけだったのが、俺がイイトコロを突いたからだろう、
一気に快感へと転じたのが、表情の変化と反応でわかった。

怜自身にも触る。
それだけじゃ物足りなくて、一度抜き、くわえ、しゃぶり、吸う。
直接的な刺激に、怜は顔を上気させ生理的な涙を流していた。
淫らなまでに扇情的な怜は、綺麗だった。
これを俺が引き出したかと思うと、嬉しくて堪らなくなる。
「好きだ、れい。……すごく、可愛い」
熱い吐息の中に甘い言葉が混じる。
怜への愛しさが溢れて口に出さずにはいられない。
「はるかせんぱい……っ」
応えるように、怜は嬉しそうに笑ってくれた。

何度も求め、懸命にそれに応えてくれたが、
さすがに受け入れる方の負担が大きかったらしく
数度目の途中で、怜は俺を入れてる状態のまま怜は気絶してしまった。



「……やりすぎた」
少し物足りないが怜の意識がないのに続ける気はない。
抜いて、怜を横たわらせる。
俺のベッドに運ぶにしても汗や白濁やらにまみれた怜にそのまま服を着せる訳にはいかない。
風呂場でしたのは幸いだった。
まあ、俺を魅了してやまない怜の身体を隅隅まで、果ては中まで洗うのは自制心との戦いだったが。
紅い痕が印されているのは俺が無意識に付けてしまったんだろう。
……水着になったら見えてしまう場所に。
怜に怒られる覚悟はしておくがどうせ目にするのは真琴と渚と江ぐらいの…
…先生に見られたらさすがにマズイか。

自分の身体はざっと流すだけにし、タオルで水分を拭き取る。怜も。
怜の着替えが無かったのを思い出し、裸のまま自分の部屋に戻る。
身長と体型がそんなに違わないので俺の服で大丈夫だろう。眠るのに丁度良さそうなゆったりしたルームウェアを選ぶ。
制服で寝かせるわけにはいかない。
……多分、だが、怜は今日はもう帰れない筈だ。
下着までは……換えなくても良かったかも知れなかったが。

俗に言うお姫様抱っこの形で怜を抱えて運び、ベッドに下ろす。
あどけない寝顔にむらっと来るがなんとか抑える。
自分がこういうことに対しこんなに精力旺盛だとは知らなかった。
怜に抉じ開けられた。あんな風に煽るから。こんなに執着してしまう。

眠る怜を残し、用事を済ませようと階下に降りると玄関に真琴が立っていた。
「……何しに来た」
現実に引き戻されたようで、途端に熱が冷めた。
むしろ普段と同じつもりだったが、真琴が戸惑いの表情を見せる。
素っ気なさ過ぎたか、真琴は申し訳なさそうにでかい身体を小さくした。
「怜の話、なんだったのか気になって……
靴、まだあるけど……怜は?」
心配してくれているのはわかっている。
だから、言っておこうと思った。
「俺のベッドで寝てる」
「……なんで?」
真琴は首を傾げた。それはそうだ。
「俺に抱かれて意識が飛んだ」
「……え? ハルが、怜を……どうしたって?」
「怜とセックスした」
理解できていないだろう真琴にはっきりとした言葉で告げると、
「っハル、まさか無理矢理?」
真っ先に返されたのがそんな問いだった。
俺を信用してないのか怜を信じたいのか。
「違う。怜から言い出した。自分を抱けと」
「……怜、が? そっか……」
真琴は表情を引き締め瞑目した。
真琴も真琴で思うところがあるんだろう。
言い出さないなら深く追求したりはしないが。

交換条件としてはおかしいかったと怜は気づいているんだろうか。
俺の、怜に対する罪悪感を払拭するためと言うなら、自分に抱かれてくれと言い出す方がしっくりくる。
……実際のところそれでも受け入れただろうが、俺が抱く側で安堵したのは揺るがない事実だ。

抱かれる側ならその気がなくても行為に及べる。
抱く側なら、いくら本人に実行するつもりがあっても肉体的に無理な場合もあるだろう。
怜は―逃げ道を作ったのか?
それとも、試したのか。自分と、俺を。
怜の性格からすると前者だと思う。
そしてきっと、この結果は想定外だったんだ。
俺が怜を好きだとは、思いもよらなかったんだろう。
真琴は表情を引き締めると、真剣な眼差しを俺に向けた。
それを真っ向から受け止める。
「ハル。そういうことなら怜を任せるけど……
泣かせたりしないでよ?」
「さっきさんざん啼かせたばかりだ」
「っそういう意味じゃなくて!」
真琴が真っ赤になって怒る。いや、照れているのか。
「わかってる。大事にする。俺には過ぎた恋人だからな」
「……そっか」
「ああ」
真琴は肩を落とした。
安堵からなのか、諦めからなのかは―尋ねるべきじゃないだろう。
「なら俺からはもう何も言わないよ。
じゃあねハル」
俺の返事に満足したのか、真琴は笑顔で帰って行った。
どこか切なそうな空気を纏わせたまま。

多分その起因たる想いは俺にじゃなく怜に向けられたものだ。

部屋に戻ると怜の瞳が開いていた。
起き上がってはいない。…いや、…起き上がれないのか。
「目が醒めたか」
「遙先輩」
「寝てろ。
悪いがケータイを借りた。家には連絡したから今日は泊まっていけ。
動くのは無理だろう?」
「は、え、……すみません。ではお言葉に甘えます……」
日も暮れた。もう少し浅い時間だったら送っていっても……いや駄目だ今日は帰したくない。
「謝るのは俺だ。
悪い。歯止めが利かなかった。怜が可愛すぎて」
「はっ、はるかせんぱい?!」
カッと、怜の顔が一瞬で朱く染まった。
初々しい反応だが……少々不安になる。

「怜。俺達は両想いなんだよな?」
「は、……はい、多分」
「多分?」
聞き咎め眉を潜めると怜は慌てて付け加えた。
「遙先輩が僕を好きだと言って下さるならそうです!」
「言っただろう。何度も。覚えてないのか?」
「……夢、みたいで」
それは俺も同じだが夢だと困る。
「夢じゃない。愛してる。怜」
「……ぼ、僕も、です」
懸命に応えようとしてる怜はけれど愛してるとは口に出来ないようだ。
それでも気持ちは充分に伝わり、微笑む。

「つまり恋人になれたわけだな。
だからこれからは俺はお前にちゃんと話す。
怜も、俺に言いたいことを全部言え」
「……? あの?」
「まだあるだろう。言え」
俺の中のわだかまりは消えた。
怜のお陰で。
だが気づいている。
怜の中にも似たような傷痕が残っている事を。

「大丈夫だ。俺の答はお前の望むものだから。」
力強く保証する。
怜は、掛け布団を引き上げ顔を半分隠し、
吐き出した。

「……遙先輩。僕はもう、遙先輩を譲りたくないです。誰にも」
それが恋愛だけではなく水泳の事でもだと伝わった。

それが他人を優先することを厭わない怜のたった一つの我が儘なら。

「ああ。俺は二度と、お前がいないリレーは泳がない。」

「っそこまでは……」
「もともと俺はフリーしか泳がないと宣言してたんだ。問題ないだろ。
……俺も、これから先お前を誰にも譲る気はない。」
怜がいなかったらリレーを泳ぐ事はなかった。
泳ぐこと、水に触れることばかりを欲する駄目な先輩の俺を、怜は純粋に慕ってくれた。
盲目的ではない。けれども真っ直ぐに。
リレーでの決断だけじゃない。
出逢って、知り合って以降のその態度こそが、俺を救ってくれていたと、怜は想像もしていないだろうが。

「遙先輩……」
まだ疲れているようだった。
いつもより舌っ足らずに聴こえる。
可愛……そろそろ自重するか。
「もう少し寝ていろ。飯が出来たら起こす」
「……はい」
ゆっくりと頭を撫でると、怜は気持ちよさそうに瞼を落とした。
その耳許に囁く。
「有り難う、怜。
これからよろしくな」

虫籠に囚われていた蝶を解放出来ただろうか。
その蝶は自らの意志で共に生きてくれるだろうか。

そうあればいい、と安らかな寝息を立てる怜を眺めながら

祈るように願った。

「……よし。」
料理が終わり、後は食卓に並べるだけだから怜を呼ぶかとエプロンを外していたら
「……遙先輩」
起こしに行こうとしていた本人に声を掛けられた。
「起きたのかれ……」
「ドライヤー貸していただけませんか」
「……い」
半乾きのまま寝かせてしまったからだろうか。
怜の頭―髪の毛は、あちこち跳ねまくっていた。

「……」
「遙先輩?」
小首を傾げる怜は破壊力抜群で慌ててぱしりと口許を押さえる。
駄目だ。にやける。なんだこれ可愛すぎるだろう。

「悪い。ドライヤーはない。母親は持ってたが持っていってる」
「……遙先輩には必要なさそうですもんね。
綺麗なさらさらの髪ですし」
「もう一回風呂に入って洗えば直るんじゃないのか?」
「ドライヤーがないんじゃ同じ結果ですよ。諦めます」
気にして跳ねている髪を一房つまみ弄っている。
「真琴に借りに行くか?」
「ええと……そう……ですね、明日、帰る前に借りてきていただけると助かります……」
「大丈夫だ。あそこの家なら快諾して貸してくれる」
怜のこの姿を見れば一発だろう。
本人はなるべく他人に見られたくないみたいだから俺が借りていくのでも構わないが。
「お手を煩わせてすみません」
しょんぼりする怜を、
「大したことじゃない」
と慰める。
実際そんなに手間じゃない。

「丁度出来たところだ。夕食にするか」
「あ、はい。運ぶのぐらいは手伝わせてください」
「今日は大人しくしておけ。
……そう言えば怜。お前、座れるか?」
「……っ!」
はっと気付き、かあっと朱くなって眼鏡を押し上げる。
「へ、平気だと思います」
「切れてはなかったが少し腫れてたように見えた。
無理をさせたからか」
「……あ。あの。遙先輩。何故、そんな」
「掻き出した時に確認した」
「〜っ!」

怜はかけている眼鏡のフレームくらい顔を赤くした。
「そんなとこ視ないで下さい……っ」
「何故だ。大事な事だろう。
家にある薬で使えるのがあれば塗ってやるが」
「け、結構で……いえ、遠慮します!
やるとしても自分で出来ます!」
「……わかった」
あからさまにほっと安堵の息を吐く怜に少し意地悪をしたくなる。
純粋に、手助けしたいだけだった分。
「ならその様子を視させろ」
「余計恥ずかしいですっ!」
「冗談だ」

嫌がることを無理矢理やるつもりはない。
そう言うと、怜は目を丸くした後、まだほんのり染まっている頬を緩ませた。

「遙先輩も冗談をおっしゃるんですね」
「……お前は、ついからかいたくなる」
「それは嬉しいようなちょっとムッとしてしまうような複雑な評価です……」

正座を少し崩せば大丈夫みたいです、と言う怜と一緒に食事を済ませる。
洗い物ぐらいは手伝わせてください、と食い下がる怜と共に台所で食器を片付けながら、
なんでもないことのように
「怜が寝ているときに真琴が来たから俺達の事を話した」
と告げた。
「……ええと、僕達のこと、と言いますと?」
「セックスしたことと恋人になったことだ」
ぴたり、と怜の動きが止まる。
「そ……うですか」
「……黙っていた方が良かったか?」
吹聴して回る事ではないが、秘密にするのもどうかと思った。
しかしもう一人の当事者である怜に確認を取らないで勝手をしたのは不味かったかと今更ながらに思い至った。
「いえ。その……した事まで教えるのは如何かとは思いますが、
真琴先輩には……報告しておいた方がいいんでしょうね。
なら、僕も渚くんに教えておかないとですね。心配かけたでしょうし」
「……そうか」
その通りだったが、なんとなく面白くない気がした。何故だろう。

「今、遙先輩が渚くんに抱いた感情は
僕が真琴先輩に抱いたものに近いかも知れません」
「どういうことだ?」
見透かすような言い方に怪訝な表情をしてしまったんだろう。
怜は自嘲するように笑った。

「遙先輩の一番の親友は真琴先輩、なんですよね。
恋人になれたのですから、それを羨ましいと思うのは筋違いなのはわかっているんですが。」
「……ああ……」
そう、か。腑に落ちた。
種類が違っているのは理解しているつもりでも、怜と渚の間にある深い繋がりを思い知らされたようで
嫉妬、したのか。これが、嫉妬という感情なんだな。
だけど怜が仲間になってくれるまで、俺は真琴にきちんと向き合ってやろうとしたことはなかった気がする。
家が近い分長い付き合いではある。家族のような付き合い、とは聞こえはいいが、
逆に、個人として関心を向けてやっていなかった。
水泳部が始動して、合宿を経て、リレーを泳いでやっと、
真琴を「友達」として観るようになった。そんな気がする。
ちゃんと、真琴が俺に向けてくる想いに応えられるようになった、そんな気が。

それに対し怜と渚は短い付き合い―それこそ、俺や真琴が怜と知り合ったのとそんなに変わらないのに、
あっという間に親密になったように見えた。
渚の性格の成せる技だろうが、怜は、
渚によって大分変化したんだろうと、そんな風に感じる。
家にも何度も遊びに行ったと―……

「遙先輩?」
「怜。今度、俺一人でお前の家に遊びに行きたい」
脈絡はなかったかも知れない。
けれど怜は俺のその言葉に、
「お待ちしてます」
とても嬉しそうにはにかんだ。


「ところで、江さんや凜さんには?」
「面倒だからバレるまで黙っておく」
| 小話;フリー! | 23:36 | comments(0) | - | pookmark |↑PAGE TOP
Dolphin Therapy【遙怜】
いーかげん小話にFreeカテゴリを追加するべきだと思わなくも。

遙←怜って書いてないなあと思って怜視点。最終回後(お察し)。
えろ。あんまり執拗には書いてませんのでヌルいよ。
むしろ同じ話の遙視点の方が書いてて楽しかったっていう。(後日アップ予定)



+++++++++++++++++++



あの日以来、どうにもぎこちなくなってしまった気がする。
それは自分の望むところではなかった。
だからなんとかしたかった。
なんとしてでも。

「遙先輩。お話があります。
この後お宅にお邪魔してもよろしいでしょうか」

練習終わりの着替え中にそう切り出すと、遙先輩は戸惑いを見せ、けれど
「……ああ。わかった。」
頷いてくれた。
「だったら僕は先に帰るね」
「じゃあ俺も渚と一緒に行くよ」
「別に、帰りは一緒でも構わないのでは」
慌てて止めるけれど真琴先輩は柔らかく微笑む。
「うん、でもなんとなく、ね。
鍵だけ頼めるかな?」
「はい。……すみません、真琴先輩。渚くん」
渚くんと真琴先輩が妙に気を遣ってくれて恐縮してしまう。

帰り道は無言だった。
余り二人きりになることはなかったし遙先輩は無口な人だった。
僕もあまり自分から話題を提供する方ではない。
それでも僕はそんな空気が嫌いじゃなかった。
遙先輩は、居心地が悪いと思っていたとしても。

「お邪魔します」
「ああ」
玄関で脱いだ靴を揃える。
余計なことかとも思いながら、遙先輩の分も。

「話。俺の部屋でいいか?」
そう訊かれて、いつもは居間に通されていたから驚いてしまった。
「……構いません」
「こっちだ」
促され後を、付いていく。緊張を悟られないように。
「ベッドの上にでも座れ」
「は、はい」
荷物を足元に置き、おずおずと、真ん中あたりに腰を下ろす。
遙先輩は椅子を動かすと僕の正面あたりに置いた。

「……話って言うのは何だ」
探るような眼を向けてくる。深い水のような美しい眸。
それが少し濁っているように思えるのは気のせいではないはずだ。
震えていない。大丈夫。なんでもないように言える。

「遙先輩、僕に引け目を感じていらっしゃいますよね?
あの日の、リレーの事で」
「……。ああ」
「遙先輩はお優しいですね」
あれは僕が提案した事だ。だから遙先輩が気に病む必要なんてない。
何一つ。
「優しいのは怜だ。俺はただ弱いだけだ」
絞り出すような声は、あの時荒れた凛さんの姿を視た時のように苦し気だった。
「遙先輩」
「お前の部屋でトロフィーを観て思った。
お前はあれらを棄ててまで水泳を選んだ。俺の泳ぎを美しいと言って。そんな動機で。
お前が陸上に費やしてきた時間、
俺は凛の言葉一つで動揺して、無為に時間を過ごしてきただけだった。
それがもったいない事だったと気づかされた。
頑張ってきた怜の時間を奪ってあんな終わり方、駄目だろう! 提案されても! 選んじゃ!」
「遙先輩」
叫ぶ遙先輩の名前を呼ぶしか出来ない。
そんなふうに、そこまで考えてくれていたとは思わなかった。
嬉しい、と思うのは不謹慎だろうか。

「でも僕は遙先輩に出逢えて良かったです。
それに大会は終わってしまいましたがそれでお別れという訳ではないんですし。
一緒にいられるのに、遙先輩がずっと落ち込んでいるなんて淋しいです」
「怜」

多分、いくら言葉を重ねても遙先輩の罪悪感は拭えない。
想定内だった。
けれど実際言うことになるとは思わなかった。
心臓がばくばく言っている。
緊張で口の中が渇く。
なるべく、軽く。笑顔で切り出さなくては。
「そうですね。
どうしても気にしてしまうと仰るのでしたら
償いということで、僕の願いを一つきいていただけますか」
「わかった。何でも言ってくれ」
即答してくれた事が嬉しかった。
嬉しくて―申し訳なかった。
だって僕の願いは、

「僕を抱いてください」

こんなに浅ましいものなのだから。



断られるかと思った。
笑い飛ばす―のは性格上ないにしても、冗談だろ、と言うかと。
なのに。
「わかった」
躊躇いもなく承諾するなんて。
「抱き締める、じゃなくてセックスしようってことだな? どうすればいい?」
そして遙先輩の口からそんな言葉を聴くことになるなんて。
自分で言い出しておきながら赤面してしまう。

「……そうですね。その、準備とか必要ですし、
お風呂、お借りしても良いですか?」
軽く調べただけでも初めてでいきなりは無理だとあったので準備が必要だ。
それにやはり綺麗な身体で挑みたい。
「沸かすか?」
「いえ、シャワーで充分です」
タオルは自分のものがある。
練習がある時は多めに持って来ているので未使用だ。
シャンプーやコンディショナーも小さいサイズのものを持ち歩いている。
鞄ごと持っていくのが早いだろう。

裸になり、遙先輩の家の浴室に足を踏み入れる。
緊張で身体が堅くなっているのがわかる。
一つ深呼吸した。
いつもの癖で眼鏡を押し上げようとして、外していたのを思い出し一人赤面する。
「あまりお待たせするのもいけませんね」
身体を終わり、持ち込んだコンディショナーを手に取る。
「……多分これでも大丈夫な筈ですが」
「それをどうするんだ?」
「滑りを良くするために後ろに……って遙先輩っ?! どうしてここにっ?」
振り返ると、全裸の遙先輩が中腰で僕の手元を覗き込んでいた。
お風呂なのだから裸で当たり前ではあるのだが、
それに幾度か見たことがあるのだけれど直視できずに眼を逸らしてしまう。

扉を開閉する音は結構大きかったと思う。
単に僕が気づかなかっただけなのか遙先輩がこっそり開けたのかどちらなんだろう。
「手伝おうと思って」
「結構です!」
「そうか」
遙先輩は頷くと僕の手からボトルを奪い、その中身を掌に出すと、
「後ろだな」
ともう一方の手で僕のお尻を掴んだ。
座っていた椅子を奪いその換わりに支えるように。
どうして。
「ですから結構ですってば!」
「ああ。手伝っていいんだろ?」
「……日本語って難しいですね……」
確かに否定の意味だけではないけれど。
「っ!」
身体を押され、正面の壁に両手を付く。
目の前の鏡に自分の顔が写り、見ていられなくて俯いた。
後ろから遙先輩の視線を感じる。
誰にも、自分でさえ観たことのない部分を凝視されて恥ずかしい。
凄く、恥ずかしくて、涙が出そうになる。

「っ?!」
不意に指、が、入口をなぞり、その刺激に息を呑んだ。
「ここに、だな?」
「待ってください遙先輩っうあ、」
遙先輩の体温で温められたものの、まだ冷たい液体が擦りつけられる。
多分、人差し指が侵入してきて、それを伝わせるように残りが中に注がれる。
「一本だけでもキツい」
指を抜き、ふにふにと、ほぐすように周囲を押している。

「は、遙先輩っ! 自分でやりますから」
子供みたいにいやいやと頭を振る。
こうでもして意思表示をしないと頑なな遙先輩には通じないと思ったからだ。
けれど返事は
「駄目だ」
の一言で。
「どうしてっ」
「セックスは前戯も含めての事だろう」
「……っ」
「怜」
うなじに唇が落とされた。
首筋にも。頬にも。そして。
「……駄目です。遙先輩……っ」
いつの間にか向かい合う形に身体の向きが変わっていた。
遙先輩がやんわりと僕を反転させたのだ。
僕の身体に触れてきたその唇を、手で塞ぐ。
「何故だ」
だってこれじゃ好き合ってる同士みたいだ。

「そこまでサービスしていただかなくていいんです……
キスは、大事な人に取っておいて下さい」

遙先輩は、僕の手を取った。
「怜。
俺が、罪悪感から、それを打ち消す条件として突き付けられたからってだけで
お前を抱くのを了承したと本気で思っているのか?」
「……言わないで下さい」
わかっていた。
遙先輩が僕を気にしているとわかった時に、期待してしまった。
だから。
突飛な提案で様子を窺ったのだ。
断られるならそれでも良かった。
僕を軽蔑して切り捨てて憂いを断ってくれるのでも。
けれど遙先輩は頷いたから。
一度だけでも繋がれるなら。

「怜。……俺はお前を愛してる」
遙先輩は、僕の手を、掌を、自分の頬に当てた。
「先にこれを言わないでお前を抱くのは間違ってる気がした。
怜。ちゃんと聴かせろ。俺に抱かれたいと望むなら、お前は俺をどう思っているのかを」
「遙先輩」
「怜。……頼む。聴かせてくれ。お前の言葉で」
目を瞑り、懇願するように、そんな風に言われては。

「……僕は、遙先輩が好きです。大好きです。
だから助けたかった。だから落ち込む姿なんて見たくなかった。
でも僕を見て欲しかった。選んで欲しかった。
だから抱いて欲しかったんです!」
本当の気持ちを隠し通せる訳がない。

眼の下を舌でなぞられ、どうしたのかと思ったら、どうやら涙が零れていたらしい。
遙先輩は観たことのないような表情をしていた。
どう表現すればいいのだろう。
まるで
「俺はとっくに怜を選んでた」
幸せの絶頂、みたいな。

僕がくちづけを受け入れた後の遙先輩は正に水を得た魚のようだった。
今までの辿々しい動きが嘘のように、僕の身体を解きほぐしていく。
性急だった理由は、多分、その、遙先輩が限界だったから、だろう。
「っぅあ、」
シャワーを当てられその刺激に身を震わせる。
恥ずかしい、けど、遙先輩の眸が興奮で煌めくのを目にして甘んじて受け入れる。
遙先輩が悦んでくれるなら、構わなかった。

「怜」
確認するように名前を呼ばれ、頷くと、遙先輩はほっとしたように口許を綻ばせた。

浴槽の縁で身体を支えさせられ、向き合って抱き合う。
「好きだ、れい。……すごく、可愛い」
熱い吐息の中に甘い言葉が混じる。
「はるかせんぱい……っ」
遙先輩の中の僕へ対する罪悪感を消し去りたかった。
だけど本能のまま、貪るように遙先輩を味わい、感じるまま、素直な言葉を口にして、理解した。

解放されたのは僕の方だ。

何度も求められ、それに応え、気がついたらベッドで寝ていた。
「……あれ、僕、は」
横になったまま室内を見回す。
遙先輩の部屋のようだ。
頭を触ってみる。髪が少し湿っている。
身体はきちんと拭かれていた。
中、にも、残っていない。
身に付けているのは自分の物ではないルームウェア。
起き上がろうとして、断念した。
今すぐには無理だ。
ならどれだけ待てば動けるか、と言うと、うん、さすがに経験の無いことなので判断できない。
けれどこのままじゃ。

「目が醒めたか」
「遙先輩」
「寝てろ。
悪いがケータイを借りた。家には連絡したから今日は泊まっていけ。
動くのは無理だろう?」
「は、え、……すみません。ではお言葉に甘えます……」
正確な時間はわからないけど、多分もう夜だろう。
なら、今日は自力では帰れまい。
「謝るのは俺だ。
悪い。歯止めが利かなかった。怜が可愛すぎて」
「はっ、はるかせんぱい?!」
最中に言われるのとはまた違う。
カッと、自分の顔が朱く染まったのがわかる。

「……怜。俺達は両想いなんだよな?」
「は、……はい、多分」
「多分?」
遙先輩が眉を潜めたので慌てる。
「遙先輩が僕を好きだと言って下さるならそうです!」
「言っただろう。何度も。覚えてないのか?」
「……夢、みたいで」
「夢じゃない。愛してる。怜」
「……ぼ、僕も、です」
遙先輩に応えようとしてけれど愛してるとは返せなくて、
でも遙先輩はそれでもいいと微笑んでくれた。

「つまり恋人になれたわけだな。
だからこれからは俺はお前にちゃんと話す。
怜も、俺に言いたいことを全部言え」
「……? あの?」
「まだあるだろう。言え」
そう言われても。
言っても良いのだろうか。我が儘でしかないのに。

「大丈夫だ。俺の答はお前の望むものだから。」
背中を押すような言葉に、僕は目を閉じ、深いところにしまいこんでいた願いを引き揚げる。

「……遙先輩。僕はもう、遙先輩を譲りたくないです。誰にも」
これは恋愛とかではなく、遙先輩と繋がれた、水泳の事でもだ。
言外の意図を、遙先輩は汲んでくれた。
「ああ。俺は二度と、お前がいないリレーは泳がない。」
「っそこまでは……」
「もともと俺はフリーしか泳がないって宣言してたんだ。問題ないだろ。
……俺も、これから先お前を誰にも譲る気はない。」
「遙先輩……」
「もう少し寝ていろ。飯が出来たら起こす」
「……はい」
優しく頭を撫でられ、気持ちよくなって瞼が落ちる。このまま眠りについてしまおう。
直前に耳に届いた、
「有り難う、怜。
これからよろしくな」
遙先輩の囁きに、胸を躍らせながら。
| 小話;フリー! | 04:41 | comments(0) | - | pookmark |↑PAGE TOP
水と空の交点
遙怜。
大分前に書いた 水と空の隙間 の続き。
けど読んでなくても多分大丈夫。
既に遙→怜が成り立ってて県大会後くらいからであの最終回には辿り着かなさそうなルート。
というのだけ踏まえてていただければ。
あまちゃん先生の格言は…長年住んでると洗脳されるんです特産品なので。あとテレビでやってたので。
しかし最寄りの某アニメショップは怜推しから遙怜推し(曲解)になったと書いてあったのだが
だったらパネルとか二人並べるべきだと思うの。
ディスプレイを遙怜で埋めるべきじゃねいやいやまじで。




+++++++++++++++++


放課後、水泳部に向かう途中で真琴は担任の先生につかまり、荷物運びを言い付かった。
真琴は快く引き受け、遙に部室の鍵を持たせて先に行かせる。

用事は然程時間が掛からずに済み、少しだけ遅れて水泳部の部室の前に着くと、
中から着替え中らしい衣擦れの音と怜と遙の声が聴こえてきた。

「ですがそれでは」
「いい。身体で払ってくれれば」
そのやりとりに思わず
「何の話?!」
ばたーんとノックもせず勢いよく扉を開けてしまった。
その音に室内にいた面々は驚いて振り返った。
「真琴」
「真琴先輩、お疲れ様です」
「まこちゃんおっ疲れ〜」
会話には加わっていなかったが渚もいたらしい。
真琴の姿を確認するとその名を呼んだ。
遙から話を聴いていたのだろう。怜が労いの言葉を掛けてくる。
渚のそれは、別の意味も含まれているようだったが。

脱ぎかけではあるものの三人が制服のままだった事に安心し、真琴は後ろ手で扉を閉めた。
プール近辺を通り掛かる人間はそうそういないとは言え、
いくら慌ててたからとは言え裸になっている時に開けていたらと申し訳ない気持ちだ。
真琴はこほん、と誤魔化すように口許に手を当て、改めて問う。
「ちょっと聴こえて来たんだけど、何の話だったの?
身体で払うとかなんとか」
ああ、と、怜は薄く頬を染めはにかんだ。
「遙先輩がプールで泳げる期間だけでも下宿しないかと誘って下さってたんです」
「いつの間に……」
「家族に相談しましたら母に是非そうさせていただきなさいと言われまして。
どうやら水泳を始めてから帰宅した時に相当疲れ果てて見えていたようでかなり心配をかけてしまっていたみたいです」
眉を下げ、困ったように笑う怜に、渚は「仕方ないよ〜」とフォローする。
「水泳の疲れ方って他のスポーツとは違うみたいだからね〜。
怜ちゃん、始めたばっかりの頃授業中寝ちゃったりもしてたよね」
「渚くんっ! それは内緒にって言ったじゃないですか!」
「そーだったっけ? ごっめ〜ん☆」
てへぺろ、と悪びれない渚に「まあ良いですけど……」と怜は肩を落とした。

「そんなにだったのか」
「あんまり根をつめちゃ駄目だよ怜」
「はい。すみません。」
遙と真琴に労られて怜は恐縮する。
こんな風に心配を掛けるだろうとわかっていたから怜としては黙っていて欲しかったのだが
渚逆に知っていて貰いたかった。
怜がどれだけ水泳に打ち込んでいるかを、二人にも。

「けどやっぱり地区大会までにはもっとちゃんと泳げるようになりたいです。
それでご厄介になることにしたと遙先輩に報告して、家賃の話になったのですが」
「要らない。身体で払って貰う」
「―と言われまして。詳しく訊こうとしたところに真琴先輩がいらっしゃったんです」
「そうだったんだ……
で、ハル、身体でって一体……」
真琴は遙が怜に懸想していることを知っていた。
だからよもや無体を働くつもりなのではと懸念したのだが。
「金より家事を手伝って貰える方が助かる」
思ったよりも現実的な理由だったのでほっと息を吐く。
「遙先輩、あの広いお家に一人なんですもんね」
毎日でなくとも全部の部屋を小まめに掃除するとなると大変だろう。
それに加えて食事や洗濯や雑事を、学校に通いながらとなると大変だろう、と、
実感は伴ってはいないが怜にも理解できた。

「去年は部活がなかったからなんとかなったが俺も今は家事が滞り勝ちだ。
あちこち手を抜いてる有り様だから手伝って貰えると助かる」
「お安い御用です! 分担しましょう!」
自信たっぷりに胸を張って応える怜に、渚はきょとんとした。
「れいちゃん、家事出来るの?」
てっきり理論を覚えてきます、とでも応えるのかと思ったが。
「一通りは。ちょくちょく母を手伝ってますので。
掃除や洗濯の仕方は家によってやり方が違うかも知れませんから最初は教えていただく事になるでしょうが」
「料理は? 前にハルちゃんの手伝いはしてたけどどのくらい出来るの?」
「お弁当は毎日自分で作ってますよ」
「そうだったの?」
真琴は驚いた。
真面目だとは思っていたが学業や部活だけではなく家庭にまで及んでいるとは思わなかった。
礼儀正しい事もありそこまで意外というわけではないが。
「偉いな」
遙はなんだか感動している。
「そんなことありませんよ。僕じゃ遙先輩みたいに独り暮らしは出来ないと思います。
遙先輩がご一緒ならなんとかなると思って」
眉を下げ、
「……他力本願でしょうか」
と首を傾げて笑う怜に
「存分に頼ってくれて良い」
と遙は力強く頷いた。

「ハルちゃんに頼ったら食卓が鯖まみれになっちゃいそうだけどねー」
「でも通学の面は渚だって条件同じだよね?
怜だけっていうのは」
どうなんだろう、という真琴の言葉を、渚は「僕はいいよ」と遮った。
「そんなに大変だとは思ってないし」
小学生の頃スイミングスクールに通うので慣れてるし、と言った渚は既に水着に着替え終わっていて、
真琴も慌てて上着を脱ぎ始めた。
遙と怜も話を切り上げ、着替えの手を早める。

一通り泳ぎ、江に休憩を促され、渡されたタオルで身体を拭いていた怜は
はっと何かに気づいたように顔を上げると顧問の天方の元へと駆け寄った。
「天方先生!」
「どうしたの? 竜ヶ崎くん」
デッキチェアーに腰掛け日傘をくるくると回しながら、天方は首を傾げた。
怜が自分に話し掛けてくるのは珍しい。
怜は直立不動で「お尋ねしたいのですが」と切り出した。
「あの、僕、プールが使える間遙せんぱ…七瀬先輩のお宅に下宿させていただく事になったんですが
学校にも申請した方がいいんでしょうか?」
「あら、そうなの?」
「はい」
「えっ? そうなんですか?!」
話が聴こえたらしい江が背後で驚きの声をあげた。
自分に向かってではないとわかったが怜は思わず振り向くと、プールの中の遙が水面から顔を出した。
「ああ」
そのまま水からあがるぽてぽてと歩いて怜の隣で立ち止まった。
「怜。そういう話は俺も混ぜろ」
「すみません。急に思い付いたもので」
「そうねぇ。期間限定ならそんなに面倒な手続きは要らないと思うわ。
ご家族も承諾しているのなら問題ないでしょうし。
連絡先とかは変更しなくていいんでしょう?」
「はい。ずっと一緒に住むわけではないですし」
「俺はずっとでも構わないが」
「ハルのご両親が構うだろ? このままずっと帰って来ない訳じゃないんだから」
真琴のたしなめに遙はむっと黙り込む。
いつの間にか部員全員が天方の周囲に集結していた。
「それでも、一泊二日とかじゃなくシーズン中ずっとってなると荷物の移動大変でしょう?
私が車出しましょうか?」
「そんな! 天方先生のお手を煩わさせる訳には……!」
両手を振り遠慮する怜に、天方は微笑む。
「良いのよ。水着を買いに行くのは付き合えなかったのだしそのくらいは」
「あまちゃん優し〜!」
「竜ヶ崎くんは誰かさん達と違って問題を起こさない良い子ですしね?」
茶化した渚に天方はにっこりと含みのある笑顔を向けた。
「問題……起こしたんですか?」
「まあ……色々と」
真琴は驚きの表情で見上げてくる怜の視線から目を逸らし誤魔化した。
「取り壊し寸前のスイミングスクールに入ったり鮫柄のプールに泳ぎに行ったりしたぐらいだ」
代わりに、遙が簡潔に応える。
「不法にね。
全く、七瀬くんは本当に悪びれないわね」
そのやりとりで、渚だけではなく三人でやったことなのだと察した。
「どうしてそんな事を」
訊かれ、遙は怜をじっと見つめ返した。
「遙先輩?」
「……知りたいなら今度ちゃんと話す」
「? はい。ご迷惑でなければ聞きたいです」
「迷惑なわけないだろ」
怜も既に巻き込まれている。
遙はそう思った。
だから、岩鳶水泳部の―自分の問題を、包み隠さず教えておくべきだと、そう。

次の休みの日に荷物を移動させるという事になり、
天方は言われた通りの時間に竜ヶ崎家に車を乗り付けた。

「おはようございます天方先生。
宜しくお願いします」
「おはよう竜ヶ崎くん。
荷物、以外と少ないのね」
大きめのバックを二つだけ抱えた怜に天方は驚く。
段ボールを一つ二つ持っていくのかと思っていた。
「勉強道具と衣類だけですから。
着替えも最小限にしました。いざとなったら貸すと遙先輩がおっしゃってくださったので。
……ですがこの位なら電車でも運べた気がします。
すみません。天方先生」
ぺこりと頭を下げる怜に天方は柔和な笑顔を向ける。
「いいのよ。私が言い出したのだし。
それより、ご家族はいらっしゃらないのかしら?」
「はい。皆出掛けてしまっていて」
「そう。残念。ご挨拶したかったのだけど」
どんな家庭環境でこの怜が育ったのか興味があった。
「じゃ、行きましょうか」
「お願いします」
少ない荷物をトランクではなく後部座席に置き、怜は助手席に座る。

暫く無言で車を走らせていたが、赤信号で車を停めたときに天方は
「……実は、竜ヶ崎くんと二人きりでお話したかったのよね」
と切り出した。
怜はどきりとする。
歳上で先生だとはいえ、美人―どちらかというと可愛らしいタイプだが―な女性にそんな風に言われては
深い意味はないにしても動揺してしまう。
「水泳、楽しい?」
「……はい。」
眩しいくらいのいい笑顔に天方も笑みを返す。
「そうよね。そう見えるわ」
「でしたら何故」
そんな質問をしたのか、怜はと不思議そうに首を傾げた。
「貴方の担任の先生とか陸上部の顧問の先生とかに
竜ヶ崎くんを水泳部を辞めさせろ、陸上部に戻せ、って言われてたのよ」
「え?」
怜は初耳だ、と驚く。
「葉月くんも言っていたでしょう?
真面目な竜ヶ崎くんが授業中に居眠りするなんて、とか
水泳部に入ってからの悪影響なんじゃないのか、って言われたのよ。
陸上部の方は純粋に才能が勿体無いかららしいわね。
けど、辞めさせられるわけないわよね。
竜ヶ崎くん、本当に楽しそうなんだもの」
「天方先生……」
「やっぱり楽しいのが一番よね。
伊達政宗も言っています。
馬上青年過ぐ。時平かにして白髪多し。残躯は天の許す所
楽しまずして復如何せん、と」
格言を持ち出され、怜はその意味を吟味し、嘆息した。
「天方先生。それでは今の僕は隠居しているということになりませんか?」
「あら? そう?」
「白髪だとか残躯だとか入ってますから」
指摘され、天方はごほん、と誤魔化すように咳払いをした。
「とにかく。
天に与えられた時間なのだから大いに楽しみなさい、と言いたかったの。
後悔しないようにね」
「はい」

遙の家までもうすぐ、という処に差し掛かった辺りで、天方ははっと気がついたように
「だけど、いくら憧れの先輩と同棲できるからって羽目を外しちゃ駄目よ?」
ときつめの語気で怜に釘を刺した。
「……あの、同居の間違いですよね?
それに羽目を外すって一体何をどうですか?」
「……そうね。言っておかなくちゃいけないのは竜ヶ崎くんじゃなくて七瀬くんの方によね」
「遙先輩が羽目を外すなんて余計想像つかないんですが」
「でも七瀬くんは言っても聞かなさそうなのよね」
「あのー、天方先生?」

そんなこんなをしているうちに遙の家の前に着いた。
出発した時に連絡を入れておいたからか、遙と、そして真琴が外で待っていた。
遙は車が停まる前から歩き出し、真琴はそれを追う。
「遙先輩。今日から宜しくお願いします」
「ああ。……こちらこそ」
車から降りた怜と遙が挨拶を交わす横で、
真琴は運転席に座ったままの天方に声を掛ける。
「天方先生もお疲れ様です。
怜。荷物これだけ?」
「ああっ! 真琴先輩! 自分で持ちます!」
「いいからいいから」
「……橘くんがいるなら大丈夫かしら」
その呟きに遙は怪訝そうに眉を潜めたが、
深く追及することはせずにかわりに天方にペットボトルの紅茶を差し出した。
無言で手渡されたそれは、しっかり冷えてるのがわかった。
「有難う七瀬くん」
「……いえ。」
ぶっきらぼうではあるが悪い子じゃないとは知っている。
「じゃあ私はこれで。
……七瀬くん。
竜ヶ崎くんを水泳で無茶させないために下宿させるのなら
他のことで無理させないようにね」
「……」
遙が口を開き返事をするより先に怜が
「ありがとうございました」
と礼を告げ、天方はそのまま去って行ってしまった。
真琴は怜の荷物を一旦居間に運び入れると、本題とばかりに
「怜。ご近所さんになるんだし歓迎会的な事したいしから今日の夕御飯はうちに来ない?」
と尋ねた。
「遙先輩」
遙に意向を尋ねると
「怜がいいならいい」
遙は無表情で応えた。
「あ、勿論ハルも一緒にだよ」
「当たり前だ。怜一人だったら行かせない」
話はまとまり、真琴は時間になったら迎えに来ると告げて家に戻った。

遙が「部屋に案内する」と言いながら怜の鞄を一つ持ったので、
怜は慌てて残った一つを自分で持った。
遙に付いて二階に上がる。
「部屋はここを使うといい。隣が俺の部屋だ。
布団はあるが……普段ベッドなら寝づらいかもな。俺のベッドを貸すか?
俺は布団でも平気だ」
「いえ! そんなわけにはいきません!」
「きっちり疲れを取るには睡眠は大事だぞ。
……ベッドがもう少し広いか怜がもう少し小さかったら一緒に使えたんだが」
ぽつりと小声で付け足された後半は怜の耳には届かなかった。
「それは……そうですが」
「交代で使うか?」
「……暫く布団で寝てみて無理そうでしたらお願いします」
「ああ。遠慮はするなよ」
優しく微笑まれ、気を遣われ、怜は頬を染める。
最近、遙に優しくされるとどうにも過剰に反応してしまう自分に怜は戸惑っていた。
以前と、出逢った頃とは何かが微妙に違っていた。
遙が変わったのか、自分が変わったのかはわからないが。

二人の同居生活はそんな風に始まった。
地区大会に向けての激しい練習で疲れても
直ぐに家に帰れるというのは精神的に楽らしく、
怜は思う存分練習に打ち込むことが出来た。
ちなみに寝床は、試しにベッドを借りたら布団より熟睡出来たのでどきどき使わせて貰っている。

日々順風満帆に過ぎて行った。
遙が、居間に無造作に置いておいた小学生時代のリレー後の写真を手にして切なげな表情で佇む怜を目撃するまでは。

「怜」
「っ遙先輩」
慌てて元の場所に置くその手に視線を固定したま、遙はそっと口を開いた。
「写真、撮れば良かったな。県大会の時に。
地区大会では撮るか。勝っても敗けても」
「……いいんですか?」
遙がそういうのは好きではないのだろうと怜はなんとなく感じていたので
その提案にはいたく驚いた。
「……そういえばまだ話してなかった。聴いてくれるか」
促され、向かい合って座る。
遙の雰囲気に、怜は思わず正座になり背筋を伸ばす。
そうして語られた凛の話に、怜はやっと腑に落ちた。
県大会一日目の後、遙が姿を見せてくれなかったことも。
自分に向けて放たれた、「俺もフリーじゃない」の意味も。
聴いてる間何度か胸がちくりと痛んだが、怜にはその理由がわからなかった。

「江に訊かれた。何のために泳いでるのかと。
凛に言われた。俺のために泳げと。
そうしてフリーの試合に出たが……怜。お前の眼にはどう見えていた?」
怜は、遙の泳ぎを自由で美しいと言う。
自分もそうなりたいと、それだけの理由で泳げないのに水泳部の門を開いた。
その怜に、訊きたかった。
紫色の透き通った瞳に、あの時の泳ぎがどう映ったのか。

「……遙先輩でも、試合ではタイムや順番の為に必死になるんだな、と思いました」
「……そうか」
「けど。次の日のリレーは……いつもの遙先輩で、だから余計感動したんです。
あの時はつい抱きついてしまってすみませんでした」
抑えきれなくて、と恥ずかしそうに笑う怜に遙は瞳を瞬かせる。
「怜」
「遙先輩が嫌がってる声は聴こえてたんですけど、嬉しくて。」
「怜っ!」
「……遙先輩?」
ぎゅう、と抱き締められ怜は固まった。

「駄目だ。……好きだ」
「はっ、遙先輩っ?!」
「そんな事を言われて我慢できるわけないだろう!」
力強くそう告げられるが。
「い、意味がわかりません! 好いてくださるのは有り難いですが、」
「そうじゃない。そうでもあるが」
「……理解できません」
力無い言葉に、遙はああ、理解しているんだな、と察した。
身体を離し、肩に手を置きがっちりと視線を合わせる。
「こう言えば理解できるか? 怜。
……お前を俺のものにしたい」
「……っ!」
静かな、けれど破壊力抜群の言葉に怜の顔がぶわっと朱くなる。
「はははは遙先輩」
「ずっと好きだった。
一緒に暮らしてもっと好きになった。
……怜は美しく泳ぐ俺しか好きじゃないのか?」
トーンダウンした問いに、怜ははっとした。
遙はこんな冗談を言うタイプの人間ではない。
なら告げられた言葉は全て真剣なもので、
それから逃げるのは卑怯だろうと。
自分の胸の内を探る。
どんな結論であろうと、本当の気持ちで応えたかった。

「違います。
泳いでる遙先輩は美しくあって欲しいですがそれは遙先輩が自由であればそうなんです。
普段の遙先輩は…」
怜は思い出し、ふふっと笑った。
「分かりにくいようでいて分かりやすくて、とても素直で、
でもやっぱり凄く素敵な人です」
「……怜」
理解した。
凛の話を聴いた時のもやもやの正体も。
遙の自由を奪おうとする凛の言動が赦せなかった。
それだけだと思っていたが、違う。
ある意味思うまま遙に接する事が出来る凛に嫉妬していたのだ。
怜は、怜もきっとずっと。

「僕も遙先輩が好きです。
遙先輩が僕を好きでいてくれる、同じ気持ちで」
魅せられた時はきっと憧れだった。
初めて魂まで揺さぶられた気がした。
それがいつしか恋情に変わっていた。

「怜」
初めて触れ合った唇は、一瞬で離れた。
その事に、自覚はないのだろうが物足りなさそうな表情を浮かべた怜に、遙は暴走しそうになるのを押し止める。

「予約だ。
今は水泳が優先だからな。……残念だが」
付け加えられた言葉に、怜は笑顔を返した。

今になって天方の言っていた言葉が理解できた。

「ですが、水泳優先の季節じゃなくなったら僕も遙先輩のお宅からいなくなってしまいますよ」
「……そうなっても泊まり掛けで遊びに来ればいい」
「はい。是非」

二人は、約束の指切りのかわりに再び口づけをした。
| 小話;フリー! | 13:06 | comments(0) | - | pookmark |↑PAGE TOP
Sink Or Swim
最終回捏造。何回目だ。いや直接改変したのは初めてか。
覚悟を決めて改めて最終回を見直した結果がこれでした。
ほんのり遙→怜風味なのは最早仕様です業なんですスミマセンっした!
でも今回は凛に優しいよ!多分!いつもよりは!
あ。遙視点です。

タイトルは仮題。ぴくしぶに移動するときは変えるかも。
いやまあ最終回は観ながらタスケテーって思ってたから頭文字SOSでいいかもなあ。


++++++++++++++++++++



やっと気づいた。
何のために泳ぐのか。
誰のために泳ぐのか。
それは多分。

地区大会のリレーの直前、怜が凛の為にと道を示した。
それを、その想いを無駄には出来なかった。
その決断が、怜だけでなく、俺や真琴、渚にも、苦渋のものだとしても。
凛を救えるのが今この場面しか、俺達にしか出来ないのだとするのなら。
凛の救済を、他ならぬ怜が望んでいるのなら。

なんとか捜し当てた凛は自棄になっていた。
俺に投げ掛ける言葉も卑屈なもので、
留学先で何があったのかは知らないが小学生の時に比べて随分と変わったなと改めて思う。
話し合いを試みるが揉み合いになり、二人で地面に転がった。

荒れていた凛が、急に動きを止めた。
視線の先を追うと、俺が地面に書いた文字があった。

「なんで……なんでFreeじゃねぇんだよ」

昔凛が卒業製作で煉瓦に書いたのと同じ「For the Team」の文字を見てか、凛がぼろぼろと涙を溢した。

リレーの楽しさを教えてくれたのは凛だ。
この言葉を教えてくれたのも。
その意味を解らせてくれたのは―俺に凛と向き合う力をくれた、怜だ。
チームでいることの楽しさも、怜が水泳を選んでくれたから、水泳部に入ってくれたから、知ることが出来た。
だから記した。
仲間のために。と。
水泳部を作ろうと積極的に動いてくれた渚と。
今までずっと傍にいてくれた真琴と。
新しい風を運んできてくれた怜のため、今日この場所で力を尽くそうと。

けれど凛が言っているのはそういうことではないんだろう。

「……俺も、お前らと泳ぎてぇ」
静かな声は、ようやく素直な気持ちを吐き出した。
「……まだ、遅くないよな?」
ぎこちないが、昔の面影を思い起こさせる笑顔に
「ああ」
と頷いて見せる。
そこに折よく真琴、渚、そして姿を現した。

「まったく。貴方を見てるとイライラするんですよ。
泳ぎたいなら泳げばいい!」
妙に偉そうなのが怜らしい。
その言葉に、凛は怪訝そうに眉を潜めると、俺から離れ、怜の方へずんずん近づいていった。
「な、何ですか」
息が掛かりそうな程近くまで寄られ、怜はたじろいでいる。
身長は同じぐらいらしい。かち合った視線に、怜は身を引いた。
俺も凛のあの睨みは苦手だから気持ちはわかる。
「竜ヶ崎。お前まさか俺に出番譲ろうだとか考えてやがんじゃねーだろーな?」
「よくわかりましたね」
「よくわかりましたね、じゃねー! 馬鹿か!」
「ばっ、馬鹿は貴方です!
ぐるぐる悩んだり八つ当たりしたり本当にやりたいことに今更気付いたり!」
「うるせー! 気づいただけマシだろーが! 
つかお前らもう出番じゃねーのか棄権扱いになったらどーすんだとっとと行きやがれ!」
「だが凛」
「でも凛」
「けど凛ちゃん」
「ですから凛さん僕は」
「ああもう凛凛うるせー! とっとと行け!」
びしっと指差され、俺達は、凛に視線を向けたまま走り出す。
特に怜は肩透かしを喰らったようで何度も振り返っていた。
それを見て、凛はああもう、と髪の毛をぐしゃぐしゃ掻き回す。

「……怜!」
「はいっ?!」
呼ばれたのは怜だけだが、俺も一緒に振り返った。
凛が怜を名前で呼んだからつい反射的にだったかも知れない。
凛は、呆れたように笑っていた。
「お前は俺の気持ちに気付いてたみてぇだな。
俺は確かにそいつらと泳ぎてぇがお前からこんな大事な局面を譲られてまで今すぐに叶えたいってわけじゃねぇ。
お前は、お前の最高の仲間と全力を尽くして来い。
県大会みてぇななってねぇ泳ぎ見せやがったらぶん殴るぞ」
「っ凛さん、じゃあ水泳は」
「続ける。ってそこかよ!」
凛は、殴るの方に反応しろよ、と戸惑っている。
まだ怜の事をあまり知らない証拠だ。

会場にはなんとかギリギリ滑り込み、
リレーの準備をしながらなんとなく数少ない俺達を応援してくれている連中が座る場所に目をやると、
凛が江の隣に座る姿が見えた。
「江ちゃん嬉しそう」
「そうですね。凛さんのこと大好きみたいですから」
「うん。本当に良かった」
三人も自分の事のように喜んでいる。
こんな連中と一緒だったから俺も。

口許に笑みが浮かぶ。
「あそこで観られてるんじゃ無様な泳ぎは見せられないな」
「僕も凛さんには殴られたくないです」
俺の言葉を受け、度入りのゴーグルを掛けながら怜が嘯く。
「でも大事なのは勝ち敗けだけじゃないよね!」
渚は両手を握り、
「ああ。精一杯泳ぐだけだ。自分達の力で」
真琴は、いつものおおらかな笑顔で頷いた。

凛。今この中にお前はいないけれど。
For the Teamの中にはお前が入っている。
小学生の時に一緒に泳いだイメージを越えて、
悩んで、もがいて、やっと乗り越えられたお前も。

それを繋いでくれたのは怜だった。
そんな怜と、今も、この先も。

共に泳いでいけることが、何より誇らしかった。
| 小話;フリー! | 04:53 | comments(0) | - | pookmark |↑PAGE TOP
饒舌な情熱【遙怜】
未だに最終回のネタを引っ張りますよ。
公式ファンブックのせいでぶりかえりました。結構なトラウマだったみたいです。
あれに関して今まで書いてきたものはそれぞれ解釈が微妙に違うのだったのだった。
中の人が語ってくれていたけれど
理屈では理解できるけど感情では納得いかないんだよなあ多分描写不足。
くっつくまでもだもだするのが好きってのもある。

あと三巻のフリフリで書きかけの同居ネタまとめようかと決意しました。


+++++++++++++++++


その一言に、今までの景色が全て色褪せて見えた。

確かな絆があると信じていたから、自分から提案した。答を誘導するように。
けれど。

「凛と泳ぎたい」

返された言葉に、こんなにも胸を抉られるとは思わなかった。


地区大会が終わり、けれど屋外プールはまだ使えるシーズンで
岩鳶高校水泳部は来年の大会に向けての練習に明け暮れていた。
だが、そんな中明らかに様子がおかしい人物がいた。

「ハル……どうしたの?」
水着を着てプールを目の前にしているにも関わらず暗い表情をしている遙に、
水に対しての数数の奇行を長年近くで見ていた真琴は戸惑う。
誰が止めても聞く耳持たない程に愛してやまない「泳げる水」が近くにあるというのに、
遙はプールサイドにしゃがみこみ、水面を見つめているだけだった。
真琴だけでなくマネージャーの江や顧問の天方も怪訝そうに遙を観ている。
渚と怜は、クラスの用事だとかで遅れると事前にメールで連絡があり、まだ来ていなかった。

ぱしゃ、とプールに浸した手で力なく水を跳ねあげ、遙はぽつりと呟いた。
「最近、怜が俺にだけ素っ気ない」
「そうかな? いつも通りに見えるけど」
真琴の返事にに、遙は暗い表情のまま落ち込んだ声で呟く。
「前はもっとなついて来てくれてた」
「なつくって、ハル、犬猫じゃないんだから」
「犬猫だったらとっくにうちで飼ってる」
きっぱりと言い切られた言葉に違和感を覚える。
「……ハル。今の突っ込んだ方が良いのかな?」
「なにがだ」
「本気かー……」
真琴は遙から視線を逸らした。
なんだか際どい発言に聞こえたがスルーした方が良さそうだ、と判断し
「なら一度本人とちゃんと話してみたらいいんじゃないかな。
思い過ごしかも知れないしそうじゃなかったら理由話して貰いなよ」
そう提案した。

遙は、一見他人の事に興味がなさそうに見えるが、
一度懐に入れた相手が自分のせいで悪い方向に転がる事には存外臆病だ。
水泳の海外留学で変わってしまった凛との関係は
それにより拗れ、歪んでしまったけれど
怜の八面六臂の活躍で今は修復されている。
今度はその怜が遙と距離を置いているように感じているという。
ならば、その心痛はいかばかりか。
真琴の見立てでは、相当参っている、という結論だ。
なんとなくではあるが、部活でも、部活外の付き合いでも、
遙は怜に癒しを感じているみたいだなあ、と思っていた。

「……そう、だな。そうしてみる」
頷きながら、遙にはその原因に心当たりがあった。
なにしろ、怜がつれなくなったのは地区大会の後からなのだから。

その日の部活終わり、真琴は遙に部室の鍵を預け渚と江と一緒に先に帰って行った。
遅れて来たこともあり真琴と天方に断りを入れ独り残って練習していた怜は、
区切りをつけ、もう帰ろうと更衣室に入ったところで
遙がまだいることに驚いた。
既に制服に着替え終わっているのに残っている意味がわからない。

「遙先輩……どうして……
皆さん、先に帰ったんですよね?」
「ああ。……鍵」
ちゃら、とつまみ上げて見せられるが、怜は
「わかるところに置いていていただければ……
いえ、それよりも、渡していただけていたら僕が責任をもって戸締まりをしました。
わざわざ残っていただかなくても……」
と、視線を逸らしながら自分の荷物が置かれているところに向かう。
「本当は居残りに付き合って一緒に泳ごうかと思った」
「そうですね。泳ぐわけでもないのに遙先輩が残ってるのは不思議です」
真琴ならばそうしてもおかしくはない。
やたらと優しいから。
否。怜は遙も優しいということを知っていた。
けれど二人のそれは、質が違う。
「でもそれだと怜が先に帰るだろう」
タオルを頭にかぶり、髪を拭くことで表情を隠していた怜は、
その言葉がすぐ近くで囁かれた事に驚いて身を引いた。
いつの間にか遙が傍にいたことに、まるで気づけなかった。
「遙先輩?」
更に一歩後ずさる。
それを見て、遙は瞳を細め、思わず怜の手首を掴んだ。
反射的にびくりと震える怜を直視出来ず、床に視線を落とす。
「逃げるな。……逃げないでくれ、怜」
それは、命令ではなく懇願だった。
怜は驚き、眼を見開く。
自分に対して、遙がこんなに弱気になるとはと。

「逃げません。
ですから、手首、放していただいていいですか?
痛い、です」
「……悪い」
遙は小声で謝ると、そっと力を抜き、手を離した。どこか名残惜しそうに。
怜はタオルを肩にずらし眼鏡を掛けると、改めて遙を見る。
逃げない、と宣言されたことで落ち着きを取り戻したらしい遙は
いつもの、深い水のような瞳で真っ直ぐに怜を見つめていた。

「怜。お前が俺から離れていこうとしている理由を聞きたい。教えろ。」
質問ではあるが疑問系ではなかった。
確定事項のように告げられ、怜は否定するタイミングを失う。
「地区大会が原因だな?
けれど真琴や渚には前と変わらない態度だ。
ならリレーを泳げなかったからじゃないだろう。
俺だけから距離をおこうとしている。何故だ」
普段無口な遙に矢継ぎ早に問い掛けられ、怜は観念して口を開いた。
「ぼ、くは」
遙の言葉は正鵠射ていた。
知られたくはなかったし教えたくもなかった。
自分の中の一番醜い部分を、遙にだけは。
だけどここまで見抜かれていては。
「遙先輩の、言葉が、……痛くて」
「……あれか。凛と泳ぎたい、っていう」
心当たりがあったらしく遙は即座に言い当てる。
怜は、頷く事でその視線から逃げた。

「遙先輩には凛さんが特別で、その事を思い知らされて、でもそれでショックを受けてる自分が滑稽で……
だって遙先輩は最初から凛さん、凛さん、凛さん、だったのに!
水泳を辞めた理由も、再開した切っ掛けも、落ち込むのも、いつもいつも」
タオルを握り締める。
その手がぶるぶると震えている。
怜の感情の昂りを表すように。
「入り込む余地なんてないってわかってたのに、だから、もう近づかないようにしようって。
適度な距離で、普通の後輩でも、満足出来るはずだから、しなくちゃいけないからっ」
「怜」
それは普通の後輩ではいたくないと言っているも同じだ。と。
遙は口にはせずに、自分より少し背の高い、けれど小さく見えたその身体をぎゅっと抱き締めた。

「……はるか……先輩?」
混乱しているだけかも知れないが、怜は抱擁を甘んじて受け入れている。
遙はそれを良いことに思う存分抱き心地を味わった。
裸のままの上半身も水着も、もうほとんど乾いていた。

「それは、俺だけに対して、なんだな?」
「え?」
「真琴や渚は関係なくて俺だけの特別になりたいって、つまりそういう意味だろ」
「ーっ!」
密着しているので怜の顔は遙には見えない。
けれど今朱く染まったのだろうな、と想像がついた。
「……すみません」
「どうして謝る」
「忘れてください」
「嫌だ」
「遙先輩!」
本音を話してしまったことで憑き物を落としたのだろう。
以前の調子に戻った怜に、遙は安心した。
そして今なら、聞く耳を持ってくれるだろう。

「俺は嬉しい。
怜。気づいていなかったみたいだが、お前はずっと前から俺の中で特等席に居る」
「え……?」
「水も水泳も関係ないところでも、いつも関わっていたいと思った相手は
お前が初めてなんだ、怜」
腕の中で身を固くした怜に、どうしたのかと思えば
「……真琴先輩は……?」
と訊いてくる。
「傍にいてくれた事に感謝はしてる。
けど……離れて行ってもきっとそれほど辛くなく受け入れられる。
お前が離れていくと思っただけで、どうしようもなく身体がいうこときかなくなるのにな」
少し身体を離し、ほら、と、かたかた震える手を見せた。
「実際そうなったらみっともなくすがると思う。怜、俺を捨てないでくれ、と」
「……遙先輩」

言葉にしなければ大切な想いが伝わらないのならば出し惜しみすることなどない。
遙は、想いを口にした。怜にはわかって欲しかった。
自分がどれほど。怜にどれだけ。
「お前に逢ってから、水の美しさを、泳ぐことの意味を再認識した。
お前はいつも一生懸命で、失敗してもへこたれなくて、凄いと思った。
俺が楽しい、嬉しい、面白いと思った瞬間にはいつもお前がいた。
凛なんか関係ない。
お前はあの時、俺を想い、凛も想ってただろう。だから俺はああ応えた。
同じ強さで目の前のリレーを頑張ろうと言ってくれていたなら、
俺はお前と泳ぎたいと言っていた筈だ」
あの時。ほんの僅か。
怜の、凛を想い遣る言葉の数数に遙はショックを受けていた。
その心の近さに。
それでも、酸いも甘いも織り交ぜいつも。

「怜。お前は誰より、俺を幸せにしてくれてる」
だから、と遙は瞳を和らげた。

「俺がお前を幸せにしたい。お前が、それを赦してくれるなら」
言いながら、顔を近付ける遙を、怜は頬を染めながら瞳を瞑って迎え入れた。

「……あの」
「なんだ」
「いえその、……この手はなんでしょう」
「……着替え、手伝う」
「いえいえ遠慮します脱がさないで下さいっあどこ触ってるんですか遙先輩!」
「可愛い」
「可愛くありません! だ、め、っこんなとこでそんなのは嫌ですっ!」
「……」
「遙先輩?」
「こんなところじゃなければ良いんだな?」
「? どこにメールして」
「真琴に。何があっても今日はうちに来るなと。
……帰るぞ怜」
「はい? いえ帰りますけど何故真琴先輩にそんなような」
「俺の家は俺しかいない。泊まっていけ」
「それは存じ上げていますが!
何故泊まるという流れに! 理解できません!」
「大丈夫だ。
まだ、夢みたいだから実感したいだけだ。
怜は、俺のものだと」
「なっ……
……でしたら遙先輩は僕のものだということになりますが」
「? 当然だ」
「……一緒に眠るだけでしたら、まあいいでしょう」
「……いいのか?
泊まってくれるだけで充分だったんだが」
「え。そ、それなら」
「ありがとう、怜」
「〜〜っどう、いたしまして……!」
| 小話;フリー! | 12:42 | comments(0) | - | pookmark |↑PAGE TOP
Magenta+補色
Crimson+Violet の続きというか書ききれなかった凛←怜を補完しようと思ったのに
渚が真怜をプッシュするという謎展開に。
いやでも遙怜で凛怜です。
無駄に延びた…



++++++++++++++++++



遙の家での話し合いを終えた怜は、微妙に甘い空気の中、
心配をかけた真琴と、彼の家でやきもきしているであろう渚に
「一応話はまとまりました」
とだけメールを送信し、
「では僕はこれで」
と遙に挨拶をし
「じゃあ途中まで一緒に帰るか」
それを受け凛が立ち上がったところで
「どうまとまったの?!」
と、渚が自分より大分身体の大きい真琴を引き摺って突入してきた。

渚は制服のままだが真琴は私服に着替えていた。
というか着替え途中だったらしく上着のボタンが半分もとまっていなかった。
「渚ぁ。今日はもう遅いし明日でいいだろ?」
解放され、着衣の乱れを直しながら真琴は渚をたしなめる。
「僕は大丈夫!」
「怜は帰んなきゃだから引き止めちゃ駄目だよ」
「なら怜ちゃんもマコちゃんち泊まろう!」
なんとか渚の説得を試みるがああ言えばこう言うで納得してくれない。
そして渚の言葉に遙が反応した。
「ここで話して行けむしろうちに泊まっていけ怜」
「なら俺も泊まる」
便乗しようとする凛を遙はねめつける。
「お前は帰れ」
「えっ」
「えっ?」
渚が頓狂な声をあげ、真琴は何かおかしな事でもあっただろうか、と首を傾げた。

「今のやりとり、凛ちゃんフラれなかったの?
てっきりハルちゃん選ぶか両方フッちゃうかかのどっちかだと思ってたのに」
鋭い指摘に、怜はうう、と肩身が狭くなる。
「……僕が優柔不断なので執行猶予を貰ってるんです……」
「でもでも、それじゃ凛ちゃんにもチャンスあるってこと? なんで?」
「渚……あくまで俺とは付き合わせたくねーってことかそれ」
「うん。理由わかんなかったら自分の胸に手を当てて考えといて。
もしちゅーされても嫌じゃなかったから、だったら、いっそマコちゃんともしてみなよ!」
肩を掴んで揺さぶられ、怜は目を白黒させる。
「どうしてそれを……っ
というか何故そこで真琴先輩を出してくるんです?
真琴先輩にいい迷惑じゃないですか!」
「えー。僕としては一番のお奨め物件なのに。
だって怜ちゃん眼赤いよ?
泣いたんだよね?」
「っ!」
指摘され顔を背けるが、その先には真琴がいてじっくり見つめられた。

「……ハル。凛?」
怒気を含んだ声に、怜は慌てる。
「ま、待ってください真琴先輩これは僕が独りでっ」
「独りで、ってことは、怜が泣いたのって地区大会のリレーが原因だよね?
ならどっちにしろハルと凛に責任あるだろ?」
困り顔で見下ろされる。
渚といい真琴といい、まるで観ていたようだ。
そんなにわかりやすいだろうか、と怜は戸惑う。

「……どうして」
「だって怜、あの後からちょっと様子おかしかったから」
「怜ちゃん。話す機会がなかったから今言っとくね。
凛ちゃんがリレーに出て僕達と一緒に泳いだのは、怜ちゃんやハルちゃん、凛ちゃんの願いだっだだろうけど
僕とマコちゃんの望みじゃなかったんだよ?」
「……そんな……でも……あ」
怜は思い至る。
あの時話を進めていたのは、怜で、遙で、
真琴と渚は困惑していた。ずっと。
二人が出した結論に従ってはくれたが。

「思い出してくれた?
あのやり取りの中で、僕とマコちゃんが口を挟む隙間なんてなかったって事」
「渚くん……」
「僕は、怜ちゃんと泳ぎたかったんだよ?
最高の、仲間と」
「……俺も。
ハルは心配だったけど、正直そこまで凛のために動こうだとかは考えられなかった。
だって岩鳶水泳部で一俺達と緒に頑張ってきたのは他の誰でもない、怜じゃないか」
「でも決まったからには怜ちゃんのためにも全力で泳がなくちゃって頑張ったんだよ」
その言葉に怜は瞠目した。
思い込みで、渚と真琴の気持ちを慮ることをしていなかった自分が情けなくなり、肩を落とした。
「……すみません」
「わわっ! 怜っ! 泣かないで!」
「僕は……僕が、勝手に」
凛こそが皆にとっての「最高のチーム」なんだろうと諦めていた、と涙を流す怜に、
真琴は柔らかく微笑みかける。
「こっちこそごめん、怜。
きっとわかってくれてる、って思ってちゃんと言わずにいて」
「それに怜ちゃんがショックだったのってやっぱあの場面でハルちゃんが凛ちゃん選んだからでしょ?
だから怜ちゃんにはハルちゃんが特別なんだって思ってた」
目の前に膝を付き、労るように覗き込んでくる渚に、
怜は涙を拭いながらこくんと頷いた。
「こと水泳に関して遙先輩が特別なのは確かです。
僕が泳ぎたいと思ったのは遙先輩がいたからですし」
それに、優しかった。
素っ気ない態度のようでいて怜を気遣ってくれているのが感じ取れた。
それが恋愛感情によるものだとはさすがに気付けなかったが。

「じゃあ凛ちゃんは?」
「凛さんは……」
渚に問われ、思い返してみる。
第一印象は良くなかった。
一番初めの合同練習でのあの態度では好印象など抱けはしないだろう。
江の兄だと言うことはあの時から知っていたが
良く出来た妹に反し兄の方は大分やさぐれているな、と思っていた。

県大会以降、凛の影がちらついた。
昔の話や写真やあれこれと、今怜が居る場所は本来凛のものだと誰かに責められているような気がしていた。
直接逢って、けれど怜が一方的に喋っただけで、
文字通り話にならなかった。
けれど地区大会前夜、呼び出されて、その気持ちがわかって。
「……同病相憐れむ的な……?」
遙への想いが憧憬によるものだとしたら
凛に向けていた感情は同情に近い。
そして最初から怜の全て―水泳部の仲間、特に遙に対する強い想いをさらけだしてしまっていたので、
下手に自分を飾る必要がなく。

「丸くなった凛さんは……ええと渚くんからしたら昔より尖ったままでしょうけど
歳上ですけど気負わずに話せる相手、でしょうか。
遙先輩や真琴先輩にはやっぱり少し構えてしまうんですが」
いくら仲の良い水泳部であっても
怜には陸上部での運動部的な先輩後輩の上下関係が身に付いてしまっているので
こればかりはどうしようもない。
けれど凛は違う。
怜にとって凛は、躊躇わずぶつかって行ける数少ない相手だった。

「ああ。羨ましい」
黙って聴いていた遙は思わず、内に秘めていた嫉視していた理由を吐露した。
もっとフランクに接して欲しいと思っていたが、怜の性格上言っても多分無理だろうと思っていた。
なのにどうだ。
遙達より後に仲良くなった筈の凛には遠慮なく言葉をぽんぽん投げつけている。
「遙先輩……」
「俺はもっと怜と心を近付けたい。
そしていずれは一つになりたい。物理的に」
「物理的……?」
首を傾げる怜に
「気にすんな」
と言いながらも、凛も同じことを考えているのは渚や真琴にはわかってしまった。

真琴は今まで、遙や凛が怜に執着しているのは度が過ぎた友情の類いだと思っていた。
だが同性相手に肉慾を感じているのなら、それは確かに恋愛感情なのだろう。
だからといって嫌悪感はない。
三人が幸せになれる方法があればいいのになあ、とさえ思う。

「まあともかく僕としてはマコちゃんがイチオシです!」
渚は腰に手を当て何故か偉そうに胸を張ってそんなことを宣っている。
「ですから真琴先輩を巻き込まないであげてくださいっ」
「そうだよ渚。俺は怜の相談相手ポジションで充分だよ」
遙や凛を敵に回す気は微塵もない。
「残念ながらその席は僕で埋まってるよ」
「渚くんでは不安が増幅されそうな気がします……」
「とにかく、キスして嫌じゃなかったっていうならマコちゃんとも試してみたって良いじゃない!」
「良くありません! 他人事だと思って!
もしそれで真琴先輩とも嫌じゃなかったら僕最悪じゃないですか!」
そこまで自分は尻軽ではないと思いたいが、もしもを考え青くなる。
真琴は、そんな怜を見て
「怜なら渚とだって嫌がらないんじゃないかなあ」
とのほほんと笑った。
「真琴先輩っ?」
「でもハルの時みたいなリアクションにはならないと思うよ。
やっぱりハルや凛は特別なんだよ怜には」
「そ……っうなんでしょうか」
「そう見えるよ?」
「そうですか……」
まだ心は決まっていないが、二択ですむとわかり怜は少しだけ安心した。
問題は見極め方がわからない事だろうか。

「むぅ」
真琴が強引に話を締めてしまい、渚はなおも不満そうに頬を膨らませた。
「なーぎーさー。恋愛ってのは理屈じゃないんだって。
打算とかじゃなく本人達の気持ち次第なんだよ」
「マコちゃんが熟練の恋愛マスターみたいな事言う……」
「誰が恋愛マスター?
怜の事心配なのはわかるけど俺らが下手に口出しする事じゃないだろ」

真琴が渚を宥めすかしているのを複雑な心境で見守っていた怜に、
「ところで怜」
遙が手を差し出した。
「何ですか?」
「やっぱり今日は泊まっていけ。着替えは貸す。洗濯物があるなら出せ」
「え?」
「凛が寮の門限に間に合いそうにないからと電話を掛けてる」
と指を指された先を見てみると、凛が携帯電話に向かい
「だから外泊を……あ? フラれてねぇよ! 嘘じゃねーっつの!」
と怒鳴っている姿があった。
話に加わってこないと思ったらあっちはあっちで取り込み中だったらしい。
「相手、御子柴部長かなー? 凛ちゃんやっぱフラれると思われてたんだ」
真琴の説得が終わったのか、渚が会話に加わってくる。
「まあ傍からだと怜はハルにベタ惚れとしか見えなかったから
凛が土俵に残ってるのは不思議だろうね」
「真琴。お前意外と凛に厳しいな」
「一般論だよ」
「どこの一般ですか」
怜は頬を赤らめる。
まさか周囲にそんな風に思われていたとは知らなかった。

「それより、凛さんが遙先輩のお宅に泊まるとしてどうして僕まで?」
「凛と二人じゃ空気が澱む」
「それハルの都合だよね」
「……渚も泊まるらしいし真琴の家に押し付けるという手も……」
「うん、ゴメン。
俺と渚がこっち泊まるって事でどうかな。怜は帰してあげようよ」
「真琴。それだと怜が拗ねる」
「っ!」
怜は眼鏡を直すふりをして顔を手で覆った。
多分、遙には見られていただろうが。
瞬間、表情を強張らせてしまったところを。

「怜?」
「……すみません真琴先輩。
気を遣っていただいたのだとはわかるんですが……
一瞬、仲間外れにされた気分になりました……」
「あ……」
その言葉に、真琴はようやく自分の提案で怜を傷つけたことに気付いた。
「ご、ごめん! 俺考えなしで」
真琴はぱんっと顔の前で両手を合わせ拝むようなポーズをする。
「いえ。僕が厚かましいんです」
力なく笑い、しょんぼりと肩を落とす怜に真琴はますます慌てた。
「違うよ! そんなことない!
今のじゃそう思っても当然だって!」

「おい渚。あれでも怜には真琴が良いって主張すんのか?」
外泊の許可をとるだけの筈だった電話をようやく終わらせたらしく、
凛はいつの間にか渚の背後に立っていた。
訊かれた渚は腕を組んで首を傾げる。
「うーん……マコちゃんも頼りないかぁ……」
夕食の支度のためか、エプロンを身につけた遙は
「で、全員うちに泊まる、で良いんだな?」
と確認した。

「凛と怜だけが泊まるなら怜には俺のベッドで寝てもらおうと思ってたんだが
そうもいかなくなったか……」
「ハルちゃん。ちなみに怜ちゃんを自分のベッドを使わせようとした理由は?」
「怜に俺の匂いの中眠って貰いたい。
ついでに俺も怜の残り香を感じられる」
「怜を抱いて寝りゃいー話だろそんなのより」
「そうか……!」
「そうかじゃないよハル何言ってるの凛!
雑魚寝するなら怜は一番端で二人はその逆の端に寝てもらうからね!」
「却下。怜を真ん中に俺とハルが両脇だ」
「珍しく良いことを言うな凛」
「珍しくは余計だ」
「そんなの許可できるわけないだろう! 怜を危険に晒すわけにはいかないよ!」
「真琴。俺が信用できないのか?」
「信用して欲しがったら前言を全面的に撤回して!」

ぎゃいぎゃいと言い争う姿はお世辞にも美しいとは言い難い。
けれど怜は知らず破顔していた。
「怜ちゃん、凄くいい笑顔」
渚に顔を覗き込まれ、
「そうですか?」
自覚がなかったのか怜はきょとんとする。
「嬉しいの?」
「……そうですね。そうかも知れません。
理由はどうあれ、紆余曲折あっても、この光景が見られて……
ああ、わかりました渚くん」
「何が?」

三人でくだらない―実のところ怜の貞操の瀬戸際でもあるのでくだらなくはないのだが―会話をしている姿。
その中の凛の表情はまるで。

「僕は、あの写真と同じように笑う凛さんを見たかったんです」
「……うん。あれはきっと、怜ちゃんのものだよ」

あのまま凛が水泳を辞めていたら二度と浮かべる事がなかったであろう笑顔。

「でもやっぱりフるなら凛ちゃんの方がいいと思うんだ。
学校違うからあんまり後腐れとか考えずに済むだろうし。」
「……渚くんは本当に打算的なんですね……」
「ああっでもハルちゃん今独り暮らしだからくっついちゃったら怜ちゃんやられたい放題っ?!」
怜は頭を抱え理解できないことに苦悩している渚は放っておくことにした。
「遙先輩。五人分の夕食の食材ってあるんですか?
買い物が必要なら行ってきますが」
「あ、ならうちから持ってくるよ。
出来上がったおかずもあるだろうしそれもいくつか」
怜の質問に、真琴が応えた。
「鯖はある。五人分」
「……五人分の鯖を独りで消費するつもりだったのかハル」
凛は呆れた。
遙の鯖好きのことは少しは小耳に挟んでいたが常備してるにしろ度が過ぎている気がする。

「つーか真琴と渚は真琴んちで喰ってくりゃいーだろーが」
「怜をここに置いてけないよ」
「怜が嫌がることはしない」
「ハルの言う通りだ」
きりっと無駄に決めた表情で宣言した後
「……」
「……」
遙と凛はそれぞれあらぬ方を向いて考え込み、そして怜に確認した。

「「キスは嫌がってなかったよな?」」

「……うん。怜ちゃんもマコちゃんちでご飯食べよっか」
「そうさせていただきます」
| 小話;フリー! | 21:13 | comments(0) | - | pookmark |↑PAGE TOP
Crimson+Violet
遙→怜で凛→怜。
意外とない気がする三つ巴。
マゼンタのが正しい気がするけど雰囲気で。
あ、最終回後です。ので怜の事…じゃない例の事でちょっとぎくしゃくしてます。


++++++++++++++++++
 
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| 小話;フリー! | 12:51 | comments(0) | - | pookmark |↑PAGE TOP
チェンジング
メタネタ。※三巻の情報解禁直後ぐらいにまとめた内容。
会話のみだけど多分判別つくはず。
四巻→凛と遙、五巻→遙と真琴かなあ…順当にいっちゃうと。
六巻どーするんだろ?
ぴくしぶにはとっくに投下していたけどいちおーこっちにも。




++++++++++++++++++++++


「怜……何故だ」
「そうだよ怜! なんで凛とデュエット?」
「そうじゃない。
DVD&Blu-ray第三巻チェンジングジャケット、
どうして凛なんかと一緒なんだ」
「なんかってのはなんだよ喧嘩売ってんのか」
「凛、ハルは多分そこまでは考えてないと思うよ。
てかそっち?」
「当たり前だ。三巻は五話と六話だろう。主に合宿の話だ。
その段階では凛は怜の事をブーメラン眼鏡としか見てなかった筈だ。
そして怜は凛をなんだあの失礼なヤツ程度の認識だ」
「いやあの事実ですけどそこまでは意識もしてませんでしたよ?
自分の事でいっぱいいっぱいでしたし」
「そうだよね。……最後の二話で急接近してたみたいだけど」
「余計なこと言ってんじゃねーぞ真琴ハルがスゲー睨んでんじゃねぇかおい!」

「それを言うなら僕は収録分では数秒しか出番がなかった一巻で
チェンジングジャケットに選ばれてましたが」
「可愛いから良し」
「はるちゃんの戯言は置いといて、
このれいちゃんエンディングの格好だしいいんじゃない?」
「ああ。エンディング衣装の方はメインは一人だからいい。
問題は水着で二人が絡んでる方のだ!」
「絡んでるって言い方どうなのハル」
「絡んでるだろう一巻の真琴と渚も二巻の渚と怜も」
「僕と凛さんは背中合わせですが」
「密着してる」
「ヘンに距離あってもおかしいだろーが」
「おかしくなくなくない!」
「ハルちょっと落ち着いて」

「でもこれって総当たりなんじゃない?
はるちゃんだってこの先れいちゃんと水着でくんずほぐれつなの来るかもよ?」
「くんずほぐれつという言い方はどうかと……
それに総当たりは不可能ですよ渚くん。
全6巻予定じゃないですか。10巻ないと網羅出来ません」
「そーなの?」
「そーなんです。
いいですか? それを求める計算式がありまして。
ああでも五人ならそれがなくても簡単ですね」
「ふんふんふん。
なるほどとにかくそんじゃ4組分足りないんだね。
じゃあ僕りんちゃんとは遠慮しようかな本編であんまり話してないし」
「あ、じゃあ俺も凛とはいいや本編であんまりからんでないし」
「ああ。俺も凛とは要らないな。
本編でめんどくさくつっかかられてばかりだったし」
「それはそうだが悪かった!」

「それでも一組あぶれるのかあ。
……俺と怜はないかも知れないな。エンドカードでもなかったし」
「わかんないよマコちゃん!
だからこそ逆に使われる可能性もあるって!」
「むしろエンディングの衣装で一人ずつだと五巻で全員回りますから一巻分余りますよね」
「おお。れいちゃんナイス着眼点!
じゃあ最終巻で二組分にすれば一気に解決だ!」
「してねぇ! それ俺削る前提だよな?!」

「で、はるちゃんはもしれいちゃんとならどんなポーズ取りたいの?」
「無視か!」
「そうだな。
……抱き合ってるところを、上半身のみで。」
「待ってハル! 水着だよね? それパッと見ヤバイよね?!」
「遙先輩それはさすがに恥ずかしいです」
「本編で県大会の時水着姿で普通に抱き着いて来ただろう怜の方から」
「あっ、あれは嬉しくて興奮してしまって、
というかあの時は渚くんの方が凄い抱きつきかたしてたじゃないですか!」
「怜……興奮してたのか」
「なんでそんな瞳で観るんですか!」
「うーん。はるちゃん、違う案ない?」
「じゃあ鮫柄との合同練習で溺れた怜を助けた後の人工呼」
「そんな事実はありませんっ! 捏造しないでください!」
「いや。お前は一瞬気を失ってたから知らなかっただけだ」
「そ、そうなんですか?」
「信じちゃ駄目だよ怜。違うから安心して」

「仕方ない。じゃあ向かい合って立って見つめ合う、で我慢する。
オプション手をからませるで。」
「……なんだかそれは……逆にハードルが高いような……?」
「ような、じゃないよ怜確実にハードル高いよソレ」
「キスする一歩前みてぇだろその構図」
「渚とは出来てるだろう怜慈愛に満ちた眼差しで見つめてるだろう狡いだろう渚だけ」
「ハルほんっと落ち着いて!」

「真琴……ハルの壊れっぷりがヒデェ」
「うん……怜に関しては水や鯖以上かも」
「けどよ、こいつらエンドカードはツーショットあったんだろ?
どんなんだったんだよ」
「えっとね、はるちゃんちの台所で二人でエプロンで料理の味見があーんだったかな!
あーんさせてるのがはるちゃんね!」
「…………。」
「り、凛さん?」

「充分いちゃこらバカップルじゃねーか!」
「違う! ほのぼの新婚夫夫だ!」
「ハル……男同士だからってそこは捻らなくていいと思うよ結局響き同じだし」

「えと、でも、デュエットもですけど公の場で遙先輩と二人きりと言うのは……
は、恥ずかしいです。
落ち着いていられる自信がありません」
「…………。
わかった。」
「「「あ」」」
「公共じゃない場で思う存分べたべたしたい、と」
「ちっ違いま……
は、遙先輩っ!」

「……連れてかれちゃったね」
「連れてっちゃったな」
「帰るか」
| 小話;フリー! | 14:08 | comments(0) | - | pookmark |↑PAGE TOP
お望みの結末。
※注:怜の過去について捏造があります。
ある意味オリキャラが出てきます。※
忘れてた。最終回後で一番酷いネタがあった。書くだけ書いておこう。

バッドエンドで終わらせようかと思ったけれど
考えてみたら最終回後の話書きまくってたのは
怜を幸せにしたいんだよ!という衝動だったんだった。

のでバッドエンド上等→最初の行間まで
いやいやここはハッピーエンドにしようや→次の行間まで
結局は腐らせたいんだろう知ってる!→最後まで
読む方向でヨロシクです。
腐敗の方向は遙怜が強いですいつもの如く。
中の人のせいです。(責任転嫁)
たいとるはほししんいちですよ。星作品の中で一番好きな話だけど内容はまるで関係ない。




++++++++++++++++++



「あっ怜ちゃん!」
通学路の途中、見知った後ろ姿を見つけ、渚は名前を呼びながら駆け寄った。
「今日いつもの電車じゃなかったの? いなかったよね?
でもこの時間に来てるってことは―
……?」
横に並び、違和感を覚える。

いつもの緑色のスポーツバッグを背負っておらず、学校指定の鞄を持っている。
それだけならまだしも、トレードマークとも言える赤いフレームの眼鏡も掛けていなかった。

怜は別人のように冷たい瞳で渚を一瞥すると、いつものように微笑んだ。
「おはようございます渚くん」
「う、うん、おはよう?」
渚は戸惑いながらも挨拶を返す。
「すみません。今日はうっかり違う車両に乗ってしまったんですよ」
「そうなの?」
「はい」
「えっとじゃあ眼鏡は」
どうしたの、と尋ねようとしたところで、
「遙先輩。真琴先輩。おはようございます」
校門を過ぎたあたりで二人と遭遇した。
「ああ。おはよう。怜、渚」
「うん、おはようマコちゃん、はるちゃん」
真琴が挨拶を返し、更に渚がそれに応える。
が、遙は黙ってじっと怜を視ていた。

「どうしたのハル?」
屈んでその横顔を覗き込むと、遙の眉間には深く皺が寄っていた。
「お前は誰だ」
冷たい詰問に、
「はるちゃん? 何言って」
渚は驚くが、
「あー、やっぱり気づくのは貴方か」
怜は、怜らしくない表情と口調で、へらりと笑った。

「れいちゃん…?」
「黙ってるつもりはなかったんだけど。
話すと長くなるから今のところはやりすごそうと思ってたんだよね」
「怜、じゃないのか?」
真琴は見極めようと眼を細める。
どう見ても、どう聴いても、怜だった。
ただ、雰囲気はまるで違う。

「怜だよ? ただし、あんたらの知らない。
俺も、二度と出てくるつもりはなかった。
……出てこなきゃなんないような状況になって欲しくなかった」
ふっと自嘲気味に笑う。
真琴はその説明に一つだけ思い当たることがあった。
「二重人格……か?」
「そんなもんかな。俺は、便宜上、そうだな……零、ゼロとでも名乗っておこうか。
怜を護るための人格だよ。あいつは暫く表には出てこられない。
傷を癒し、傷の原因となったものを忘れ去るまで」
その言葉に、遙は眉をひそめる。
「傷の……原因」
「心当たりあるって表情だな。
だからって赦せるわけじゃないけど。
今回はかなり時間がかかりそうだ。傷口が深い分」
遙は少し考えると、
「真琴」
と呼び掛けた。
「うん。鍵はあるよ。部室行こうか。渚?」
真琴は頷き、先に受け取って来ていた水泳部の部室の鍵を見せて渚を促す。
「れいちゃん……ううん、ぜろ、って言ったっけ?
話、ちゃんと聴かせて。」
渚は怜―ゼロに腕を絡ませ、がっちりと捕まえる。
「……ま、そうなるよな」
ゼロは特に抵抗もせず従い、四人は連れ立って水泳部の部室に入った。

真琴は念のため鍵を掛けた後振り返ると、
遙がゼロと向かい合い、睨み付けるように真っ直ぐ見つめていた。
「怜は」
「膝抱えて泣いてる」
「……っお前はいつ生まれたんだ。
二度と出てくるつもりがなかった、と言ったな。」
「あ、そこ突っ込む?
そーだな、大分前? サイコロトークのあのエピソードより前、だな」
その言葉に、真琴は怜の記憶があるのか、と眼を丸くする。
「何があった」
ゼロは、「あんたはあんまりこういうことに首突っ込んで来ないと思ってたんだけどな」と怜に似た表情で微笑んだ。
「……怜の部屋のトロフィー、観ただろ?
けど、スポーツ強豪校の鮫柄には行かなかった。
……そういうことかな」
「そういう……?」
唇に人差し指を当て考え込んだ遙のかわりに、渚が口を開く。
「……鮫柄って、全寮制の男子校、だよね」
「……っ!」
遙は弾かれたように顔を上げ、真琴は息を呑む。
「安心しなよ……ってのも変な話か。未遂。
けど忘れさせないと男性恐怖症になりかねなかったから俺が生まれた」
「犯人は」
遙は怒気を含んだ声で短く訊く。
「別件で捕まったはずだな。だから安心して怜が戻った。
あんまり必要なかった眼鏡を掛けるようになったのはその時からかな。
スキンシップも平気だ。それ以上になったら防衛本能が働くだろうけど」
「……俺は、俺達は、それと同じくらい怜にショックを与えたのか」
普段はあまり喋らない遙が率先して質問をしている。
真琴と渚は驚きながらもその的確な質問を聴き
全て任せることに決めたらしく普段より大分大人しい。

「そーゆーことかな。黒ひげ危機一髪的な?
ざくざく剣を刺され、最期にとどめの一撃を喰らってブラックアウト。ってとこ」
まあルールからすると意味が違うんだろうけど。と笑う怜の姿をした男は、
怜の心臓付近を親指で指し示した。

「こいつはあんたらが思ってる程そんなに強くないし、人間関係に長けてるわけでもない。
そんなヤツが、あんたらのためにリンってヤツに逢いに行ったりなんだりと
色々と腐心した挙げ句があのリレーだ。
心が折れて当然だろ」
「……っ」
渚は言い返そうと口を開き、何も言えずに口を閉じる。

「仲間だと思ってた連中が他のヤツとウツクシー友情を演じてるシーンを観て
よかったねって喜ぶだけなんて無理だって。
例え自分が言い出した事だとしても。
ショック受けないなら受けないでそりゃ逆にあんたらをその程度としか思ってなかったってなるわけで」
「それはそう……か」
真琴は俯く。
あの時もあの後も、怜はなにも言わず、だから真琴達も特に何も言わなかった。
凛は昔の大事な仲間で、怜は現在の大切な仲間なんだと、
そう理解してくれてるものだと思っていた。
否。理解していたからと言って割り切れるものだろうか。

「残念ながら怜はあんたらが好きだった。大好きだった。
だから、自分があの感動シーンを作り上げるための単なる舞台装置だったと自覚して、
もう無理だ、って思っちまった。
もう、あんたらと一緒にいる必要なんてなくなったんだとな」
「そんな……っ」
「あ、今更何言っても手遅れだから。
そんなわけで、怜の記憶がリセットされたらもう近づかないでくれるかな?
ま、接触してきたら俺が邪魔するけどね。
ヨロシク、ただのクラスメイトの葉月くん。
それと、葉月くんの幼馴染みの先輩方。」
異論は聞き入れないとばかりに突き放した言い方で、
ゼロは、怜がしていたはにかむような笑顔を見せた。
それが餞別とばかりに。






真琴は自分には最早何も言う権利はないのだろうと身体を震わせ、
けれど気になっていた質問を口にする。
「学校には、なんて?」
「家族に折を見て記憶障害って事で誤魔化すよ。
ま、昔一回あったし心配かけちまうだろうけど
あんたらのせいにはならないように。それが怜の望みだから」
遙はその言葉に瞳を見開いた。

「怜が、いやお前が怜を護るためのと言うならそれでもいい。
俺達が怜を傷つけるだけの存在で、その記憶を全て消してしまうと言うなら、
最後に怜と話をさせろ」
「ハル?」
「はるちゃん?」
「……だからアンタは侮れないんだよなあ。」
力を取り戻した瞳に、ゼロは肩を竦めた。

「怜。聴こえてるのか?
俺達に失望したならそれでもいい。
けどそれだけお前を傷つけたなら、お前は俺達を詰るべきだ。
出てきて、本音を言え。怜。逃げるのは……美しくないだろう?」
それ、怜には効き過ぎる言葉なんだよなあ、というゼロの呟きの直後、
「は……るかせんぱ……いっ」
怜が現れた。
と同時に蹲り、膝を抱える。
殻に閉じ籠るように。

「怜」
「れいちゃん!」
「怜……」
「僕は……貴方達の仲間になりたかった。
なれなかったからって嫉妬して、恨んで、こんなの、美しくない……っ!」
ぼろぼろと涙を流しながら、けれど零れるのは自分を責める言葉ばかりだ。
怜は一度たりとも他の誰かを批難したりはしなかった。
大分振り回されただろうに凛のことも思い遣って。
いつだって優しくて、それに甘えた。
子供のように泣きじゃくりながら、大人のように他人を想う。
想うだけでなく、行動にも移す。
当たり前のように。自分が傷付いてでも。

遙は膝をつき、怜の顔を覗き込んだ。
額ぐらいしか見えないがそれでも。
「違う。醜いのは俺だ。お前の気持ちを考えもしなかった。
仲間だと、そう言って、わかってくれると思って、胡座をかいていた」
真琴は屈んで怜の頭を撫でた。
「怜。怜は悪くないよ。
むしろそこまで俺達を想っていてくれて嬉しい。
だからもう自分を責めなくていいから」
渚は後ろから怜に抱きつく。
「ゴメンねれいちゃん。あんなに練習して、頑張ってたのに、
あの場面で譲るなんてスポーツマンのれいちゃんには凄くツラい事だったって、
ちゃんとわかるべきだったのに」
「いいえ。いいえ!
言い出したのは僕です!
なのに、悔しいとか! 思う資格がないのに……
辛くて、皆さんを信じられなくて、それが……苦しいんです!」
悲痛な叫びは、怜が圧し殺していた本音なのだろう。
遙は無言で怜の肩に手を置く。

「信じてたのに。あそこで一緒に泳げなくたって確かな絆があると。
だから大丈夫だって思ってたのに。
駄目なんです。四人の中には、僕じゃなくて凛さんがいるのが一番正しい形なんじゃないかって、
ずっとぐるぐるぐるぐる考えてしまうんです!
僕は、もう、要らないんだろうって、そう」
「お前がいい」
「れいちゃんじゃないと嫌だ!」
「怜に、いて欲しい」
言いながら、これだけでは届かないだろうと、
遙は多分、怜が望まないであろう答を自分の中に見つけた。
「お前が言った。
あの機会を逃せば凛は水泳を辞めて二度と一緒に泳げないと。
だから、とお前が引いた。
けれど、あの時の選択でこうなるとわかっていたら、俺はお前を選んだ」
「そんなのは駄目です凛さんが……」
いや、と真琴は首を振って怜の言葉を遮り、遙に同意する。
「凛は凛で新しい繋がりを見つけるべきだったんだ。
見たことのない景色。確かにそれは綺麗だったけど、
未来に向かうにはきちんと想い出にするべきだった」
「けれど貴方達は……っ」
ようやく顔を上げた怜に、渚はひょいと首を伸ばし視線を合わせる。
「れいちゃん。僕まだ責任取ってないよ。
もっともっと水泳の楽しさ知って欲しい。
それは他の誰でもなくて、僕が、れいちゃんに、教えたいんだ」

怜はぐっと喉を詰まらせる。
ごくり、と唾を飲み込み、大きく息を吐くと、右手で顔を覆った。
「やめてください……もう、嫌なんです!
期待して、裏切られた気分になるのは……。
夢を見させないで下さい。いっそ今ここで、僕を捨てて下さい!」

「駄目だよ。捨ててあげない」
渚は笑った。安心させるように。
「そうだよ。
俺達が高校卒業したって、理由つけて繋がっておくつもりだったんだから」
真琴は囁いた。言い聞かせるように。
「怜。お前は俺の可愛い後輩だ。
お前にはいい先輩が沢山いただろうが、
俺にはお前が初めての後輩なんだ。
お前が二度と水泳なんかしたくないと言っても、俺のことを忘れても、それは変わらない」
遙は、伝われ、と願いながら想いを言葉にした。
愛を告げるように。

「……信じて、いいんですか」
「信じろ、怜」
「信じて、怜」
「信じてよ、れいちゃん」
震える手が三つの掌に包まれる。
その暖かさに嘘はないと、
「……はい……!」
怜は、久し振りに、心から笑った。






体育座りのまま、ぐす、と鼻を啜り、
けれど大分落ち着きを取り戻した怜は、不安げに上目遣いで尋ねる。
「……ですが……重くないですか。こんな考え方」
「怜。話聴いてた?
俺達の方がかなり重いよね? ハル」
「ああ。どう考えても俺の方がお前を好きだ」
「だいじょーぶ! れいちゃんが僕達を大好きなのはわかったし、
これからはれいちゃんが不安にならないように目一杯愛しちゃうから!」
「……ええと」

あやすように頭を撫でる遙と、
ぎゅうと抱き締めてくる渚の言葉をどう受け止めるべきかと、
助けを求めるように潤んだ瞳を向けられ、真琴はうっとたじろぐ。
眼鏡を外し、涙を浮かべ、顔を朱くした怜が
「真琴先輩?」
幼い表情で首を傾げるとか。
「かわ……っ」
「真琴」
「アウト」
遙にかぶせるように、怜の声が失格を宣言した。
否。もう一人の怜の声が。
遙はうろんげにゼロを見る。
「ゼロ。どうしてお前が。怜は?」
「交替したよ。盛り上がる方向おかしいよね?
言ったろ。スキンシップまではセーフ。
俺が出てきたってことはお前ら下心あるんだな」
「そんな事はない。俺は純粋に怜が好きだ。
触りたいのもその延長だ」
「うっわ言い切った! ハルちゃん男前ー
マコちゃんも見倣ったら?」
「怜が嫌がることはしないよ!」
「それは素敵に紳士だけどそれだけじゃ駄目な時もあると思うよ?
特に強力なライバルがいる場合とか」
「俺も怜が嫌がるならやらないぞ」
遙は心外な、と渚と真琴に割って入る。
そのやりとりに、ゼロはふっと微笑んだ。

「そうだな。ま、怜が嫌がってる訳じゃないし許容範囲内か。
今後はなるべく邪魔しないようにする」
「いいのか」
「あんたらに任せれば昔のトラウマも消えて俺もお役御免になれるだろうから。
まあ頑張れ。」
そこに愛があるなら、怜も応える可能性がある。
誰を選ぶかは、怜でありながら怜ではないゼロにもわからないけれど。

「ちなみに怜が今一番本音をぶつけられる相手はリンチャンサンだ」
ゼロが投下した爆弾に、
「大丈夫だ怜を凛に近付けさせない」
遙は避難を宣言し
「いや凛は別に怜をそんな目では見ては」
真琴は不発弾だと唱えたが
「いないって言い切れないよね」
渚はそれを情報不足で判断するべきではないと否定した。
「……」
「……」
「ま、まあ今のところは警戒は怠らない、ぐらいでいいんじゃないか?」
真琴のその言葉を受け、三人は凛の対策と今後の方針について話し合いを始めた。

ゼロはそれを尻目に、鞄から眼鏡ケースを取り出す。
それと、度入りのゴーグルと水泳キャップと水着、
そして折り畳んで入れておいたいつものものとは違うスポーツバッグ。
怜が、この場所に居たいと想った証。

終わらせるつもりでいたゼロに、気付かれず潜ませていたそれら。

存在を知られていないと思っていたのに。

「ありがとう―零」

意識が入れ替わる瞬間、優しく抱き締められた気がした。
| 小話;フリー! | 05:28 | comments(0) | - | pookmark |↑PAGE TOP
ハダカの心【遙怜】
イチャラブを書きたくなった。
最初会話だけにしようかと思ってたけど思い直した。
多分R15くらい。


+++++++++++++++++++++





「お前は凄いな、怜」
ぽつりとたった一言、けれど万感の想いがこもった遙の言葉に、怜は困惑した。

「なんです唐突に」
「俺はあの凛と一対一で話す勇気はなかった。多分真琴も渚もだ。
俺は中学校の時に一度逢ってるからまああんな風にすれてても余り驚かなかったが
真琴と渚は明るい凛しか知らなかったから大分戸惑っただろう」
ああ、と怜は頷く。
「そうですね。
確かに、遙先輩の持って要らしたあの写真を観て
凛さんだとは直ぐにはわかりませんでした。
写真の方が亡くなっていて凛さんはその双子の御兄弟なんだと言われたらそれで納得したかも知れません」
「そうか……!」
はっと得心したような声を出す遙に、怜は苦笑する。
「ですが、その事実はないんでしょう?」
「残念ながらな。
再会したらなんだかやたらつっかかってくるし、
一緒に泳ぐのは楽しかったが小学生の時ほどじゃなかったし
いちいち攻撃的だし正直顔を合わせるのはなるべく避けたかった。」
「なんとなくわかります。
僕は最初から現在の凛さんしか存じ上げないのでそういう人だと思えたのですが
昔のあの人を知ってる方々からすると扱いに困ったであろうことは想像に難くありません」

ギスギスした雰囲気は、多分妹の江といる時は多少和らいでいたのだろうが、
それ以外は全方向に敵意剥き出しという感じだった。

「渚も最初は凛に逢いに行こうだとか話をしようだとか言ってた。
それが、途中から明らかに怜に構う方に意識が持ってかれてた」
「仲良くしてくださるのは嬉しいのですが渚くんは少々度が過ぎてる気がします」
「それだけ怜がお気に入りなんだろう。
渚の交遊関係はよく知らないが全員に対しお前相手のようなからみ方はしてないんじゃないか?
いくら渚でも」
「それは有り難いような迷惑なような複雑な気持ちです」
「怜が取り持ってくれたお陰で昔の凛らしさが少し戻って安心した。
俺は多分逃げるしか出来なかったから」
「普通に会話したぐらいではあのこじれっぷりは治らなかったでしょうから仕方ありません」
むしろ、昔馴染みが言葉を紡いだところで余計悪化しかねない患い方だった。
唯一の処方箋が昔の仲間達とリレーを泳ぐことだとは
おそらく、同じような想いを抱いていた怜だけが気づけた。

だがそれは、本来なら何も関係ないはずの怜が色々背負う羽目になったということで。

遙は時折、そこまでして取り戻すべきものだったのかと想う。
こんなにも優しい怜を苦しめてまで。
いつの間にか、怜が凛に同情めいた想いを抱いていたという理由もあったらしいが。

それでも不甲斐なさを自覚しているため思わず
「幻滅しないのか」
と訊いた。
「幻滅なんて最初の最初にしてます」
困ったように笑い、怜は指折り数える。
「遙先輩と来たら基本水か鯖ですし。
結構自分本意でしたし無愛想で無口で他人への興味が薄いのかと思っていたら凛さんの言動には必要以上に傷ついて落ち込んだりしますし」
「そうか」
厳しい言葉を甘んじて受け入れる遙に、怜は居心地が悪くなる。
責めたいわけではない。むしろ、そういうところも含めて愛しく思ってしまっていたのだ。

「それでもやっぱり憧れずにはいられない程泳ぎは美しいです。
それに僕に泳ぎを教えて下さいました。
……結局、ものにはできませんでたが。
遙先輩が腰を上げたとき真琴先輩が非常に驚かれてましたけどあれは」
「人に教えたのは初めてだ」
「そうでしょうとも。初めての相手に選んでいただけて光栄です」
「そうか」
遙の声が嬉しそうに弾み、怜は思わず振り返った。
「どうして悦ぶんですかそこで」
「怜が望むなら俺の他の初めてもくれてやる」
「もう既にいくつかいただいてしまってる気がしますがいいでしょう。
くださるというのであれば謹んで頂戴します。
……その後、落ち込んでる僕に寄り添ってくださいましたし
なんだかんだで気にかけてくださいましたし
県大会はリレーを一緒に泳いでくださいましたし
夏祭りもご一緒しましたし
無断で練習を休んだ僕の家にわざわざ来てくださいました」
「後半三個は自発的じゃない」
「でしょうね。知ってます」
「けど渡りに船だった。
怜にリレーに誘って貰えて良かった。
ゴールにお前達が待っててくれて、救われた気がした。
お前の浴衣姿を見られて嬉しかった。
お前は途中からどっかに……凛の尾行に行って、それを知って一瞬凛を呪いたくなった。
初めて怜の部屋に入れて感動した。
怜がいてくれて、楽しかった」
すり、と背中に頭を押し付けられ、怜は擽ったさに身悶える。

「そういうことをおっしゃるのは反則です。
いくつか突っ込みたいコメントもありましたが」
「事実だ。もう怜に隠し事をするのはツラい」
「言わなくて良いことだってあります。
……それに遙先輩は、僕が知りたかったことを話してくれました」
「真琴のトラウマは隠そうとした」
「あれは僕が不躾だったんです。
友人として庇うのは当然でしょう」
「いや。聴かせたら怜の中で真琴の株が上がりそうだったから。
実際そうだっただろう。それなのに助けにきれくれて、と相当感動していた」
「馬鹿ですか」
「怜に関しては馬鹿になる」
「その前に凛さんに対してぐらぐらしすぎでしたでしょう」
「俺の中であいつと泳ぐことが切っても切り離せなくなってた。特にリレーは」
怜は一瞬息が詰まりそうになる。
自分が入り込めない領域だと、突きつけられたようで。
「見たことのない景色、でしたっけ。
良かったですね二回も観られて」
「違う。三回だ」
「……三、回?」
首を傾げる怜に「三回だ」と遙は噛んで含めるように繰り返す。

「県大会のリレーは、他の二回とは違う景色だった。
嬉しいだけじゃない。胸の奥が疼く…そう、愛しい記憶だ。
あの暖かさは、忘れることはない。お前が、俺にくれた。
お前は俺に様々な初めてをくれる」
「遙……先輩」

後ろから回されていた腕に、そっと手を重ねる。
「仕方がないですよね。
遙先輩はついこの間やっと人間になったばかりなのですから」
「だとしたらそれは怜のお陰だ。
お前が俺を人間にした」
「人のせいにしないでください」
「事実だ。お前は凄い」
「話が巻き戻りましたよ?」
怜はくすくすと笑う。

思い出す。
泳げるようになりたいと思ったのは遙がいたからだ。
鮫柄との合同練習に付いていき、あの泳ぎを観ていなかったら
多分一生泳げないままだった。
プールや海に縁がない生活を送ってきていたに違いない。
それはそれで幸せな人生を送れたかも知れないが。

「初めて観た遙先輩の泳ぎはまるで水棲生物の美しさでした。
けれど地区大会でみた遙先輩の泳ぎは人間的な美しさで―
余計、惹かれました」
「あの時はお前を背負って泳いでいた。
虫のいい話だしなにを勝手なと怒られるかも知れないが。
お前の為にならフリーになれなくていいと思った」
「本当に虫のいい話です。
僕はあの場面で一緒には泳がなかった。それが揺るぎない事実です。
遙先輩は僕じゃなくて凛さんと泳ぎたかった。
あのやり取りの中に、それ以外の答は存在しません」
冷静な声で、きっぱりと言い切る。
「それに僕は遙先輩の枷になんてなりたくありません」
「枷じゃない。現実に繋ぎ止める楔だ」
「違いがわかりません。
まあ確かに出逢った当初の遙先輩はなんだか浮世離れしていた感じでしたが」

目撃した事はないが、水があると所構わず服を脱ぎ水着になり泳ごうとしていたと
真琴が呆れ気味に溢していたのを怜は聴いていた。
怜が目撃していないのは水泳部が発足し思う存分泳げるようになっていたからだろう。

遙は、怜を抱き締める腕に力を込めた。

「辛くない筈がなかっただろう。
お前はどうしてあんなことを提案できたんだ」
「あんな陸にうち上げられたイルカみたいな先輩を放ってなんておけません」
「……随分綺麗な言い方だな」
「そうですか? 我ながら酷い言い方だと思いますが」
「お前は俺に甘い」
「ふあっ?!」
ちゅ、と頚の後ろに口づけを落とされ、怜はびくりと震えた。

「これから先、俺はお前に見棄てられたら海から揚げられ放置された鯖みたいになると思う。
生きたまま腐っていくだけの」
「……っそういう言い方は卑怯です。
なら僕はずっと遙先輩から離れるわけにいかないじゃないですか……」
「お前の事に関しては卑劣にもなる。
ああいった場面であんな決断ができる優しいお前ならこう言えばそう返してくれると承知の上だ。
嫌われても詰られても煙たがられても当然だ。
それでも、傍にいて欲しいんだ。怜」

熱烈な告白に、怜は後ろに倒れ、遙に身を預けた。

「……嫌いに、なんて、なれるわけがないじゃないですか」
「怜」
「陸と空しか知らなかった僕に水の美しさを教えてくださったのは遙先輩です。
自由を欲したのも遙先輩を観たからです。
そして僕は自由になれました。
男の人を、恋愛対象として見ることを受け入れられるくらいに」
「なら、身体も受け入れてくれるのか」
「……この状態で、今更です」
「なら今ここで」
「初めてが湯船の中というのは……遙先輩らしいとは思いますが僕らしくはないです。
美しくない。
というかさすがに逆上せてきました……
半身浴で長話とか急にどうしたんですか」

遙の家の風呂の浴槽に、二人は裸で浸かっていた。
遙が怜を後ろから抱くような形で。

もぞりと腕の中から逃げ出そうとする怜を遙は引き留める。

「腹を割ってじっくり話したかった。
なら心も躰も裸になればいいと思った」
「顔を合わせて貰っていないんですが」
「抱き締めるにはこの方がいい」
「ですがこれでは僕が抱き締め返せません」
「怜。」
「わっ?!」

遙は立ち上がり、怜の肩を押して振り向かせると、唇を合わせた。

「はるかせんぱ…っ」
「怜。やっぱり今ここでやりたい」
「……仕方ありません。いいでしょう」

眼鏡をかけていないためいつもより幼く見える。
その顔を真っ赤にし、だが怜は潔く頷いた。
遙は微笑むと再び唇を合わせる。今度は、深く、長く。

「本当に……甘い」

その心と躰が自分のものになることをどれだけ悦んでいるか、
しっかり伝えたいと強く想った。
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