感想&突発小話

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御礼絵5種【スクアーロ;14/山本・獄寺・骸・雲雀;+10】
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カミサマより傍にいて 【赤夜久】
赤葦誕生日おめでとう。

++++++++++++++


「夜久さん。俺の誕生日なんですけど、プレゼントをくれたりする予定はありますか?」
「俺もその話しようと思ってたんだ。
赤葦、何か欲しいものあるか?」
「本人に訊いちゃうんですね。
丁度良いですけど」
「なんだよ訊いて欲しかったってことだろ」
「はい。
本当なら夜久さんがくれるものならなんだって嬉しいんですけど、
付き合って初めて俺の誕生日を迎える今年は、
どうしても欲しいものがあって。
それは、夜久さんからじゃないと貰えないんです」
「へえ? なんだ?」
「誕生日の一ヶ月先になるんですけど。
俺と元日に初詣に行ってくれませんか。
二人きりで」
「なんだ。そんなんでいーのか?
歓んで?」
「いいんですか?
高校最後の年で、春高出場も決まって、音駒の皆で初詣する予定ができたりとか」
「皆っつっても、まず研磨は不参加だろうしな。
行くなら黒尾が近所の神社連れてくぐらいじゃないか?
春高に関しては神頼みしたって仕方ないだろ。
いままで積み重ねてきた練習の成果を発揮するだけだ。
……まあ無病息災は祈りたい気もするけど……」
「ああ……もう無茶して怪我しないで下さい。
心臓に悪いです。
こっちも試合中だったから気にしないようにしないとならなかったのが辛かったんですよ」
「身体が勝手に動くんだからどうしようもないけどなー。
心配かけて悪い。あとありがと」
「……どういたしまして。」
「んな表情するなよ……気を付けるって。
あ、初詣。
そういや今年は黒尾と海とで行ったな。黒尾は研磨も誘ったらしいけど案の定不参加だった。」
「全国大会出場を祈りに……じゃないんですよね?」
「いい新入部員が入りますように、って神様に頼みに行った。
こればっかりは自分達じゃどうしようもないからな。
最近は強豪って程じゃなくなってたから、勧誘するわけにもいかなかったし。
無事叶ったからいつかちゃんとお礼言いに行かないとだな。
リエーフはともかく芝山と犬岡は手の掛からない素直ないいやつらだ。
三人とも将来有望でもあるしな。
勿論他の一年生も、音駒に来てくれて、入部してくれて良かった。
……どうした? 赤葦」
「いえ……たまに、いえ結構頻繁に、夜久さんと同じ学校に行きたかったって思うだけです」
「そーなったら引退するまでこうはなってなかっただろうな。
お前が他校生だから現役でもコイビトになってもいいかもって思ったんだし」
「そうですね。それでも折れるまで結構かかりましたけど。」
「不安だったんだよ。
お前に溺れて駄目になっちまうんじゃないかって」
「……。〜〜っ。」
「大丈夫か? 赤葦」
「……なんとか……。
溺れさせられてないのが良くもありますが悔しい気もします」
「悔しかったらバレー以上に俺に惚れられてみろ」
「俺より上がバレーだけってことですか?」
「訊くな」
「俺にはバレーと夜久さんは同じぐらいですよ」
「そのわりには試合は手心加えたりしないよな?」
「夜久さんがそういうのを一番厭がるの知ってますから」

「それよりお前は良いのか?
梟谷で初詣とか」
「行くにしても二日以降じゃないですかね。
部員全員で行くわけにもいかないですし
スタメンだけで、にしても」
「いやでもお前んとこの主将」
「誘われても先約があるからと断ります」
「……あー、まー、ならいーか。
で、なんで初詣?」
「神様に報告しておこうかと」
「うん?」
「これからずっと夜久さんと一緒に生きていくことを、ちゃんと報告したいと思って」
「えーっと……お前何かの神様を信仰してるのか?
んでそこの神社に?」
「いえ? 詣でる神社もまだ決めてません。
夜久さんどこが良いですか?
今年黒尾さん達と行った神社ですか?」
「そこだけは駄目だろ。
本当にこだわりないのか?」
「はあ。
日本には八百万の神様がいるらしいので、まあその中の誰か一柱に代表でって感じなので」
「わかるようなわかんないような。
夜中に行くのか?」
「夜久さんに風邪ひかせたくないですし朝とか昼とかで大丈夫です。
一緒に年を越せたら最高ですが、その機会はこれから先何度でもあるでしょうから」

「……うん、まあわかった。
んじゃ、場所決まったら改めて連絡してくれ。
誕生日当日には渡せないものになったな」
「じゃあ、夜久さんの声で、言葉で祝ってください。」
「わかったよ」
「貰いすぎになる気がしますが」
「それとこれとは別だろ。
ちょっと眼瞑ってろ。いいって言うまで開けるなよ」
「? はい」

ふわりと近くに夜久の匂いを感じた。
そして、髪に、額に、頬に、左右の耳許に。
腕に、手首に、掌に、手の甲に、指先に。
鼻に、顎に、首筋に。
両の瞼に、最後に唇に。

軽く、触れていったのは――夜久の唇だと気づいていながら、
赦しがないためそれを視ることが叶わず、赤葦は少し、いやかなり残念だと思い、けれと眼を瞑っていたからこそしっかりと感触を受け取れたのだともわかっていた。

「もういいぞ。
誕生日おめでとう、赤葦。
祝えなかった十六回分は、キスにかえさせて貰った」
「……ありがとうございます。
やっぱり、貰いすぎです……。
来年の夜久さんの誕生日、なにをすればお返しに足りますか」
「そこは頑張って知恵を絞ってみろよ。楽しみにしてるから。
それがどんなんであっても嬉しい、のはお前だけじゃないからな?」
「付き合って一年目から飛ばし過ぎでは」
「だからだよ。
翌年からはショボくなるかもなー?
お前は
「一緒にいられるだけで充分」
……なんだろ?」
| 小話;その他 | 23:40 | comments(0) | - | pookmark |↑PAGE TOP
夜に求めて 【赤夜久】
赤葦視点。くっつくまでのもだもだ。
梟谷グループの合宿中。

似たような話ばかり書いている気がしないでもない。

題名はなんとなくの雰囲気なのであんまり深い意味はないです。


++++++++++++++++



夜久さんに、避けられている。


梟谷グループの合同練習は一年生の時から参加させて貰っていた。
参加二年目の今年は、去年よりは余裕を持って挑めている。
周囲を見回す余裕もできて、他校の選手の観察も楽しいとさえ思えるようになっていた。

梟谷の先輩達を筆頭に、実力が確かな見た目も中身も個性派揃いのメンバーの中で、
その人は、バレーボール選手の中では低い身長もあって、埋もれていた。

夜久衛輔。
守備を得意とする、「繋ぐ」バレーボールの音駒高校の中でも
レシーブ力が突出しているからこそ、リベロでいられる人。
練習試合でも何度もうちのエースである木兎さんのスパイクを綺麗にセッターまで返していた。
ブロックの働きがあってこそだとしても、この合宿のメンバーの中では、一番ではないかと思っている。
烏野のリベロも天才肌のようではあるけれど。

フルネームを知っているのは木兎さんが呼んでるのを聴いたからだ。
基本的に木兎さんは夜久さんを「やっくん」と呼んでいるけど。

……ああ、いや、下の名前は俺が音駒のセッターの孤爪に訊いたからだったかも知れない。
呆れたように、
「苗字だけで良くない?」
って言われたのを覚えてる。
「まあいいか。別に減らないだろうし」
と教えてくれたけど。
あの時、どうして俺は夜久さんの名前を知りたいと思ったんだっけ。

身長が低いと言っても背の高さはあまり関係のないリベロというポジションなのだし
気にするほどではないと思うけど
本人に背の話は禁句だというのは同じ学校の主将であり夜久さんの同級生である黒尾さんから聞いた。

目立たないわけではない。
むしろむさ苦しい男連中の中にあっては別の意味で目立つ。
けして女性的ではないが、大きな瞳で高校三年生のわりには幼さを感じさせる風貌と
その容姿でありながら後輩たちをまとめあげる行動は、
逆に目を惹いた。

一緒に自主練もしたのに、それなのに未だにあまり接点を持てていないのは、
彼が極力俺の視界に入らないようにしているからだと、ようやく気づいた。

何度かあった合宿も折り返しに差し掛かった時期になって、やっと。

合同練習後に木兎さんの際限のないスパイク練習に黒尾さんと一緒に付き合いながら
そこに音駒の物理的に大型のルーキーである灰羽、今年から梟谷グループの練習に加わった烏野の、一年生二人の指導めいたこともすることになって
自覚のないまま視野が狭くなっていたのかも知れない。
ハードな練習に忙殺していたとはいえ今更気づいたその事実に我ながら頭を抱えたくなった。

馴染みの顔触れで恒例となったミニゲーム終えた後、生まれた疑問を解消させる決意をした。
本人に直接、ではなく、恐らく彼を一番理解しているであろう二人のうちの一人である人物に訊こうと。

できるなら、もう一人の方、音駒の副主将の方が真摯に対応してくれただろうけど残念ながら今ここにはいない。
今夜も行われる予定の主将会議まで待てば機会もあるだろうけどそれまで待てなかった。

月島は独りでさっさといなくなり、日向と灰羽は木兎さんに質問をしていて、黒尾さんはそれを遠巻きに見ている。
こっそり質問するにはおあつらえむきのシチュエーションだ。

近寄り、世間話のように尋ねる。
「黒尾さん。
俺、知らない間に夜久さんに嫌われるようなことをしてたんでしょうか」
「あー……」
なんでもない風を装いながら尋ねたら、黒尾さんは頭をがりがり掻きながら
「……気づいちゃった?」
と質問を質問で返してきたので無言で頷く。
「なんか気になる、ってだけならほっといてやってくんねぇ?
赤葦だって別にこの合宿にいる全員と仲良くなりたい訳じゃないんだろ?
そーゆー柄じゃなさそーだもんなぁ」
よくわからない返答ではあったけれどわかったことがある。

黒尾さんは夜久さんが俺を避ける理由を知っていて、それを俺に教えるつもりはなく、
むしろこのまま遠ざけていたいと思っている、ということだ。

今のこの人にはこれ以上なにを訊いても無駄だろう。

「そういう黒尾さんは全員と一回は会話してそうですね」
「普通の会話から見えてくるモンもあるからなー。
性格って結構プレイに出ねぇ?」
「普段と試合とじゃ豹変する人もいますけど」
「そういうのも含めて観察すんの楽しいんだよ」
「そういうものですか」
「そういうものなんです」

多分黒尾さんは人間が好きなんだろう。
厄介な人でも面白いヤツという評価に変えてしまう。
人付き合いが苦手な孤爪と幼馴染みとして長く付き合えているのもおそらくその性格ゆえだ。
いや、孤爪の傍にいたからそんな考えに到ったのか?
ともあれ。

なら、俺は?

交流のない他校の人を、その理由がその人に避けられてるから、だとして、
誰でも、例えばそれが森然や生川の主将とかの先輩達だとしてもこんなに気にしただろうか。

確かめたい。
本人に直接突撃するのが手っ取り早いだろう。
嫌われて、避けられてるのだとしても。

「赤葦」
「はい?」
「お手柔らかにな」
「……善処します」

黒尾さんには見透かされているようだ。
もしかしたら、俺が知らない俺のことまでも。


こういうときに合宿形態なのは有り難かった。
練習以外も同じ敷地内にいるため、捜すのも時間を作るのもそんなには難しくない。

夜久さんは音駒の人達と一緒にいることが多いけど、独りになることだってあるはずだ。
今回の合宿は一週間まるまるある。
その中の、いつかどこかで、話が出来ればと思っていた。

翌日、その機会はあっさり訪れた。

就寝前。
自動販売機の前に立っていた夜久さんを見つけ、周囲に他に誰もいないことを確認してから傍に寄る。

「夜久さんは俺が嫌いだから俺を避けてるんですか?」
何を買うか真剣に悩んでいたらしい夜久さんは、俺が背後から話し掛けると驚いて振り返った。
「……っ」
反射的に、といった感じで口を開きかけ、はっとした様子で一度閉じて、仕切り直すようにふう、と息を吐き、冷たい眸で俺を真っ直ぐに視た。
身長差があるため、下から、見上げるように。

「そうだよ。だから、もう話し掛けんな」

妙な間はあったけれど、はっきりとそうだと断言されて、態度にも出されて。
鉛でも呑み込んでしまったように胃がずしんと重くなった。

何故。何時。
俺は夜久さんに何をしてしまったんだろう。
感情を素直に表に出し、大抵の事はさばさばと処理するような人に、こんな風につっぱねられるような、何を。

「赤葦? ……っ!」
「……すみません」

もうとっくに嫌われているなら、形振りなんて構わないで、
いっそとことん嫌われてしまえば諦めがつくと……

諦め?
何に?

「おまえはばかだ」

痛みを伴うような夜久さんの言葉が耳に届いたけれど
衝動を止められなかった。
「おれも、な」
そんなふうに続いていたらしいけれど、
その呟きは吐息にまぎれて消えた。

唇を奪い、貪るように喰らい、さんざん蹂躙した。
……したのはキスだけだけども、なんというか、そうとでも表現しないとならないような行為だった。
勿論一方的なそれだ。

これが最初で最後。
そんな焦燥感に駆られていたからか、手加減なんて出来なかった。
キスだけで済ませられただけでも……
……俺は、それ以上のことを、この人にしたい、のか?

拘束していた腕の中から解放すると、夜久さんは、酸欠からか顔を真っ赤にしていた。
文句の一つも飛んでこないところを見るとまだ混乱しているんだろうか。

「嫌だったら、本気で蹴ってくれて良かったんですよ。
灰羽にしてるように」
そう言うと、ぎろりと睨まれる。少し涙目だ。
「できるか」
「どうしてですか」
「後輩だけど他校のだし、それに、
……ああもう」

夜久さんは朱らんだ顔を両腕でおおいながらしゃがみこんだ。
聞き捨てならないんですが。

「他校の後輩なら、こういうこと、赦すんですか」
「その喩えは他に俺にこんなことするヤツいなきゃ意味ないだろ」
「まあ、そうですけど」
目線を近付けようと、俺もその場に片膝をつく。

夜久さんはちらりと一瞬だけ俺を視て、視線を床に落とした。

「勘違いしそうになったから不自然にならないように逃げたのに」
「勘違い……ですか」
「お前が、いつも俺を視てるから」
「俺が……?」
夜久さんを、視ていた?

ゆっくりと顔を上げた夜久さんは、さっきまでの慌てっぷりはどこへやら、
落ち着いた表情をしていた。

「なあ赤葦。
俺達が言葉を交わした事なんて、去年合宿で初めて顔を合わせてから今まで数える程度で
なのに何でお前は、俺のことをそんなに知ってるんだ?」
「それは、黒尾さんから話を……」
聞いていた、はず。
なのにどうして、具体的には、思い出せない?

「そもそも接点がないのに、俺はそんなに露骨には視線を逸らしたりも逃げたりもしてないのに、何でお前は俺に避けられてると思ったんだ?」
「どうして……?
それは、俺が」

ああそうか。
不自然だったのは俺の方だ。

「夜久さんを、足りないと感じた、から」

渇望。
もっと夜久さんが欲しくて。
掌から零れていくのを塞き止めたくて、
それが叶わないなら、どんな手段を使ってももっと視界に入りたいとそう思った。
避けられてたなら、それなりに意識はされていたようだけど。

夜久さんは俺の顔をじっと視ていたかと思うと、そっと小さく息を吐いた。

「熱心に視てくるのは、選手として注目してくれてんのかと思った。
俺はその熱さにやられて勝手にお前を好きになって、
けど多分お前は違うんだろうって思ってたから手遅れにならない内に遠ざけようとした。」

夜久さんの言葉の意味をちゃんと理解する前に、反射的に応える。
「試合してない時も眼で追ってました。
とっくに手遅れだったみたいです。
俺の方が」

……今、夜久さんは、俺を好きだとそう言った……のか?

「あの」
「拒めるわけないだろ。
こんな形でお前のキモチ知ることになるとは思わなかったけど」
「好きです」
遮るように、肩を掴み、視線を合わせてはっきり告げる。
「じゃ、ない相手に強引にキスするようなヤツじゃなくて良かったよ。
俺も赤葦が好きだぜ?」
「誰からのくちづけも甘んじて受け入れるわけじゃないんですよね?」
「そんな尻軽に見えるのか?」
「見えませんけど。
妙なところで甘い人だとは思ってたんで」




「黒尾に、赤葦のこと白黒ハッキリさせたいなら自由時間に独りでいれば? って言われたけど
本当に釣れるなんてな」
「黒尾さんが?
確かに、夜久さんと二人きりになれるのを狙ってましたけど」
「……」
「話をするために、です」
あんなことをしでかしたあとじゃ信用されないだろうけど。

のしかかるように抱き締める。
「っ、おいあかあし」
どがめるように名前を呼ばれるけど、このぐらいは赦して欲しい。
「合宿じゃなかったらキス以上の事もしたかったです」
「……お前、思ったよりがっつくタイプなんだな」
「俺も初めて知りました」
「……そっか。なんか嬉しいな」
回された手がぽんぽんと背中を叩く。あやすように。

「けど、さっき言っただろ?
黒尾に言われて独りでいたって」
「言ってましたね。
……まさか」
「まだいるかどうかはわかんねーけど、覗いてた可能性は高いな。
下手するとお前んとこのエース様と一緒に」
「木兎さんが静かにしてられるとは思わないので視られてたとしても黒尾さんだけだと思いたいです」
「部屋に戻ってニヤついてたら一発蹴り入れとく。
お前も木兎の様子がおかしかったらガツンと言っといた方がいいぞ?」
「そうですね」
どこかから視られていたと確信を持っているみたいな言いぐさだ。

「それなのに受け入れてくれたんですか?」
少し離れて顔を覗き込むと
夜久さんは、「おう」と、照れたように笑った。

「拒んでたら拗れてただろ?
逃げようとしたのはお前がどんなつもりで俺を視てるかわからなかったからだったからな。
まさか本人もわかってなかったとは思わなかったけど。
なら意図を察せられなくても仕方ないよな」
「そうですね。面目ないです」
「赤葦が変なとこで鈍いってわかって面白かったけどな。って面白がっちゃ悪いか。」
落胆されたりするより笑い飛ばされるぐらいですんで助かりましたけどね。

「俺は、好きなヤツから行動で意思表示されて、
今はタイミング悪いからまたの機会に、なんて流せるほど人間できてないんだよ」
「……夜久さん」
「ん?」
一番惹かれたのは多分この部分だ。
目に痛い程に眩しいぐらいの真っ直ぐさ。
自分を偽らない潔さ。
厳しいぐらいのそれは心地いいぐらいで、だから改めて言葉にしたくなった。

「愛してます」

「俺もだよ。赤葦」

夜久さんはきょとんとした後で、ニカッと笑った。




去年の合宿の前半の音駒は猫又監督もまだいなくて
三年生が、特に孤爪に対して風当たりが強い態度を取っていた。
それを、二年生の黒尾さんと夜久さんが風通しを良くさせて、海さんが場を和ませていた。
練習は、そんな威張っている風な最上級生より後輩達の方がずっと熱心で、真剣で、
来年に向けて準備をしているのだと、同じように本気だった自分達は気付いた。

けして良いとは言えない境遇で、腐らず前を、上を視ていたその姿勢に目が離せなかった。
この頃から既に、夜久さんを眼で追っていたんだと
思い返して、今になって気付いた。

インターハイ予選が終わった後はその三年生達は引退して
伸び伸びしていたのを覚えている。
その中でも夜久さんのスタンスはずっと変わらなくて、
後輩の面倒もみながら、バレーボールが出来ればいい、そんな感じで。

まさかそれが恋だとは、知らずにいたけれど。

| 小話;その他 | 06:57 | comments(0) | - | pookmark |↑PAGE TOP
bell the cat 【黒尾+夜久】
合宿と後輩(主にリエーフ)について。


かきたかったのはレセプションの下りなんですけどね。



+++++++++++++++++++




「すまみませんでした。」
机の両端に手を置き、目の前で深々と頭を下げ真剣な声音で謝罪の言葉を口にするクラスメイト兼部活の主将の姿に
夜久は右手に持っていた食べ掛けのあんぱんにかじりつくともぐもぐときちんとよく噛んでからごくんと飲み込み、
左手に持っていたパック入りの牛乳を飲んで口の中をすっきりさせてから
ゆっくりと口を開いた。

二人きりで昼食を食べたいと言うので何事かと思ったが、うん、本当に何事だ? と首を傾げながら。

夜久は遠慮なくパンをもりもり食べていたが黒尾はまだ全くの手付かずだ。
食事が喉を通らない、というのはまあ大袈裟だろうが、何か胸につっかえるものがあるのだと言うのならばそれを先に片付けてやるべきだろう。

そのためにはまず。
「何に対しての謝罪なんだ?」
そう確認しなくてはならない。
黒尾はがばりと顔を上げた。
表情はあまり変わらないが、
「そんなに謝られる心当たりあるのか?!
もしかして知らない間に気に障るようなことしてた?!」
と、声に焦りが見えた。
らしくない。
夜久は、ストローで牛乳をずずっと吸い上げながらひらひらと手を振った。
「逆、逆。
心当たり全くないから訊いたんだよ。
つかんな風に返すって事は何か後ろ暗いことでもあんのか?」
「ありません。
……けど、なんつーか、夜久に大分負担かけてるんじゃないかと」
「負担?」
「リエーフ」
「……ああ」
出てきた名前に、夜久は苦笑した。

灰羽リエーフ。
バレーボール初心者の一年生。
その長身が、音駒にとって今一つ欠けていた攻撃の決定力に繋がるのではと、
ある程度形になってからはスターティングメンバーに入っている。

だが、初心者だというこてを差し引いても、それ以前の問題だった。

スパイクが決まるようになるまでは監督の指示によりセッターである孤爪が面倒を見ていた。

それがそれなりになってからは、繋ぎのバレーが売りの音駒においてレシーブは大事だからと、
守備の要である夜久がその指導を行っていたのだが
灰羽は夜久の厳しい指導とレシーブの地味な練習があまり好きではないらしく、逃げ回る。
そうなると上達するわけもなく、時間も無駄に過ぎる。
春の大会の東京都予選までにはせめて人並み程度に磨きあげたいと夜久はより厳しく練習させ
灰羽は余計にレシーブを嫌がる。
それを夜久が怒る。
という悪循環が発生していた。

「けど謝る程の事か?
まあ基礎のレシーブ教えるのは俺じゃなくてもっては思うけど」
「いやいやいや。
夜久がきっちりしめてくれるからこそちょっとずつだけどレシーブ巧くなったんだと思うぜ。
合宿中にアイツのブロックみてて思ったわ」

今まで何度かあった合宿での自主練習では、
黒尾と梟谷の主将でありエースである木兎、副主将の赤葦の練習に混ぜていた。
最初はレシーブの練習をさせるつもりだったのだが、
なんやかんやあり、烏野の一年生二人もその常連に加わり、試合形式になったため
灰羽のポジションはミドルブロッカーで、ブロックもしっかりできなくては、と言うこともあってブロックを中心に教えることにした。
のだが。

「烏野のチビちゃんは普段もバレーの事でも真っ直ぐだし、
眼鏡くんも普段はツンケンしてっけどバレーの事に関しちゃめっちゃ素直なんだよな」
夜久は、すっと手を挙げ話を中断させた。
話の腰を折った形になるが、結構大事な事だ。
「その二人、俺はあんまり接点ないからお前の呼び方で覚えちまいそうだ。
顔はわかるんだけど、名前なんだっけ。
チビちゃんは研磨がよく話してくれるショーヨーでいいんだよな?」
合宿の最初に特に生徒達で自己紹介をしたりはしていない。
全員分、となると時間を取られてしまうからだ。
それでも特には困らない。
知りたいなら自由時間などに話し掛けて訊けばいい。
試合中に飛び交う声で、なんとなくはわかりもする。

「そうそう。チビちゃんは日向翔陽、だな。
眼鏡くんはツッキー……月島だよ。こっちは下の名前は知らないけど」
「まあ他校の選手のフルネームはあんまり知らないよな。
苗字さえ知ってりゃ困らないし。
試合で戦った相手でもチーム全員は知らないとか皆普通にあるよな」
「……ソーダネー」
夜久さんは中学一年生の時に試合で戦った俺の事を名前どころか存在すら覚えてなかったですよね、と
喉元まで出掛かったが呑み込む。
つまり中学一年生の時の黒尾は夜久にとってはその程度の存在だったのだ。
黒尾だって自分のチームに敗けた相手チームの選手の名前や顔を全部覚えているのかと訊かれたらあやしい。

それはさておき。

「初心者とか、これから巧くなりたいってヤツに一番大事なのって、チビちゃんや眼鏡くんみたいな素直さなんだと思うわけだよ。
こちとらセンパイではあるがちゃんとした指導者ではないし全部を鵜呑みにしろとまでは言わないけどな」

身長とセンスはあるが、技術はない。
目立ちたい、活躍したいという欲はあるが、そのための努力を惜しむ。
基礎が出来上がっていないのに自分のやりたいようにやりたがる。

それらは地盤が固まってからいくらでもしていい。
気質を否定するわけではないのだ。
目立ちたいというのなら思う存分活躍してチームに貢献してくれ。とさえ思う。
エースになってくれるというならむしろ大歓迎なのだが、
現実は今のところ口先だけで実力が伴っていない。
せめて全ての練習に真摯に向き合ってくれれば評価できるのだが。

勿論、自分で考えることも大事だ。
だがそれも経験や、基本を踏まえた上での発展形であるべきだと黒尾は思っている。
長い歴史のあるバレーボール。
細かいルールは変わり、けれど、ねっこは変わっていないのだから先人の知恵を活用しなくては勿体無い。

「リエーフは、まあ何かきっかけがあれば化けるかも知れないから根気よく鍛えるしかないだろうな。
出来れば俺達がいるときに開花して欲しいもんだけど」
そうなった姿を間近で観てみたい。
夜久は密かに思っていた。
なんだかんだで後輩は可愛いものだ。
調子に乗られると困るので、本人に向かっては言わないけれど。
厳しいのを好まない上に、褒めて伸びるタイプともまた違うので面倒この上ない。

「合宿でリエーフを混ぜてる木兎達との練習は俺も実になるけど
夜久は自分の練習削らせてだから悪いと思ってる」
「それで謝ったのか?
むしろリエーフの世話しなくてすんでる合宿中は芝山と他の学校のリベロとレセプションパーティ楽しんでるから気にするな」
「……ほどほどにな」

話には聞いていた。
練習後に百本サーブをノルマとする梟谷グループの中の一校である生川高校は
合宿中も練習試合の後サーブの練習をしている。
それに目をつけた夜久が、サーブレシーブの練習をさせてもらう許可を取り付けた。
最初は夜久と芝山だけだったのだが最終的には参加校全部のリベロが集結し、
さながらサーブレシーブ=レセプションのパーティのようだと言い出したのは誰だったか。
ちなみに生川の練習は、累計七本捕られる度サーブが一本追加されるシステムになったらしい。
五本だと追加されまくるため十本にしてくれと監督に頼んだ結果間を取ったとのもっぱらの噂だが真相はわからない。

夜久の表情を見ると、楽しんでいるのだと言うのが伝わり
それならなにより。と黒尾も思わず笑みを浮かべた。

普段の部活では灰羽のレシーブを指導していて
知り合ってから今までで一番イライラしているようで、はたから見てストレスたまってそうだと密かに心配していたのだが
自分なりの方法で憂さ晴らし出来ているのなら大丈夫だろう。
生川の選手達には御愁傷様と心の中で手を合わせておく。
尊い犠牲だった。

才能も一定以上必要ではあるだろうが、
練習も本番も楽しむ。
黒尾は、それが、天才の条件だと思っている。
だから黒尾の中では夜久は天才だ。
本人がそんなラベリングを必要としていないだろうし、誰かに同意して欲しいわけでもないので口に出したりはしない。

「謝ったのは、それもあるけど
同じ指導をしても身に付けてくのがチビちゃんや眼鏡くんばっかでごみ捨て場の決戦実現のためとは言え敵に塩おくりまくってる感じで
もし全国で烏野と当たって敗けるような事になったら悪いなーと。
先に、ね」
「気が早いな。
つーか万が一それで敗けたって怒ったりしないって。敗けるつもりもないけどな。
だって「全国制覇」……するんだろ?」

一年生の時に図らずも二人声を合わせて掲げた目標。
今またその単語で声が重なった。
今回は、黒尾が意図して乗せたのだが。

夜久は二年半前と同じように、
精悍さが増した貌で、
笑った。

春の大会、東京は全国大会に三校まで出場することが出来る。
それでも、叶うならば優勝してその先に歩を進めたい。
そのためには全国三本の指に入るエースの佐久早を擁する井闥山か
全国五本の指に入るエースである木兎率いる梟谷に勝たなくてはならないのだが。

場合によってはそのどちらかに敗けたとしても、全国大会に行ける可能性を残す音駒と違い
烏野は牛島のいる白鳥沢を倒さなくては全国大会の道は拓けない。

「ゴミ捨て場の決戦は俺も俺達の代で達成したいからな。
遠慮せずガンガン鍛えてやれよ。」
夜久にお墨付きを貰い、黒尾はホッと安心して、ようやく昼食に手をつけた。
夜久の方は食べ終わったパンの袋をくしゃりと丸めながら、
だとすると、と首を傾げる。

「そういう理由がなあ木兎と赤葦はなんで二人の面倒みてるんだ?」
「練習付き合ってくれてる礼とかじゃないか?」
「ああ……赤葦あたりはそうか。
木兎は単にしたいようにしてるだけだろうけど」
「やっくんのソレ木兎を貶してるんだか褒めてるんだかわかんない」
「褒めてるんだよ。
損得勘定ナシでそーいうのやっちゃうやつだよなあって」
「損得勘定まみれでスミマセンねぇ」
「それがお前だろ?
お前が木兎みたいだったら気持ち悪い」
「慰めてくれてんのか?
夜久、お前相当優しいよな」
「……」
露骨に厭そうな表情に変わった夜久に、
「なんでそういうリアクションなんだよ。
海や後輩連中からの言葉には素直に照れるクセに!」
と黒尾は憤慨するが、
姿勢を正し真顔になった夜久に
「黒尾、いつも御苦労様。
今の音駒のカラーはお前が主将だからこそだと思う。
お前が主将で良かった。」
と告げられ、腕で顔を隠して机に突っ伏した。
「……どうよ」
「スミマセン勘弁してください……」
隠しきれなかった耳が真っ赤に染まってるのを見て、夜久は複雑な心境になる。
思ってもないことは言っていない。
けれどやはり、自分達の関係には不似合いな言葉だとも思う。
引退か卒業の時まで取っておけば良かった。
夜久は孤爪とこっそり引退式か卒業式で黒尾を泣かせよう同盟を結成していた。
嬉し泣きの方向で。

その為にはやはり全国大会出場と、ゴミ捨て場の決戦と、全国制覇をやり遂げたい。
それがどんなに困難であろうとも。

顔を上げた黒尾の表情も引き締まっていて、
同じように決意を新たにしたことが見てとれた。

梟谷グループという形で繋がった四つの学校と、
その中の一校である音駒高校の猫又監督のはからいにより今年参加している烏野高校のバレーボール部で行われている合同合宿の隙間。

夏休みを利用した合宿は八月末で終わり、
その次、最後の合同練習は十月の頭。

その間の、ちょっとした出来事。
| 小話;その他 | 14:14 | comments(0) | - | pookmark |↑PAGE TOP
言伝てを届けましょう 【選抜チーム】
バレーボールしてません。男子高校生がわちゃわちゃしてる感じで友情とかで多分腐ってもない、筈。

大分前にネームを描いてみたもののいろいろ付け加えたくなったので文章になりました。

牛島さんと天童くんと夜久さん間の名前の呼び方については前作参照。



++++++++++++++++++


いい加減ミニゲームを始めたい、けれどそのためのチーム分けが決まらないと
主将である及川と副主将の夜久が顔を付き合わせ
あーでもないこーでもないと相談し始めた為
やることがなくなった他のメンバーは各各自主的に練習を始めた。

百沢は青根にブロックを教わり、
東峰はサーブの練習を始めた。
天童がどうしようかと悩んでる横で牛島が自分もサーブの練習をしようか、と動いたそんな時、
選抜チームが練習をしている体育館に、ひょこりと顔を覗かせた人物がいた。

最初に気付いたのは丁度その近くを歩いていた牛島だ。

「何か御用ですか?
……貴方は……」
見た感じの年齢と着ているジャージの色でなんとなくは予想ができたが、確認のため問い掛ける。
好好爺然とした笑顔を浮かべたその人物は
「音駒の監督をしている猫又という者なんだが。
邪魔して悪いな」
と名乗った。
牛島は予想が当たり、やはりそうか、と頷いた後で
「夜久がいつも世話になってます」
と深々と頭を下げた。

猫又は驚きながらもほうほうと愉しそうに笑みを深め
「若利くんいつから衛輔くんの身内になったの?!
逆! 逆!」
傍にいた天童が指摘した。
「逆、とは」
「フツー猫又監督さんが言うことでしょそーゆーのは」
「別に俺は夜久の世話をしていないが?」
「ソーダネーどっちかってーとされてる方だもんネー
ってそうじゃなくてー!」
「夜久に用事ですか?
呼んで来ますか?」
「聞いて! 若利くん!
……中に入って貰っていーんじゃナイ?」
自分の渾身の突っ込みをスルーされながらも、天童も猫又を気に掛ける。

猫又はゆるりと頭を横に振った。
「あまり交流のないメンバーの中でちゃんとやれているか気になっていたがどうやら問題ないようだな。
心配はしていなかったが。
ただこれを渡しに来たけだ。
急ぎではないが本人の為には早い方が良いと思ってな」
掲げて見せた書類サイズの封筒に、牛島は首を傾げる。
わざわざ持ってきたのなら急ぎの用ではないのだろうかと。
「それは?」
「課題だ。
選抜の練習で学校に出られない間のな。
授業に出られない分の宿題のようなものか」
「うひゃーそんなのあるの! 衛輔君大変!」
白鳥沢の二人はスポーツ特待生のためそういった課題はそうそう出されない。
だから、天童は大袈裟なまでに驚いたのだ。

「夜久に渡せばいいんですね?
では、俺がお預かりします。」
「いいのか?
ならお願いしようか」
「若利くん?」
その申し出を不思議がる天童に、牛島は夜久の方に視線を向けた。
及川と二人で顔を付き合わせて会議中である。
顔が見えなくても、真剣な様子が窺えた。

「あの話し合いは長くかかりそうだ」
「終わるまで待てそうにないが中断させるのも心苦しかったのでありがたい。
使い走りのような事を頼んで悪いな」
「いえ。お気になさらず。
任せてください」
きりっとした表情――は牛島の普段通りではあるが、それと力強い言葉に、猫又は安心してお願いすることにした。

じゃあ、と去っていった猫又の事に、その入り口に背を向けていた夜久は最後まで気づかなかったようだ。
それだけ話し合いに集中していたというのもあるだろう。

「若利くん、それ俺が持っていこうか?」
「請け負ったのは俺だ。
俺が責任を持って夜久に渡す」
「そお? でも別にいますぐじゃなくていんだろうしあの二人が離れてからでもいーんじゃないってもう行ってるし!」

天童は牛島には彼に対してあからさまなまでに敵意剥き出しな及川とはあまり接触させたくなかった。
少し過保護かなと思わなくもないが、
そういった感情に鈍感なのか慣れているのか頓着してなさそうな牛島だって、人間なのだから少しも傷つかないなんてことはないと思っている。
何かをきっかけに落ち込まないとも限らないため、なるべく目に見える悪意からは遠ざけてやりたい。
せめて、自分が近くにいるうちは。

試合の最中のそういった感情は負け惜しみだとかそういうものと天童自身はむしろ誇らしく感じるのだが。
牛島は畏怖されることに慣れているだろうが、及川のそれは嫌悪に近い。
同じチームにいるからか多少は軟化しているようだが。

しかし、明らかに夜久に向かって歩いていってる牛島を視認しながら
夜久の意識をそちらにいかせないようにしているのは。
「……いやまあ子供の意地悪程度だけどネーあのくらいは」
天童は、大事にはならないだろうと少し離れた場所で様子を見守る事にした。

「夜久」
「じゃあさー、こんなのどう?」
牛島の声に被せるように、及川はわざとらしく声のボリュームを上げ、かつ意識を自分に向けさせるような言葉を発した。
夜久はかすかに自分の名前を呼ぶ声が聴こえたのか振り返ろうとしたが、
及川が手元の資料を指したため視線がそちらに戻ってしまう。

「……」

もう一度、もっと大きな声で名を呼ぶ。

そうしても良かったのだが、牛島は、もっと手っ取り早い方法を思い付いた。
視界に入るように移動してもまた及川に妨害される可能性がある。
ならば。

意識を向けさせようと後ろから肩をぽんと叩いた上で、少し屈み
「夜久」
遮られないようにと耳許で名を呼んだ。
囁くように。

「ひゃいっ?!」
不意打ちで耳朶を擽った低音に夜久はびくんと背筋を伸ばすと、
その正体を確認するように身をよじり反転させながら口を寄せられた方の耳に手を当ててずさっと後退り牛島から距離を取った。

牛島は肩に置いた手をその形のままに、何が起きたのか瞬時には理解できず丸くした眼を瞬かせる。

夜久は、顔を朱く染めていた。
隠していない方の耳までも紅く色付いている。

「いっ、いきなり耳許で呼び掛けるな腰が抜ける! じゃなくて心臓に悪い!」

面白くないのは及川だ。
ちょっとした嫌がらせ程度の軽い気持ちで夜久に用があるらしい牛島を無視するような形を取っていたのに、
まさかの暴挙と夜久の反応に気分は急降下だ。
ほぼほぼ自業自得なのだが。
ちなみに、猫又の来訪には気づいていなかった。
牛島の用件がその橋渡しであることも。

なんとなく腹が立ったので
「ちょっと夜久ちゃん。
ウシワカちゃんにそのリアクションとか大袈裟過ぎない?」
牛島と同じように耳許でそう告げてみるが。
夜久は牛島の時と比べると平然ととも取れる態度で
「ならお前も若利の声で耳許で喋られてみろよ。
兵器だぞあれ」
と、あり得ない提案までしてくる始末だ。
「……まあ、声は悪くはないとは思うけどさ」
自分や夜久より数段も低い声質。
男らしいと言うか男臭いと言うか。

その事実がなんとなく気に喰わなくて、及川は独りでサーブの練習をしている東峰に目を向けた。
手を止めやりとりを眺めていたらしい東峰は、及川の意図を察し「無理無理無理無理無理無理」と高速で頭を横に振る。
意外と危機察知能力に長けているようだ。

ならばと百沢に実践を交えながらブロックを教えている青根に矛先を変え、手招きした。
素直な青根は、何事かとのこのこ呼び寄せられる。
残念ながら及川の企みには気づかなかったらしい。
わかっていたなら何か言われる前に東峰のように最初から拒否していただろう。

その間に牛島は猫又に預かった書類を夜久に渡すと言うミッションを完遂たせていた。
夜久は、猫又が来ていたと聞き、話せなくて残念だと少し落ち込んだが、それを天童に
「なになに衛輔くん監督大好きっ子なの?」
とからかうように訊かれ反論しかけたが
「俺も鍛治くん好きだけどね!
選抜練習の間逢えなくてあの怒声が聴こえないのが物足りないっていうか結構サミシーんだよねー」
と同意され、浮上した。
選抜チームには今のところ指導者は不在だ。
だからこそ主将の及川があれこれ頭を悩ませている。

「青根ちゃん。ちょっとお願いがあるんだけど」
「……?
!」
夜久に聴こえないようにとこそこそと告げられた言葉に、青根は顔色を変えぶんぶんと頭を横に振る。
「難しいことじゃないでしょ?
コミュニケーションの一環と思ってやってみてよ」
「……っ」
無茶な言い分だとわかっていながら、青根はこくりと渋渋頷いた。
これが同輩の二口であったなら嬉々としてやったのかもなと此処にはいない人物を思い浮かべながら。

青根はこれからすることに申し訳なさを覚えたのか巨体を縮こまらせながらそっと夜久に近づいた。
及川に言われた通りに、背後から。

そして意を決し
「……夜久、さん」
と名を呼ぶ。
「〜っ!」
反射的に耳を隠すように手でおおい振り向いた夜久の顔は真っ赤だった。
「あ、あおねか!」
驚いた、と脱力する夜久に、深く頭を下げて見せる。
「すみません」
「いや、いいけど。こっちこそ過剰に反応して悪いな。
何か用なのか?」
そう尋ねられ、青根は更に頭を低くした。
「……すみません」
「なんで?
なんにしろ頭上げろって用がなかったんだとしても別に怒んないから!
悪戯か? でもお前が自主的にそんなことするヤツとは――」
顔を上げた青根が視線で示すより早く、
夜久も牛島も天童も及川を凝視した。

「……ちょっとしたお茶目?
ったあ?!」
てへ、とおどけて笑う及川に一発ローキックをお見舞いし、夜久は「これでチャラな」と、まだ上気した頬のままで睨んだ。

痛みに蹲る及川を「大丈夫か」と労る牛島を、アレ及川にはある意味追い討ちダヨネーと横目で見ながら天童は
「衛輔くん低い声に弱いの?」
と尋ねた。
耳が弱いなら及川にも反応しただろうに、それはなかったようなので。
「若利のは初めてやられて耐性なかったからだと思う。
青根のは、聴き馴染みのない声に驚いて、更に青根だったってことに吃驚した」
「あー、まあそうかー」
「予期しない背後からの不意討ちはお前でも驚くだろ?」
「えー? どーかなー?」
「……ならいつか隙を見て試してやろうか、と思ったけど背伸びしないと無理だな……」
「残念でしたー」
「代わりを若利に頼むか」
「それはヤメテ!」

願いも虚しく、夜久は牛島に天童を呼びに行かせる機会が出来た時に
俺にしたように後ろから耳許で名前呼んでやれ、と助言した。
さして疑問も抱かず実行に移した牛島の声の破壊力に崩れ落ちた天童の姿に、
自分が犠牲者になるのを恐れた及川は牛島に耳ポソ禁止令を出した。

「だがみみぽその意味がわからない」
「そうか?
わかりやすいっちゃわかり易いけどな。
他人の耳許で喋るなってことだろ」
「……」
夜久に説明され黙りこんだ牛島を、天童は珍しい、と思い、もしかして、とまさかと思いつつ
「若利くんちょっと楽しかった?」
と尋ねた。

「……かも知れないな」

その返事に、夜久は及川に対し御愁傷様、と呟いた。
天童が牛島に及川に対し実行する許可を出す未来が見えてしまったがために。




【封筒の中身はなんでしょう】


猫又が持ってきた封筒を開け中身を確認した夜久は、思わず嘆息した。
「……やけに量が多いと思ったら、黒尾の分も入ってるのか。
一緒のクラスだし課題の内容同じなんだろうけど」
「あー。なんか、あっちのチームこっち以上に結構なカオスだもんね?」
渡す隙がなさそう、と夜久の言葉を拾った及川に、東峰は眉を下げる。
半分以上チームメイトで、騒がしいのが二人ばかりとその中の一人につられて盛り上がってしまうのがもう一人いるにはいるが。
「大地がいるのになあ……」
「岩ちゃんもいるけどそれだけじゃ止まらないみたいだね。
こっちのチームが大人しく思えるよ」
牛島はふむ。と唇に手を当て首を傾げる。
「……見習うべきか?」
「若利が? なんでそんな結論に?
めっちゃ見たいけどアレは真似しちゃ駄目なヤツだと思うぞ……」

夜久は、こうして軽口を叩けるぐらいに気安くなれた事を嬉しく思いながら、
真面目な後輩二人もこの輪の中に入れたいな、と、秘かに野望を抱いた。
| 小話;その他 | 06:35 | comments(0) | - | pookmark |↑PAGE TOP
穴で埋める 【紫火】
火神君と指輪の話紫火版。付き合ってる。
唐突に思い付いたのでとても短い。火神視点。

紫原くん誕生日おめでとう。



+++++++++++++++



なんだかんだあって、互いに意外と気が合うと気づいて仲良くなって
それが友情ではなく恋愛としてのそれだとオレが自覚するのとほぼ同時に向こうから告白されて
オレ達はライバルと友人の期間をさっさと終わらせ変にこじれる事もなくあっけなく恋人になった。

高校二年生のことだ。

とは言ってもアイツは秋田の高校に通っているし、
顔を合わせるのはアイツが帰省するときか大会の時かぐらいだ。

なんとなく誰にも、キセキだけじゃなくチームメイトやタツヤにも
オレ達が付き合ってることを言わずにいた。
紫原もそうらしい。

なんでも、
「なんでわざわざ他のやつらに知らせる必要あんの?」
らしい。
確かに、バスケすんのに必要ないわな、と頷いたら紫原は妙な表情をした。
「どーした?」
「ああ、ううん。
そーいや火神って自分の事とか訊かないと答えないなって思って」
「訊かれたら答えるぞ?」
「そーだねー。オレの質問に応えてくれなかったこととかねーし」
「だよな?」

紫原は何故か怒ったようになんなのアイツらバスケしてる火神にしか興味ねーの? とか呟いてるけど
オレもあんまり他の連中のprivateとか踏み込んでないし、
アレックスがいたし今は紫原もいるし、別に不満はない。

オレだって知りたくなったら訊くし。
だから紫原のことは色々知ってる。
紫原も、オレの質問にちゃんと答えてくれる。
「別に内緒にするようなことなんてないしねー」
だそうだ。

そんな紫原とのデート……会瀬? は、紫原が希望する
「誰にも邪魔されずに二人の時間を過ごせる場所」
として、オレの家が主だ。
外で逢うのはストバスとか他の連中も一緒の時で、コイビトらしいことは出来ないけど
家では別だ。
こんな時はオレを独り置いてアメリカに舞い戻った親父に感謝すら覚える。
まあ親父が日本にいたところで仕事が忙しくてあんま家に帰って来なかっただろうけど。
誰も帰ってこない確信があるのともしかしたら帰ってくるかも知れないってのとでは気の持ちようが違う。
人目をハバカラズ気にすることもなくいちゃいちゃ出来んのは、やっぱ嬉しい。

親父も身体のこと考えると戻って良かったんじゃねーかなって思う。
紫原の話を聴くに、どーやら日本よりアメリカの方が休みがしっかりしてそうだから。

そんな紫原だが、オレと二人きりの時は何故かやたらと穴の空いた食べ物を喰いたがる。

ドーナツから始まり、わっかのスナックだとか五円の形のチョコだとか
飯も、おかずはイカリングだとかオニオンリングだとか
味噌汁の具はわっかになった麩だとか
そういうのをやたらとオレに食べさせたがった。

自分で喰うんじゃなくて、オレに。

あんま種類がないらしくてそればっかってわけにはいかないみたいだけど。

「もんじゃやきは焼く工程の土手がそれっぽいけど食べるときは崩すかー。
あとあんま家ではつくんねーかなー」
「なあ。
そろそろ理由訊いていいか?
なんで形にこだわるんだよ」
「やっと訊いてくれんの?」
「質問待ちだったのかよ」
「自分から言うのはなんかヤだし」
結局話してくれんならどーでもよくねーか? と首を傾げると
「火神、相変わらず心の機微に疎いよね。
そこがいいとこでもあるけど」
と貶されつつも褒められた。……褒めたんだよな? 今の。

「室ちんの指輪がムカつくから」
「……?」
続きがあるもんだと黙って紫原を見つめると、
「以上。だけど」
って首を傾げ返されたけども今ので何をどう理解しろって?

けど紫原は口を閉ざしてそれ以上は話してくれそうもなくて、仕方がないから考えてみる。
タツヤの指輪がムカつくから?
それと何の関係が。
でも共通点はある、気がする。
「あー形?」
けど、そこまでだ。
指輪に似た形のものをオレに喰わせてどうしたい……んだ……

紫原が。
オレに、指輪に似た形の物を。

そう認識すると、途端に顔が熱くなった。

敗けず嫌いな紫原が、タツヤに指輪を貰ったことがあるオレに普通に指輪を渡すのが嫌で?
だから、なのか?

「半分アタリで半分ハズレ」
「あれ? オレ今口に出してたか?!」
「火神の顔見ればわかるよ」
「わかんのかよ?!」
紫原はオレと違ってドーサツリョクに優れてるからなくもないのか。

「オレが料理作れたらもっといーんだけど。
火神を中から侵食していきたくて。
せっかくだし、指輪に近い形のもので」
自分で作れない分、わかりやすく約束の証と謂われる指輪を選んだのだと。

真面目な表情で言う。
リアリストだと思っていた紫原が、意外とロマンチストなことを言う、と驚きそうになって
でもこれはリアリスト寄りかもなと思い直す。

なんだっていい。
紫原が、オレに与えようとしてくれてるものなら。

「でも、なら、オレからも紫原にやんねーとフェアじゃねーだろ。
そーゆーことは先に教えろよ」
「……ああ、うん」
「なんだよ?」
「いーや。
そーいやオレが好きになったヤツってこーゆーヤツだったなって、今更思い出しただけ。」
そう言いながら紫原は倖せそうに笑うから、
オレも嬉しくなる。

「なんなら今度から、料理とか、一緒に作って喰うか」
「……めんどいけど、待ってるのも暇だし
いーよ」
「自分で作るなら形好きにできるしな」

話を聞いたら、オレだって、わっかの形の物を紫原に喰わせたくなるのは当然で。

証は別に形がなくても在ることが出来るんだと、今になって、やっとわかった気がした。
| 小話;その他 | 06:23 | comments(0) | - | pookmark |↑PAGE TOP
強制エンカウンター 【木兎×夜久】
木兎←夜久…の予定でした。結果安定の木兎→夜久だった。
いつかリベンジします。

そして暗躍する黒尾。


木兎さん誕生日おめでとうございました。(大遅刻)



+++++++++++++++++++




同じように都内の学校に通っているのだから
学校帰りに遭遇する、というのは、むしろ今までなかったのが不思議なくらいだ。
お互い部活動で日が暮れるまで練習しているためタイミングが合わないのも当たり前ではあるのだが。

夜久と海が木兎達と出会したのは、都内の大型スポーツショップだったので
偶然と言えば偶然、必然と言えば必然だっただろう。

先に気付いたのは木兎の方だった。

「あっ!
おーい! やっくん!」
「ばっ、木兎! 店の中で大声出すなよ!」
ぶんぶんと手を振りながら嬉しそうに大きな声で見つけた相手の名前を呼ぶ木兎を、一緒に来ていた小見がたしなめる。
「ただでさえ木兎は目立つからなあ。
いるだけでも妙に存在感あるし」
猿杙はのんびりとした口調でそう呟くと
木兎の声に驚いた様子でこちらを視ている夜久と、
にこにこと笑みをたたえている海に向かいぺこりと頭を下げた。
挨拶と、謝罪の意を込めて。

そんな小見と猿杙の気遣いもお構いなしに木兎は小走りで夜久の元へと向かう。
全力疾走でないだけましかと思ってしまった二人は大分木兎の突飛な行動に慣れすぎて
感覚が麻痺してきているのかも知れない。

「あれ? 二人だけ?
黒尾は一緒じゃないんだ」
首を傾げる木兎に
「黒尾は別の買い物あるんだそうだ」
海がおっとりと応えた。
夜久も、木兎と一緒の顔触れを見て不思議そうな表情になる。
「木兎も赤葦が一緒じゃないなんて珍しいな」
「いやいや。赤葦に木兎の面倒見させてるのは基本的にバレーの事だけだって」
「行動範囲違うしな。
赤葦だって同級生とつるんだ方気が楽だろうし」
ゆっくりとした足取りで合流した小見と猿杙に言われ、夜久は自分が抱いていた先入観に気付いた。

「そっか。
合宿とか試合の印象強くてつい。悪い」
謝られ、木兎は「いやいやいや」と顔の前で手を振った。
「やっくんは別に悪くないぞー?
あかーしも一緒の時だってあるしな!
今日だって一緒にどうだー? って誘ったのに
『馬に蹴られたくないので遠慮します』なんてわけわかんねーこと言われて断られたし」
「馬?
……その言い方って……
木兎、他に誰かに逢う予定あったのか?
彼女とか、好きな相手とか」
赤葦の言葉を反芻し、意味を探るように問い掛けた夜久に、木兎は
「彼女なんていませんよ?!」
と慌てたように高速で首を横に振って否定する。

「買い物だけの予定ですけど?
あ、でもここに来たのは黒尾に『お前への誕生日プレゼントそこに行けばあるから。誕生日当日の放課後限定だけどな』って言われたからなんだけど……
どうせそろそろサポーター買わないとなって思ってたから丁度良かったんだけどさ、
店員さんに訊いてもそんなん知らないって言われたんだよなー」
「へえ、お前今日が誕生日なのか。おめでとう」
「……っ!
あんがと、やっくん。
……えへへ〜」
夜久に笑顔で祝いの言葉を告げられはにかんだのちでれっと相好を崩した木兎に、
瞬時にその想いを読み取った小見と猿杙は「あー……」と唸り
「成程。赤葦が言っていたっていう『馬に蹴られる』っていうのはそういうことなんだな」
海も理解してうんうんと頷いた。
他の誰かに祝いの言葉を言われたところで、あのような反応はせずに快活に笑うぐらいで終わっただろう。

あれは、誰が見ても、典型的な「好意を寄せている相手に思いがけない言葉を貰えて歓びを隠しきれなかった図」だ。

「じゃあ俺も邪魔だったかな。
黒尾は特に何も言っていなかったけど」
海は、二人を残して先に帰ってしまおうか、とも思ったが、お膳立てをしたのが黒尾であるなら最初から夜久独りで来るように仕向けただろう。
海はネタバラしをされても騒ぎ立てるようなタイプではないと知っている筈だ。
二年以上一緒に部活に汗水たらしている仲なのだし。

「いやいやそれよりいつから?」
小見は、気づいてたか? と尋ねるように猿杙を見上げた。
「木兎が夜久を、の方?
黒尾がそれを、の方?」
「両方だろ」
「合宿では普通、だったよな?」
「ああ、そう言えば」

海は、二人の会話を聴いて思い当たる節がある、とばかりにぽんと手を叩き、思い出すように斜め上の空間を視た。
「一週間あった森然での合宿の時、木兎と黒尾と赤葦君の自主練に後から夜久と後輩達と合流したことがあったんだけど
確かにあの時妙に二人がくっついていた印象が」
夜久から木兎にひっつくなんとことはなさそうだ、と小見は
「木兎が夜久に、ってことか?」
確認する。
「そうなるかな。
夜久にまとわりつきたくなる気持ちもわからなくもないよ。
夜久、きれっきれのスパイクを綺麗に拾ってセッターの位置まで上げたから」
「あー。ブロックに止められなくて、よっしゃ決まる、って時にそれだったらわかんなくもないかな。
木兎、ああ見えて結構エースとしてのプライド高いし」
頷く小見に、猿杙は逆に首を捻る。
「けど木兎ってブロックに止められたらコンニャロって思うタイプだよね。
レシーブで拾われてもそれは同じなんじゃ」

「「「…………。」」」

「潜在的に気になってたのがそれをきっかけに花開いた、ってとこかな?
ちなみに翌日から参加しなくていい、むしろしないでくださいって黒尾に言われたよ。
夜久だけにお前は来なくていい、って言わなかったのは優しさなのかな」
「あーだから木兎自主練のあと消化不良みたいになってた日があったのか。
前日上機嫌だっただけに何があったのかと思った」
「赤葦も微妙な表情してたのはその時点で気づいてたからかー」
成程納得。と三人は


木兎は商品を物色するのも忘れ夜久との会話を続ける。
「ここ、音駒の御用達の店?
やっくんよくくるの?」
夜久も嫌な表情ひとつせずそれに付き合った。
自然な動作で、他の客の邪魔にならないように木兎を隅に避けさせて。
「たまに来るぐらいかな。
普段はもっと近い店で済ますけど、ここ種類豊富だから、見るだけでも楽しいからな」
「なるほどー」
「あ、でも今日は黒尾に割引クーポン貰ったから来たんだけどな。
今日限定のやつ」

ぴら、と見せたチケットサイズの紙切れは、明らかに手書きのものだった。
黒尾に似た黒猫のイラストと共に、「二割引」と書かれている。

んん? と顔を近付けてじっくりと眺めた木兎は、木兎ですら
「……それ、黒尾が書いたもんじゃないのか?」
そうと気付いた。
夜久は首肯し割引券を制服のポケットにしまった。
適当に、ではあるがなるべく折れたりしないようにそっと。

「だろうな。
どう見ても正規のモンじゃねーし。
でも店員さんに訊いてみたらちゃんと使えるみたいなんだよ。
アイツここの店員と仲良いみたいだから、頼んだのかもな。
俺がこれ使って買い物したら割り引きされた分後で黒尾が支払うからとかなんとかで話つけてる、とか。
もしかしたら今店ん中にいるかも」
「まっさか〜
……まさかだよね?」
「まー確かめたりはしないけど。
つかお前への誕生日プレゼントってなんなんだろうな?
俺への一ヶ月以上遅れのプレゼントはコレだそーだけど」
「へー。
まー黒尾が俺にくれたいものはなんとなくわか……
一ヶ月前に、誕生日?」
「おー。」
「い、いつ?」
「八月の八日。ちょっとの間お前よりおにーさんだったな。
黒尾はもうちょっと年下だな」
楽しそうに告げる夜久に、木兎はあわあわと両手をわたわたさせた挙げ句、やっと
「お、おめでとうございました?!」
と言えた。
「おーさんきゅー」
「あ! なんか、プレゼント! あげたいです!」
「あげるなら俺の方だろ。今日誕生日のやつから貰えないって」
言った後で、「そっか……」としょんぼりと肩を落とした木兎に、夜久は悪いこと言ったみたいだな、と苦笑した。

あげたい、と言ってくれたのだから、素直にありがたく受けとるべきか、と思い直す。

「じゃあ、俺が欲しいのお前が買って俺にくれ。
お前が欲しいもの俺が買うから。
それでいいか?」
「おー! 名案だな!」
「ついでに黒尾がくれた割引券使おう。
二個までオッケーらしいから。
……黒尾のお前へのプレゼントももしかしてこれなのか?」
「……そーかもな」
木兎は多分違うと思う。と思いながら、頷いた。

この時間がプレゼントなんだろうなとあたりはついたが、
それを夜久に言うにはまだ少し、度胸が足りなかった。


「猿も八月の上旬だったのにな」
「まあ同じ部活だからってみんなの誕生日把握してるとは思ってないしねー。
八月下旬の鷲尾もスルーされてたし気にしてないよ。
木兎だし」
高校生にもなって、という気持ちもあるためおめでとうの言葉一つで充分、とも思っている。
小見も、猿杙と同じ感じだ。
くれるものなら貰いはするが。
そのあたりは、さすが女子とでもいうか、マネージャー陣が誕生日だからとお菓子をくれたりするが。
「木兎は自分から祝ってアピールしてくるからなー
末っ子だし」
それでもやっぱりあげるのはお菓子や菓子パンぐらいだが。



海が店員に尋ねると、その店員があっさりとバックヤードを教えてくれた。
許可を得て覗いてみると、店内でのやりとりを全て聴いていたらしい黒尾は困ったように笑いながら手を挙げて海を迎えてくれる。

「ああ、本当にいた」
「……夜久は視野は広いし読みも鋭いのに大雑把なとこあるよな」
「今回はそれどころじゃないからだと思うけどね」
「楽しそうでなにより」
黒尾としては、木兎の淡い初恋とやらを応援してやらないこともない、
ぐらいのスタンスだった。
夜久にはそんな気がなさそうだったし。
けれど。
「……意外とお似合いなのかもな」
「二人がくっついたら黒尾がキューピッドだな」
「あ、そーゆーのはいいわ」
ひらひらと手を振り自分の功績を固辞する。
そうなると決まったわけでもないのだし。




悩んだ末二人が買ったのは色違いのスポーツタオルで、
黒尾は思わず「女子か!」と突っ込みながら姿を現してしまい夜久やら呆れたような眼で見られることとなった。
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ミーティングをしてみましょう。 【選抜チーム】
作者選抜チームでチームとしてまとまるまでその4。
バレーボールは門外漢も甚だしいので間違ってる部分もあるかと…スミマセン…

多分最終目標は読者選抜チームとの試合。
Twitterチームは…勝った方とのエキシビションマッチとかですかね…(書くとは言っていない)
選抜チームじゃなくてドリームチームの方が一般的なんですかね?だが押し通す。


このシリーズは腐っていないつもりですが書いてる人間が腐っているので嗜好が透けて見えるかも知れません。
一応友情的な仲良しです。



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主に夜久が牛島のスパイクを完璧に拾おうと躍起になったことにより、
このチームで初めての練習だというのにやたらと白熱してしまった。

短時間でも消費した熱量が思いの外凄かったため
休憩がてらミーティングをしようかと七人で車座になって座った。

各各水分補給をしながら、練習中に思ったことを口にする。

セッターの及川はエースと呼ばれるウイングスパイカー二人にセットアップの確認をしていて、
夜久は天童に練習とは関係のない事を訊いていた。

青根は、頼まれていたこともあり、一緒にブロックに翔んだ百沢に何かアドバイスをしなくては、と普段あまり開かない口を動かした。

一番気になったのは、やはり。

「百沢。難しいかも知れないが天童さんの動きにつられないようにしろ」

天童が得意とするのはゲス・ブロックで、他のブロックとは連動せずに独自の動きをする。
天童の経験からくる先読み能力と勘があってこそのもので、初心者の百沢が一朝一夕で真似できるようなものではない。
だから、百沢は青根のブロックを参考にして合わせるように、と及川と夜久が口を揃えて言ったのだ。
牛島も隣で深く頷いていた。
それだけ、天童のブロックは特殊だった。

青根の指摘に百沢は神妙な表情で頷く。
「頭ではわかってはいるんですが。
視界に入るとつい一緒に行かないとと身体が付いていってしまって」
味方をも翻弄する動きをするならば敵には更に厄介に映るだろうが。
味方との連携のため、チームメイトの動きを視ることも間違いではない。
だがそのせいでつられてしまうなら。

「……コート向こうの相手を気にするように心掛けろ。
お前の身長なら少しぐらい遅れても問題ない。
まずはリード・ブロックがしっかりできるようになれ」
「わかりました。」

その様子を、青根の人見知りを心配してこっそりと見学に来ていた伊達工業高校の現主将二口が
「あの青根がほぼ初対面の後輩に指導してる……!
この調子で人見知りしなくなるのかなーそれはそれで淋しい気も……!
青根には変わらないでいて欲しいようなでも誤解されっぱなしもそれはそれで腹立つような!」
感激しているのかなんなのか複雑な心情を吐露していた。
黄金川にアドバイスもしたりしていたが、あれは同じ学校の後輩だからできるのだと思っていたので、驚きもひとしおだった。

なんとなく一緒に付いてきていた女川の
「顔とガタイと無口とロックオンで第一印象良くないけど青根はお前の十倍はイイヤツだもんな」
との言葉に
「青根は俺の百倍はイイヤツだぞ!」
と返したのは謙遜でも誇張でもなく本気でそう思っているようで、
女川は、うちの新キャプテンは思ってることを素直に口に出しすぎるんだな、と妙に感心した。

各自の確認を終えると、全員で対戦チームの情報を確認する事にした。
今回のこのチームが編成されたのは、
同じように各校から集められたもう一つのチームと戦う為なので
傾向と対策はある意味立てやすい。
同じ学校の線選手が二つのチームにバラけているため
ある程度お互い手の内を知っている。

烏野は選ばれた他校の選手とは試合での交流があるが
全国区ではない学校があるため東京勢は宮城の、宮城勢は東京の選手のことに疎かった。
そのため、手始めに選手についての情報交換を始める事にした。

全く情報のない黒尾も気にはなるが、
まず警戒するべきはスパイカーとして全国五本の指には入ると囁かれている木兎の方だろう。

「夜久ちゃん、梟谷の木兎ってどんなスパイカー?
雑誌ではちょいちょい取り上げられてるけど実際戦ってみた感触としてさ。
合宿とか、よく一緒にしてたんだよね?」
及川に尋ねられ、夜久は首を傾げた。
「合宿は今年は烏野……東峰も一緒だったぞ?
それに木兎は全国区の選手だし牛島だって知ってるんじゃないのか?」
名指しで訊かれたのが不思議だったようだ。
東峰は、「うーん」と唸りながらぽり、と頬を掻く。
「でも、夜久くんの方が付き合い長いだろうし俺はそれこそ雑誌読めばわかるような事しか言えなさそうだし、
俺も夜久くんの見解を聞きたいよ」
「ウシワカちゃんが知ってるような事は夜久ちゃんも知ってるだろうから一人に訊けば充分かなって」
東峰とは違いあからさまな言い訳に、夜久は
「目ぇ逸らすな及川。情報源は多い方がいいはずだろ」と突っ込む。
「東峰だって目の当たりにしたんだろ? 木兎のしょぼくれモード」
「う、うん。って、あれっていつもなのかな? あの時だけじゃなくて?」
「梟谷のやつら全然乱れなかっただろ?
頻繁ではないけどよくあるぞ。
なかなか直んねーみたいだし、即席チームならたち直させるのに手間取るかもだから
もしかしたら木兎を崩せば結構な穴になるかもな」
けど、俺以上に木兎を知ってる黒尾がいるから意外とすぐなんとなかるかも知れないけどな、と付け足す。

「メンタルに左右されやすいんだね。
岩ちゃん……と、ウシワカとは違ったタイプのエースなのか」
「技術はあるんだよ。
超インナーとか撃ってきやがるし」
練習試合で実際に視た東峰は「ああ」と思い出しながらうずうずと手を動かした。
スパイカーとして、あんなスパイクを撃ってみたい、と思わせたソレ。
「あれは凄かったなあ。
本人はまぐれって言ってたけど」
「地力がなきゃまぐれでも成功しないって」
「ああ。調子に乗った木兎は、相当手強い」
牛島も夜久に同意する。
「牛島さんがそういう程の選手なんですね」
「まがりなりにも全国区の強豪校のエースだからな。」
「別の意味で調子に乗ると逆に崩す隙になるんだけどな」
百沢の言葉に牛島は頷き夜久は苦笑した。

「あと、何度も練習試合してて気づいたのは、
木兎は結構リバウンド使ってくるってことかな」
「……リバウンド」
青根がその単語にぴくりと反応する。

リバウンドは乱れたトスでのスパイクを決めるのを避けるために、わざとブロックに当てて弾き返させ立て直す、という戦法だ。
ブロックをいいように利用されるプレイだけに気になったのだろう。

眉間に皺を寄せる青根に、夜久は「でも」とにやりと笑って見せる。

「そうとわかってれば対処のしようがあるだろ?
このチームのブロックの要はお前だ。
青根、叩き落としてやれ」
「……!」

夜久のその言い方と、表情を視て、あまり似ていない筈なのに青根の脳裏には同級生の顔が浮かんだ。
具体的には春の大会の予選の時に青葉城西高校と戦ったときの、モーションがバレバレなのにツーアタックをやりたがる黄金川に「ぶっ叩け」と助言した時の二口の顔が。

ので、思わず勢い良く、いつものコクリと頷くのではなくぶんっと頭を縦に振っていた。
心なしか、嬉しそうな表情で。



会話が聴こえていない分、二口にはそれが衝撃的な光景に映った。
「青根があんなに楽しそうに……!
嬉しいけど悔しい、なんだろうこの気持ち!」
「……二口お前、もういっそ青根の保護者として傍にいさせて貰えば?」
「保護者じゃねーよ茂庭さんじゃあるまいし!」
「今日お前なんかいつも以上に面倒臭い」



一方、もう一つのチームのミーティングでは黒尾が木兎に問い掛けていた。

「木兎、お前たまにリバウンドするよな。
まー梟谷はお前だけじゃなく木葉とかもやるけど」
「おー。
やっぱ万全なトスで気持ちいースパイク撃ちたいからな!」
「影山クンのトスなら問題なさそうだけどな。
まあイレギュラーは起きるもんだしやりたくなる場面もあるだろうけど、
あっちのチームと戦うときは、それ封印な」
「なんでっ?!」
「あっちにブロックの名手がいるならほぼほぼ叩き落とされるだろうからだよ。
自分でも言ってたろーがリバウンド狙っても落とされたりするって。
もしくはリバウンドにならずに向こうのチャンスボールに変えられるか。
夜久から情報行ってるだろうしな」
「巧く対処されるとは限んないじゃん!」
「巧く行かなくても絶対にしょぼくれモードにならないってんならやってもいーけどな」
「ぐぬぬ……!
つかしょぼくれモードってナニ! そんなのになった覚えありませんけど?!」
「まじか」

黒尾と木兎のそんなやりとりを聞いていた澤村は
「なってた自覚ないのか……」
それを受け入れてる梟谷は凄いな、とよくわからない尊敬の念が生まれた。



「俺が木兎のリバウンドの情報をこっちにリークするだろうって黒尾が読んで木兎に忠告するだろうからもしかしたら使ってこないかも知んないけど
木兎のことだからそういう状況になったら言われたこと忘れて使ってくると思うから
トスが合わなさそうだって思ったらリバウンド来るかもって心づもりだけしといてくれればいいから。
リバウンドだと軟打になるだろうし避けてくれたら俺が拾うし」
「夜久ちゃんと黒尾くんてなんなの?
二人で違う読み合いゲームでもしてんの?」
「黒尾のいるチームには敗けたくないだけだ」
「え、仲悪いの?!」
「別に悪くはないけど、本気の試合で敵味方に分かれるなんてシチュエーション滅多にないからな。
どうせなら黒尾に勝ちたい」
「……仲悪いの?」
夜久の好戦的な笑みに、及川はますます首を傾げる。

夜久が対抗意識を抱くとしたらリベロである烏野の西谷に対してだと思っていた。
普通は同じポジションや対峙するポジションの選手を倒したいと思うものではないのだろうか。
ましてや夜久と黒尾は普段はチームメイトなのだ。
少なくとも及川は普段トスを上げる相手である岩泉に対してやっつけてやるとは思わなかった。
けれど。
「……いや、それにしては楽しそうか。
なら、ちょっとは気持ちわかるかな」
仲が悪いのではなく、良いからこその闘争心なのだとすると理解できなくもないか、と思い直した。

牛島は夜久の燃えるような瞳に眼を奪われた。
さすがにお遊びとは思っていないが、
牛島は互いに即席チームなだけにどうしても公式戦と同じだけの緊迫感は持てずにいた。
けれど、夜久はかなり本気だった。
もしかしなくても、と牛島は口の中で呟き、
「……相手に絶対に敗けたくない、と思う気持ちは、このチームの中では夜久が一番なのかもな」
勿論俺も敗けるつもりは毛頭ないが、と付け加える。
天童はウンウン若利君も相当な負けず嫌いだよネーとにこにこと笑った。

けれどならば腑に落ちる事もある。

「だから衛輔君は最初から積極的にチームまとめようとしてたのかもネ」
勿論及川も影山に対し絶対敗けたくない気持ちはあるだろうし青根も日向を止めたいと闘志を燃やしているようだ。
だがそれは他校の選手相手で、少なくとも一度戦った事があるからこそ芽生えるものだとわかる。
黒尾と夜久は同じ学校のチームメイトだ。

「工も若利君と違うチームで戦うってなったらあのぐらい闘志燃やすかもネー。
衛輔君と違って工はやる気が空回りしそうだけど」
天童が楽しそうに話す仮定に牛島はふむ、と納得しかけ、首を傾げた。
「……もりすけくん?」
「あ、そこ引っ掛かるの?」


青根が真面目に百沢にブロックのことについて話しているとき
夜久と天童が話していたのはプレイとは全く関係のない話だった。

「白鳥沢って皆牛島のこと下の名前で呼んでるのか?」
「そうダヨー。
ナニ? 夜久クンも若利君のこと若利君て呼びたい?
呼んでも大丈夫だと思うヨー?」
「いや、そうじゃなくて、なんつーか、俺とにとって牛島って全国三本の指に入るエース、ウシワカって印象だし
本人もストイックっつーかバレー馬鹿って感じだしで
同級生でチームメイトでも名前で呼ばれるタイプだと思わなかったっていうか」
「意外だった?」
「いい意味でな。
牛島とお前しか人となり知らないけど、お前ら二人を見ただけでもいいチームなんだろうなってわかるよ」
「……衛輔君はあんまりチームメイトから名前で呼ばれてないのかな?」
「苗字の方が短いし呼び易いだろうし。
その呼び方は烏野のリベロはしてくれてるけど」
「俺ヒトのこと結構名前呼びするから衛輔君て呼んでもいい?
なんなら衛輔君も覚って呼んでくれて大丈夫ダヨー!」
「そうだな。手っ取り早く距離が縮まった感じになるからそうするか」
夜久は音駒の後輩を研磨やリエーフと名前で呼んだりもしているのでその事に対してハードルの高さは感じなかった。
「あ、でも他のヒトのことは別に苗字のままでも構わないよ? 及川とか!
若利君と俺の事だけでいいからねー」
「……覚、お前、及川嫌いなのか?」
「別に嫌いじゃないヨー?
及川が若利君のこと毛嫌いしてても若利君があんまり気にしてないみたいだから
俺が代わりに及川が若利君にしてるみたいな態度取ってるダケ」
「わかりやすいけどわかりにくいな」

そんな話をしたのだと天童は夜久を伴って牛島に報告した。
「そんなわけでこれから衛輔君も若利君のこと若利君て呼ぶけど別にいいよね?」
「ああ。断る理由はない」
「俺のいないとこで決定事項にするなよ……覚」
「ふむ。天童が名前で呼ばれているのを聴くのは新鮮だな」
「若利君、俺の名前知らなかったとか言わないよね?」
「大丈夫だ。一瞬誰の事かわからなかったがすぐに理解できた」
「うん、若利君にしては上出来かな」
「お前らの関係面白いな」
生真面目な牛島と軽妙な天童の会話に、夜久は思わず吹き出してしまった。
誰が選んだのか知らされていないが
チームを編成した人物が人間関係をも考えての事だとしたら
その中に混ぜてもらえたことを感謝したいと思えるぐらいには
夜久は微妙に絶妙なバランスのこのメンバーのことを気に入っていた。

「そう言えば天童は監督のことも名前に君づけだったな」
「それを赦す監督もすげーな!」
「……鷲匠監督は、いい監督だ」
牛島がしみじみと口にした言葉は、ずっしりと重く響いた。
「鍛治くんが聴いたら泣いて歓びそうなコメントだね!」

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